93話 屋敷を購入したのでダンジョン化させました
テオの屋敷を購入して俺はさっそく【ダンジョン化】を発動させる。すると物件一覧の『屋敷』という項目が『大魔王の屋敷』と変わった・・・ずいぶん単純な名前なのだが、大魔王って文字が最初に来るとダンジョンっぽくなる気がする。
この屋敷が俺の物となるとゾアはサッと立ち上がり、外に出る準備をした。
「そんじゃ、ワイらはさっそく作業に取り掛からせてもらうで。一度あの刻印の処理をした後に色々と機能を追加させてもらうが、【温度調整】の他に【湿度調整】、【照明魔法】でええか?」
「なら、防犯用の装置も設置しておいてくれ。一応ここは交易にとって重要場場所だからな。泥棒とか来たら面倒だ」
「了解したで・・・ほな、ワイトいくぞ」
「はい」
ゾアはワイトを連れてすぐに作業を開始する。久々の二人の時間なんだし任せておこう。ワイトがいるから変な機能はつけないだろう・・・・多分。
「さて、それじゃあこっちも繋げるか」
俺も仕事に取り掛かることにして転移門を展開させる。転移門はリズアの農場エリアのすぐ近く、そしてトレスアールの別荘にある転移門にも繋げる。これで、自由に行き来することが可能になった。
「ほい、転移門はこれで完了だ。才、品の運び込みは今日じゃなくていいんだよな?」
「ああ、正式な調印が決まってからで構わないが、できれば今日の夜会の前にいくつか持ち込んでほしいんだ。用意してくれれば使いの者に取りに行かせる」
そういえば、夜会を開くって言っていたな。その時の料理をオリジンの食材で作るわけか。
「分かったそれじゃ必要なものをリストアップしてくれ。アルラ、こっちに来てすまないが、一度リズアに戻ってフロアボスたちに報告と食材の調達、運搬準備を頼んでいいか?人員は必要な分だけ動かして構わない」
「かしこまりました」
よく考えてみたら、アルラ達はリズアで待ってもらって俺が門を開いたときに連れてくれば良かったんじゃないか?と今更思ったがまあ楽しい旅だったし、アルラとゾアも休日は必要だ。ここにいる間はテオで色々と観光を楽しんでもらおう。
「皆さん、お茶とおやつを用意しました」
気が付くとキッチンの方から香ばしいクッキーと紅茶を運んできたヘレンさんとランカがやってきた。
「おいしそうですね・・・これ、ヘレンさんが作ったのですか?」
「はい、料理もできますがお菓子作りには特に自信があります」
「ヘレンの【料理スキル】はレベル6、加えて【細工スキル】も5で細かい調理とかが得意なんだ」
なるほど、確かによく見るとクッキーの模様とかすごくきれいで芸術品みたいなお菓子。正直食べるのがもったいないと思えてきた。・・・そんなことをお構いなしにプラムや護衛組は食っているが。
そんなこんなで俺たちはヘレンさんのクッキーと紅茶と堪能しながら雑談で時間をつぶしていた。
「そうだ、コウキ忘れていたんだが。ゾア達に種族を隠すサブアカウントを用意してもらえないか?」
「え?どうして?」
いきなり、ゾア達にサブアカウントを作るように言われて何故かと聞いた。
「実は、城でかなり噂になっているのですよ。『伝説のダークエルフがいる』、『花の妖精のような可憐な少女を見た』など・・・この世界ではダークエルフは絶滅した種族、植人族や屍人族なんかはまだ知られていない人種なのです」
へぇ・・・そういえば、トーマスがゾアを始めて見た時もすごく驚いていたな。ダークエルフってそんなに珍しいのか?
「ホワイトリーは肌の白い少年としか見られていないから気づいている人は居なかったが正直、知られるだけでもかなり面倒なことになる・・・特にあいつに屍人族がいると知られたら・・・・」
才とスイちゃんは心当たりがあるかのように不安そうな顔をした。
「まあ、種族を変えるだけなら簡単にできるからOKだよ」
「そうか、勝手な要望ですまないと思うがこれもお前たちのためでもあるんだ」
才がホッとした様子でソファに身を委ねるように座る・・・そんなに大変なことなのか?
「一応、全員人間で良いのか?」
「まあ、プラム・グローブは問題ないか。ドワーフは少数ではあるがテオにいるからなゾアもエルフの姿になっていれば問題ない」
なるほど、世間で知られている種族になっていれば問題ないわけか。
「これってやっぱり、種族の差別みたいなやつ?」
「ん?まあ、魔人族に対してはそういう視点を持つ奴はいまだにいるが・・・そうじゃなくてな。俺たちの知り合いに危険人物がいてな・・・正直そいつにお前たちを合わせると面倒なことになる」
才の反応からして相当面倒な奴なんだろうな・・・
「一応、名前だけ聞いていいか?」
「メドウ・ローリン・・・ギルドの生物研究の第一人者。簡単に言うと変人だ」
才でもが変人と呼ぶ人物・・・物凄く興味があるが、物凄く関わりたくない気がしてきた。
「分かった・・・一応気を付けておく」
「才様、そろそろ時間です」
「ん?もう時間か」
「どうかしたのか?」
「仕事だ、これから夜会の最終確認をしないといけなくてな・・・っで、これがお前たちの招待状。一応全員参加できるから好きにしたらいいさ」
そう言って、才からかなり豪華に装飾された手紙を手渡される。
「そういえば、夜会って何か用意しないといけないものってあるのか?土産みたいなものとか?」
「別にお前たちは何も持ってこなくてもいいんだが・・・・いや、あいつらに一泡吹かせる絶好のチャンスだな」
才がそう呟くと悪戯っぽい顔をする。
「オリジンの品を用意してくれ・・・できれば姫の喜びそうなモノ。夜会には城の者が迎えに来るからそれまで自由にしていて構わない」
なんかいきなり誕生日プレゼントを用意してくれと依頼された気分だが、物資はすぐに用意できるから問題ない。
「分かった、才は夜会に参加するのか?」
「一応、この国の大公だからな・・・半強制的に参加させられる。あといくつかの料理も任されている」
若干うんざりした顔をする才・・・だがあの料理がまた食えるんだ、是非とも頑張ってほしい
「分かった、それじゃあ夜会で」
「ああ、食材の方はよろしくな」
そう言い残し、才とスイちゃんは帰っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから俺たちはしばらく自由時間として各自自分たちのやりたいことをやらせていた。プラムはさっそく姫の服を作るために色んなデザインを考え始め屋敷の自室に閉じこもっている。
グンナルとランカは体を動かしたいのか外に出て稽古を開始、軍服の性能とか色々と試したいらしい。ランカは俺の隣で昼寝、兼護衛。俺は執務室として使うことになった部屋でダンジョン化させたこの屋敷のマップを暇そうに眺めていた。
「コウキ様、何かお手伝いすることはありませんか?」
ジェームズがそっとティーカップに紅茶を注ぎながら言ってきた。手伝いね・・・才からの依頼品リストは先ほどアルラに送信したから今は彼女が品を用意するのを待つしかないんだよな。
寝室とかも家具とか一通り揃っているから動かす必要ないし、正直俺も暇なんだよな。
「ん~アルラから品が届くまで特に無いんだ」
「そうですか、何かありましたらすぐに呼んでください」
そう言ってジェームズは一歩引いた位置で待機する。ヘレンさんは食器の片づけ、コリーは屋敷の掃除・・・今この部屋にいるのは俺とランカとジェームズだけ。
「そうだ。ジェームズ、テオのことを色々と教えてくれないか?今日は夜会だけど明日とか色々と観光する予定だから」
「観光ですか・・・でしたら温泉が有名ですね。ここの温泉は非常に高い効能があり、湯治にくる冒険者も多いそうです」
温泉か・・・その辺はもうトレスアールで堪能しているんだよな。
「えーと、できれば温泉以外で。特に娯楽関係とか」
「そうですね・・・ここは王侯貴族が多いせいもあって娯楽関係はかなりお金がかかるものが多いです。ギルドの管理下で競馬やカジノが運営されています」
賭博関係はギルドの管理下かよ。
「ギルドがそんなのを運営しているのか?」
「はい、サイ様・・グランドマスターが『怪しい金が動きそうな場所はすべてギルドで管理した方が良い』と提案して現在に至ります。そのおかげもあって、そう言った場所では悪い噂はあまり耳をしません」
どこかの小説にも似たような話を聞いたな。人間は娯楽に飢える生き物、抑え込むことができないのならこっちから管理した方が良いという考えだったはず。
「ということは遊郭とかもあるのか?」
「え?ええ・・・確かそういうのも歓楽街にあります」
まじかよ・・・俺あっちの世界で一度もキャバクラとか行ったことないからすごく興味あるんだよな。男だったら一度は行くべき場所だ!
リズアにもそういうの作ろうかと思ったが、子供の目もあるから却下にしたんだっけ。
今は金もあるしちょっとくらい・・・ああ、でもエイミィにバレたらヤヴァイ!
「コウキ様はそういうのにご興味が?」
「・・・いや、今のは聞かなかったことにしてくれ」
「・・・は、はあ」
ったく、俺は何を考えているんだ?今日初めて会った人に『キャバクラは無いのか?』とか、俺はそんなに色欲まみれていないぞ!むしろ健全エイミィ一途!
『コウキ様、今よろしいでしょうか?』
「あ、アウラか・・・どうした?」
『え?・・・はい、指定の荷物が揃いましたので今からそちらへ向かいます。あと、エイミィ様がプレゼントにと献上する品もこちらで用意してもらいました』
「そうかありがとう・・・」
危ない危ない、妙なタイミングでアルラから連絡が来てびっくりした。とりあえず、キャバクラとかは観光の名目でちょっと見ていくことにしよう。
「ジェームズ、アルラが荷物をこっちに運ぶそうだから一緒に手伝ってもらえないか?」
「かしこまりました」
とりあえず、この空気をなんとかしたいのでジェームズに仕事を手伝ってもらうことにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・アルラ、これ多すぎないか?」
「エイミィ様が『自国の強さを証明するために多めに持っていきなさい』と言っていたのでこの量になりました」
目の前に積まれている食糧は才の指定した数の約倍。あいつ、余計なことを。こんなに渡せるかよ。その他に技術開発部門の魔法具や生産部門の畜産物なども届いている。
「仕方ない、指定した数だけ分けて、残りは倉庫に入れよう。ゾアの整備が終わったらすぐに運ぼう」
「了解しました・・・ゾア様はまだ戻られていないのですか?」
「ああ、結構時間がかかっているみたいだ」
俺たちがそんな話をしていると、噂をすればなんとやら・・・ゾアとワイトが付かれた様子で戻ってきた。
「お帰り、刻印魔法は終わったのか」
「もちろんやで・・・ワイにかかれば刻印の処理も設置もチョチョイのチョイや」
その割には時間もかかっているし疲れた様子だな・・・ワイトも顔色があまりすぐれないようだ。
「ワイト、かなり疲れているみたいだが大丈夫か?」
「ああ、ちょっと魔素酔いをしただけなんで少し休めばすぐに元気になるで・・・ワイもちょっと魔力使いすぎたので疲れましたわ」
「そうか、お疲れ・・・少し休んでいな。夜会までまだ時間があるし」
「・・・ほな少し休憩させてもらいます・・・あ、コウキさん倉庫はコウキさんのモニターから操作して開くことができる設定にしましたので確認してください」
そう言って、ゾアとワイトは吸い込まれるように寝室へ入っていった。
俺がモニターで確認すると確かに新しい欄に『倉庫』が追加されていた・・・いつの間に。
「お二人共、かなりお疲れみたいですね」
「そうみたい・・・さて、倉庫もできたみたいだし俺たちもやるとするか」
外で稽古をしていたランカとグンナル、ヘレンとコリーも呼んで作業に取り掛かる。
「ほぉ・・・これがコウキ様の故郷の野菜ですか。とても素晴らしいです」
ヘレンは野菜を見ながら目を輝かせた。
「一応、残りは全部倉庫に入れる予定だから。それらは全部ヘレンが自由に使って良いよ」
「良いのですか?腕がなりますね」
食材を見て嬉しそうにするヘレン。だが残念なことに今晩は夜会だから食事はできない。
「なるほど、サイ様が欲しがるのも納得の品ですな・・・どれも品質が良いものばかりです」
商人としての勘が騒ぐのかジェームズもマジマジと品を見ながら分けている。
「それじゃあ、残りは倉庫に運ぶとするか」
俺は籠に詰めた野菜をもって倉庫がある場所へ向かう・・・だが、そこには俺の知っているレンガの倉庫は無かった。
「あいつらやりすぎだろ・・・・誰がここまでやれと言った」
レンガ倉庫はゾアの魔改造によって見事な鋼鉄要塞へと変貌していた。
とうとう投稿部数、100部になりました!これからも応援よろしくお願いします。