8話 ダンジョンの品を売ったら面倒なことになりました
「おや?お兄さん見ない顔だね。旅人かい?」
俺に声をかけてきたのは、全身鎧で覆われた大柄な兵士だった。
「え?ええ、先ほど森を抜けてたどり着きました」
「ほぉ、あの森を抜けたのかい。ってことは冒険者かな・・・いやー、いいね。おばさんも昔は旦那と一緒に旅をしていたもんさ!」
「お、おばさん?!」
俺が驚いた様子を見ると、兵士はヘルムを外し素顔を見せた。確かに40代ぐらいのやや肥満体型の女性の顔だった。見るからにお世話好きなおばさんの顔だった。
「こんな年増の女が門番ってのは珍しいかい?」
「い、いえそんなことはないです!」
まあ、今までこういうファンタジー系の話に登場する兵士といえば、男か若い女性というのがお決まりだったが、まあ世の中そんな定番なんてないよな。・・・セリフはテンプレだったが。
「あ、そうだ。ステータスを見せてもらえないかい?一応決まりなんでね」
「あ、はいこちらです」
俺は言われるままに、おばさん兵士にステータスを見せた。もちろん称号は見えないようにしてある。
「『ノソフ』出身・・・あんたあの森の住民かい?」
ノソフとは、ダンジョンの周りにある大樹海の名前である。俺がこの世界にやってきた時に出身登録が済まされたらしい。エイミィ曰く、あの森にはいくつかの集落や隠れ里が存在するから知られても問題は無いらしい。
「ええ。今は駆け出しの冒険者として旅をしています」
適当な設定を言って話を流した
「そうかい、じゃあ目的はギルドかい?」
「はい、聞いた話ですと道具などを買い取ってくれるそうですね」
事前に町のことはマップから確認できたため『ギルド』については知っていた。エイミィからも道具ならギルドで買い取ってくれると聞いている。
「なら、この道をまっすぐ進んで白い盾の紋章が飾っている大きな建物がギルドだよ」
おばさん兵士は親切にギルドの場所を教えてくれた。俺はお礼を言ってその場を離れた。
「あ、そうそう。もしお腹が空いたら『ゴリランチ』ってところに行きな!うまい飯が食えるから」
ゴリランチ・・・・まさか、バナナでも出るんじゃないだろうな
俺はまっすぐ進み、おばさんが言ってた白い盾の紋章が飾ってある建物を発見した。まるで豪邸を改造したような場所で、入り口にはドラゴンの石像なんか置かれている。
てっきり、酒場見たいな場所を改造したかと思っていたが、なんというか高級感を感じる場所だった。
俺はまっすぐ入り口に入り、受付のお姉さんがいるところに向かった
「あの、すみません。ここ初めてなんですけどここで道具とか売れると聞いて来ました」
「はい、武器、道具類の買い取りなど受け付けています。こちらからまっすぐ進んで、青い看板が置かれている扉が商業エリアとなっております。ちなみにギルド会員の登録は済ませましたか?」
「いえ、できれば登録も済ませたいかと思います」
「でしたら、まずはここで会員登録をおねがいします。会員登録をしなくても道具の売却などはできますが、会員になると良いことが起きますよ」
「良いことって?」
「それは後の・・・お・た・の・し・み」
「教えてくれないのかい!」
おいお姉さん、そこは教えてくれないと会員登録しないぞ!・・・いや、するけど
俺はがっくしと肩を下ろすのを面白そうに笑うお姉さん・・・あ、この人ワザとだな
「うふふ、ごめんなさい。会員登録をするとポイントが加算されまして、そのポイントでランクが上げることができるのです。ランクが上がるごとに様々な権利や割引などが発生します」
なるほど、会員になるだけでなく多くの利用者を継続させるためにこういうやり方をしているのか。
「まあ、いいや。どうすれば会員登録ができるのですか?」
「はい、ですがその前にどのギルドの所属しますか?道具を売るのでしたら『商業ギルド』に所属するのがお勧めですが。他にも『冒険者ギルド』、『鍛冶師ギルド』、『農作ギルド』、他にも様々なギルドが存在します。ちなみに複数のギルドに所属することも可能ですが、手数料がかかり、ポイントはそれぞれ別になりますので注意してください」
受付のお姉さんは、そう言ってギルドのリストが書かれた紙をとり出さした。見ただけでも20種類以上はあった。なるほど、所属するギルドによって振り分けしていることか。
「あ、でもまだお金が無いから。先に道具を売ってからでもいいですか?」
「あ、でしたら先に『商業ギルド』の登録をしてください。初めの入会は料金が発生しませんのでご安心ください」
そう言って彼女は一枚のカードを取り出した
「では、ステータス画面をお見せください」
俺はステータス画面を表示させて彼女が見えるようにした。そして、彼女が持っていたカードが画面に触れると、カードは光の粒子となって画面に吸い込まれた。
「はい、これで『商業ギルド』の登録が完了しました。改めてようこそ『ギルド』へ、カンザキ・エドワード・コウキ様」
俺はステータス画面を確認すると確かに称号の下に『所属ギルド:商業』と記入されている。おそらくあのカードはマジックアイテムの一種でステータスに影響を与えるものなのだろう。
「ありがとうございます、じゃあまたあとで来ます」
俺はお礼を言って、『商業ギルド』がある扉に向かった
「ここか・・・って、なんだこれは!」
開けるとどうやらギルドの外に出たらしい・・・いや、この外自体が『商業エリア』なのだろう、あたりは露店だらけで、色んな商品が並んでいた。食べ物、食器、武器、鎧・・・必要なものはここでなら何でも手に入るんじゃないかと思うくらい露店が並んでいた。そして、ものすごく活気で溢れている。
「いらっしゃい!新鮮な肉が入っているよ!」
「あの名工!『サムズ』が打った包丁、なんと銀貨10枚!買わないと損!」
まるで戦場のような市場に圧倒されながら俺は道具を売っているエリアを探した
「おや?見ない顔だな、君新しく入った者か?」
俺に声を掛けてきたのはどこのボディビルダーかよというくらい屈強な肉体をした老人だった。まるで、昔、洋画で見たヴァイキングの兵士のような立派な髭を持っている。
「え?ええ。先ほど登録したコウキといいます」
俺は名刺を渡すように、ステータス画面を老人に見せた
「ふむ、コウキか。ランクはFだから。道具を売りに来たのかい?」
「はい、一応。マジックアイテムや鉱石などを買い取ってくれる場所を探しているのですが」
「ほほう・・・なら、儂が買い取ろうか?」
「え?いいのですか?」
「なに、安心しろ。足下みるようなことはせぬ。このウィリアム・フレムド、商人の誇りに賭けて商品に見合った金額を払おう」
なんか、詐欺っぽいが。まあ、お金がそこそこ手に入るなら別にいいか。あとでどれくらいの値段で売られているかを確認すれば、別の商人に売るのも手だし。
「分かりました、じゃあまずこれはいくらで買ってくれますか?」
俺は拳サイズの鋼鉱石をリュックから取り出した。マジックポーチにはあと300個くらい入っているが、まずは様子見だ。ウィリアムは俺が次々と取り出す道具を見た瞬間、腕を掴み止めた。
「・・・まて、ここでは人が多すぎる。ひとまずワシの部屋に来なさい」
あれ?何かまずいことしたかな?ウィリアムは鉱石をマジマジと見たあと、俺を連れて市場から離れた。
連れて来られた場所はギルドの奥の部屋だった。
「ウィリアム様、おかえりなさい。視察は終わりましたか?」
「カンナ、思わぬ拾い物をした。すぐに商業の話をするから君も同席してくれ」
「かしこまりました」
中に入ると、カンナという秘書らしい女性が凛と立って出迎えてくれた。ウィリアムの指示にしたがって、彼女は侍女らしいき女性たちを部屋から出し、紙と万年筆を取り出した。ってか、この人そんなに偉いのかよ!
「どうぞ、お掛けください。すぐにお飲み物を用意します」
カンナがそう言い、俺は部屋の中央に用意されていた椅子に腰掛けた。
「さて、コウキ君。改めて挨拶をしよう。ワシはウィリアム・フレムド・ヴァイキング。この『商業ギルド』のギルドマスターを任されている。先ほど君が見せてくれた鉱石だが。他のも取り出してくれるかい?」
「はい、少し待ってください」
俺はおろしていたリュックから、宝石のついた短剣や他の鉱石を見せた
「ウィリアム様、これは・・・」
「ほぼ純粋な鋼鉱石、鉄鉱石、マナ石。さらに、魔剣だ・・・正直、これを市場のど真ん中で見せるのはまずいと判断した」
あ、やっぱりこれはマズったか
「コウキ君、君はこれをどこで見つけたのかな?」
「『ノフソ』の森にあるダンジョンで見つけました」
俺がダンジョンといった瞬間二人は驚いた
「まさか、エイミィ様がいるあの試練の場に入ったのかい?」
「では、信託の話は本当でしたのですね」
試練?信託?・・・ああ、エイミィもうすでにダンジョンの噂を広めていたのか
「ええ、あのダンジョンに入ってみたら沢山の鉱石を見つけることが出来ました。この短剣もそのダンジョンで見つけたものです」
俺はサラッと『ダンジョン』の宣伝をした
「なるほど・・・しかし、これは困ったな」
あれ?なんか思っていた反応と違う。
「もし、この鉱石の噂が広まると市場のバランスが大きく崩れる。コウキ君この鉱石や魔剣は買い取るが、申し訳ないが今後はワシを通して販売してくれないかい?それと、ダンジョンで手に入れたことはしばらく他の者にも内密にして欲しい。もちろん、料金はしっかり払うし、ポイントなども色を付けて加えさせてもらう」
っちょ!それじゃ本来の目的が達成できないぞ!だけど俺の商品を出したせいで市場が大きく荒れるのも、面目ないし・・・
「あの、ダンジョンはどうなるのですか?その噂を真に受けた冒険者は今後増えるでしょうし。ダンジョンの戦利品を売りに来る冒険者は今後現れると思いますが」
「そうなのだが。おそらく、そこまで多く現れないとワシは踏んでいる。つい最近、聖・メゾン王国の兵士約20人が全員が恐怖とトラウマを抱えた状態でここにやってきた。その噂が広まってあそこに立ち入ろうとする者は少ない、加えてサラマンダーがいるなるとそこに挑むのは厳しいと考えられる。」
あ、あの兵士たちここに来ていたんだ。ってかやっぱりやり過ぎたのかな。今度来た時はもう少し楽になっているよ。
「だから、今のうちに市場のバランスを崩れないように市場の調整して置かなければならない。今後、ダンジョンで手に入る道具が大量に出回っても対応できるようにな。だから、申し訳ないがコウキ君にはそれまで道具などの販売はワシを通して貰いたい」
なるほどな、自分の身勝手で人を不幸にするならこのくらいの我慢は問題ない。欲を刺激する宣伝は効果的だが、こういう事情を知ったからには長い目で見るべきなのかもしれない。
「分かりました。では、そういう契約で。ちなみに、今後ダンジョン業が盛んになった場合、『商業ギルド』はどう対応しますか?」
「そうですな・・・・」
その後、俺とウィリアム、カンナは暮れるまで商談や今後の話について話し合った。