地雷
――――村から町へと向かう――外の景色も御者さんも丸見えな馬車というより馬の引く大きな人力車のような――乗り物に二人で乗った俺達は、ガタガタンッと時折激しく揺れるたび、リサは馬車も初めてらしく最初のうちは揺れるたび楽しそうにはしゃいでいた。でも今はすっかり大人しくなり時間もあるし昨日から気になっていた事を聞いてみた。
「そういえば何であんなに転職に乗り気だったんだ?」
「当然よ! 私は向上心だけは人一倍あるんだから!」
1年近くもシコシコと全く動かないキッコリーしか相手にしてこなかった癖に、コイツは一体何を言っているんだ? しかも、ふふんっどうよ納得したかしら? そう言わんばかりの表情をしている。そんなリサの胡散臭い話は無視してさらに問い詰めてみた。
「正直に言うと?」
「な、なによ? 疑ってるの!?」
「だって1年も村に引きこもってた奴だぜ?」
「機会よ! そう、機会がなかっただけよ!」
ジーーッと追い打ちをかけるように疑惑の目を向け続けると、遂に観念したのか溜息を吐きリサは本当の理由を打ち明けてくれた。
「私思ったの――いくらマコちゃんの中身がダメでも、外見は可愛らしい子供なの――そんな子供が傷つくなんて私耐えれないわッ! だからマコちゃんがもし傷ついてしまってもすぐに治せるように私も頑張るの!」
「おい、誰の中身がダメだって!?」
でもそんな事も考えてくれていたのか。なんか嬉しくなりまだ続きがあるみたいだし自然と口元を緩ませながらリサの話を聞いてみると……急にスイッチが入ったようにみるみるリサは表情を変え、興奮したように勢いよくまくし立てる。
「それにね、私も攻撃したいのよぉおおおお! 毎回、毎回今までキッコリーをどうやって倒してきたと思う? 武器だって最初にもらった杖しかないのに!
そう、杖よ? 凄いでしょ? 一匹で1時間はかかったわ! お笑いでしょ?
フフフッ、木の杖で木を倒してたなんて、世界できっと私くらいよ!!」
あっ――――地雷だ。そんな気がした。
先程までのなんかこういい感じの雰囲気から一転シーーンっと静まりかえる。気のせいか、御者さんもチラチラッと微笑ましい感じで俺達を眺めていた気がするのに今は無表情で前しか向いていない。
――――そして……。
この空気に耐え切れず突然御者さんが、ゴホォッとむせるように咳きこんだ。
いけない! 楽しいはずの旅立ちの日が初日からこんな事じゃいけない!
何よりこのままじゃ御者さんの身体がもたない。
ど、どうしたらいいか必死に考えてみた。
リサは今まで、今日もキッコリー、来週もキッコリー、本当にキッコリー漬けの生活だったのだろう。だからこそこんなにも闇が広がってしまい突然爆発したんだと俺は考えた。そこでなだめる様に優しく話しかけてみる。
「ま、まぁ落ち着けよ? な? 着いたら美味いものでも食べような? な?」
「と、とにかくそういうことよ! 後私は甘いのがいいわ!」
(ちょ、ちょ、ちょれ~)
食べ物1つでご機嫌になったリサを見て本当に何なんだコイツはとも思ったが、これ以上地雷は踏みたくないし何もツッコまないでおいた。
――――そしてようやくフォルタナの町が見えてくる。前は30分程で着いた気がしたのになぜか今日はすんごく長く感じた。その時に見た町の雰囲気は中世ヨーロッパな感じで、この地方の家の壁は全て魔法で作られているらしく外観が凄い綺麗に整えられており、さらに町の中心部の道は魔法で舗装されていてこれで田舎町かよ?! って驚かされたくらいだ。
あれからそんな期間が経ってる訳じゃないけど何となくカチキの事も思い出す。
「見えてきたな。カチキ元気にしてるかなぁ」
「大工の人かしら? 私は色々と心配だわ」
「顔合わせる事があったら紹介するよ。でも何が心配なんだよ?」
――――無事フォルタナの町へと到着した。しかし村を出たときよりもリサの元気が明らかに分かるくらいになく、せっかく新しい町に来たのにどこか落ち込んでいるようにも見える。そして歩き始めると何が心配だったかすぐに判明した。
それは村の中では顔見知りが多いのと人自体も少ない為に忘れていたが、リサは結構な人見知りだった。大通りを歩いてると小さな俺を盾にしコソコソと隠れるように移動し始めたのだ。本人は隠れてるつもりなんだろうけど余計目立っている。
しかも美人であの胸だ! 注目されてもおかしくないけどやりすぎだ。
凄い怯えるようについてくるリサをさり気なく気遣ってみる。
「そんな気にしなくてもいいのに」
「ひぃ! み、みんな見てるわ!」
「あれだよー、みんなキッコリーだと思えばいいんじゃない?」
「キッコリー?」
「ほらぁ? あの人なんてそっくりだろ?」
「そ、そうね! キッコリーよ、キッコリーよ、ブツブツ」
(本当に俺より年上なんだろうか)
そんなことを思っていると何とか少しだけ落ち着いてきたのか、リサはブツブツ言いながらも並ぶように歩き出した。まずは宿を確保し約束通り甘い物と昼食を済ませ冒険者ギルドへと向かう。
――――お腹も一杯になったお陰かリサの機嫌も良さそうになり、何事もなく町の中央にドーンと構えている冒険者ギルドへと到着する。俺もこの町の冒険者ギルドに来るのは初めてだ。村のに比べると立派で中に入ってみると窓口も村とは違いいくつか見えたが混雑していた。
気がつくとまたリサは完全に挙動不審になっていた。俺にコソコソと隠れながら、いや全然隠れきれてないんだけど……人混みをかき分け、なんとか窓口に向かい職員に声をかけようとした時だ。
トントンっと肩を叩かれ聞きなれた陽気な声で後ろから話しかけられた。
「やぁやぁやぁ? 君たちもこの町に来たのかい?」
振り返ると名前は知らないが何度か村で話した陽気なギルド職員がいた。
だが何となーくとぼけてみる。
「あ、あの、だ、誰ですか?」
「ひ、ひどいじゃないかぁ! あんなにあの夜盛り上がった仲じゃないか?」
――――――周囲の視線が冷たく刺さる。
一緒に飲んだのは間違いないんだ。そう飲んだのは間違いないんだが、この空気に耐えかねて逃げる様にその場を離れ違う窓口へと向かう。そして誤魔化すように別の職員に話しかけた。
「すいません! 転」
陽気な職員は窓口に走ってき遮るように、俺が話しかけた職員と交代する。
「――――変わるよ~」
「寂しがりやかよッ!」
「やぁやぁやぁ! いらっしゃい! 僕の名前はミューゼスさ!」
「聞いてないんだけど!? まぁいいけど転職はどうするんだ?」
「じゃぁまず2人とも冒険者カードと1人300アンラね。拠点を先に移さないといけないからね~」
言われた通り俺達はお金と冒険者カードを手渡す。すると村とは少し違うカードを渡され、魔力をこめるように促され言われるがままに魔力を込めた。
初心冒険者 マコト・ノウネン 年齢18歳
職業 冒険者
拠点 フォルタナの町
依頼 ナシ
どうやら拠点毎にカードが変わるみたいだ。
カードを確認し俺をまだ盾にして隠れてるリサに目線を送り。
「でも知り合いが居て助かったよ」
「冒険してればそのうち人見知りも治るさ~」
「だといいけどな。今日はまずリサの転職試験を受けちゃうか」
早く宿屋に戻りたいのか。リサは即答する。
「そうしましょうか」
「じゃぁこの中から選んでね~、試験は各ギルドへの紹介状を書くからそこで受けてね~」
――――ミューゼスは様々な職業が書かれたカードをリサに手渡す。リサはアクセサリーを選ぶかのように笑みも戻り、どれにしようかしら? 迷い始め、時折俺にもこれなんてどうかしら? と聞いてきていたが魔法職なんてさっぱり分からなかったので適当に返事を返していると……。
「マコちゃんは頼りにならないし! そうよ! 支援も、攻撃も、回復もできるようなそんな職がいいわ!」
そんな無理難題をミューゼスにぶん投げ――困った顔を見せたが流石はギルド職員! 1つ選んでリサに勧めた。
「これなんかどうかなぁ? 祈祷師っていう職で少し怪しい集団のギルドだけど回復が出来るなら攻撃も支援もできるよ~」
やってやろうじゃない! そんな表情でリサは。
「いいわ! それにする」
「よし! じゃぁ早速行くかー! ありがとなミューゼス!」
――――やる気に満ち溢れた表情のリサと教えてもらった場所へと向かう。到着すると町はずれにある建物の前に着いたんだが……屋根にはカラスが沢山とまっており、わさぁ~っと一気に飛び立ったかと思えば中からキャーッと甲高い悲鳴が何度も聞こえてくる。
この異様な雰囲気に俺達は完全にびびりあがっていた。
そして気のせいかまだ季節は春で、しかも昼過ぎなのにも関わらず寒気すら感じ2人揃ってガクガクと身体を震わせ扉を開けることなく相談する。
「リ、リサ、ど、どうする?」
「そ、そ、そうね、他を当たりましょうか! えぇ」
「そ、そうだなっ! まだカードは沢山あったしな! うん」
「今日は、何だか疲れたし宿で休みましょ」
「そ、そうだな! 慣れない町だったしな! うん」
俺達は冒険者なのに冒険することなくその場から逃げ出した。
――――翌日は人混みを避ける為に早朝から冒険者ギルドへと向かい中に入ると狙い通り早朝は人が少なかった。それでも村の多い時並みには居たが昨日程じゃなくリサも、どうよ? 人見知りも慣れてきたのよ? と言わんばかりに自慢気である。
昨日は疲れていたせいで、そう疲れていたせいで! 逃げ出してしまったが、今日こそは必ずリサの転職を済ませる為。すぐに空いている窓口に向かいミューゼスは居なかったが職員に話しかける。
「すみません! 転職したいんだけど」
「はい。ではこちらか」
窓口の奥からダッダッダッと聞こえるほどに足音を立て勢いよく多分アイツが走ってき職員と交代する。
「――――変わるよ~」
「寂しがりやかよッ! てかこれ昨日もやったわ!」
そうだったかい?
そんなとぼけた顔でミューゼスは話しかけてくる。
「やぁやぁやぁ? 無事転職できたかい?」
「それが祈祷師ギルドに行ったけどさ……。まさか外観だけで撤退するハメになるとは思わなかったよ」
「僕もあそこは苦手だからね~、リサさんって知力が高かったよね?」
「は、はい! 私こう見えてもインテリですからね」
豊満な胸を突き出し誇らしげに言ってるが、筋力は確かにステータス通り能力が上がると力も強くなっていた。だけど知力も同じように賢くなるとは、俺はどうにも思えない。なぜならリサの知力が俺よりずば抜けて高いからだ。
いやまぁ豊満な胸は素晴らしいんだけどね!
一応知力が高いと何かあるのかも聞いてみた。
「リサの知力が高いと何かあるのかー?」
ニタっと笑みを浮かべミューゼスが問いかけてきた。
「知りたいか~い?」
「お、おー」
「スキルや魔法ってどうやって覚えると思う?」
「転職すれば覚えれるんじゃないのか?」
これだから坊やはっ! フッと鼻で小ばかにし。
やれやれと言わんばかりに説明してくれた。
「まず魔法やスキルは一定までならそのギルドで習えるのさ~。でもそれだけじゃなく、魔法は研究し編み出す事もでき、スキルの場合は閃きで自ら編み出す事も教えてもらう事も出来るのだ! 更に魔法はね~自分に素質があり、知力さえ相手より上回っていれば、相手の魔法を即時学習出来るのさ~」
という事は自称知力の高いリサは、攻撃魔法を即時学習で覚えることが出来れば補助職でも魔法で攻撃できるようになるのか。リサに視線を送ると。
分かってるのか。分かっていないのか?
両腕を組んでウンウンと大きく頷いていた。
「なら攻撃魔法は即時学習で覚えていけばいいよな?」
「そうね。それなら私は補助と回復が得意な職にしようかしら」
「名案だろ~? そう言うと思って良さそうな職をいくつか選んでおいたよ」
ミューゼスがこんなにも出来る男だったなんて……。
最初とぼけてごめんよ! 反省や感動しているとリサが決めたみたいだ。
「私このクレリックにするわ! 武器もメイスだし杖はもう嫌なのよ!」
「じゃこの場所に教会があるからそこで聖職者さんから依頼を受けておいで。後マコト君は気を付けなよ~」
「色々ありがとな! また今度飲もうぜ!」
「あ、ありがとうございました」
しっかりとお礼も伝えギルドを後にし早速教会へと向かった。
――――やってきました教会に! 遠くからでも屋根に大きな鐘がついているのが見えたお陰ですぐに見つける事が出来た。見た感じは日本の教会と大して変わらない作りで、入口にはどっしりとした大きな扉があった。
こういう場所って妙に緊張するし、余り大きな音をたてたら罰でも当たるんじゃないかと教会の扉を静かぁ~に開ける。奥には巨大な彫刻がありその前で片膝をつき祈っている女性の後ろ姿が見え、その姿を日の光がスポットライトのように眩しく照らし神々しかった。
聖職者さんだとひと目で確信し話しかけて来なよ。リサに目で合図を送ったが首を何度か横に振り、しょうがないので俺が話しかけてみる事にした。
――不本意ながらも俺は近寄り紹介状を差し出し話しかけてみる。
「こんにちは聖職者さんですか? 転職試験を受けたいんだけど今いいかな?」
祈りを止め――リサと同じ金色の髪をサラサラとなびかせ振り向き、どこか性の匂いを感じさせる――そんな聖職者が微笑みながら答えてくれた。
「えぇ、私はビーチル――この町では女神と呼ばれている聖職者よ」




