旅立ち
――――遂に俺は冒険者を極めてしまったようだ。
ギルドに依頼を報告した際に職員からそう告げられたから間違いないはずだ。
最初聞いたときは自分でも耳を疑った。でもじわじわと俺はやはりただのハズレなんかじゃなく、特別な運命を背負いこの世界へと召喚されたんだ。
そう確信出来るようになり……これから辛い旅になりそうだぜ。
窓口でそんな妄想に浸っていると職員さんが淡々と説明してくれた。本当は薄っすらそうじゃないかと思っていたが、極めたのは総称としての冒険者ではなく、職業としての冒険者で、Lv10までしか今の職業じゃ上げれないらしく、新しい職業に就くには町以上のギルドで適正確認試験に合格しないと転職出来ないそうだ。
――――そこで昼過ぎに依頼を終え村へと帰ってきた俺達はせっかく組んだパーティだ。これからの事は二人で相談して決めよう。そう考えギルドにあるテーブル席で早速話し合っていた。
「さっきの依頼で1人8000アンラも貰えるなら村で生活していくには十分だな」
「そ、そうね。でも私は転職してみたいわ」
てっきりインドア派なリサは転職なんて興味もなく。
「このままキッコリ―でいいじゃない! 美味しいし、のんびり出来るじゃない!」とか言い出すに決まっていると勝手に思い込んでいたからこそ驚いた。
でもそれならばと、俺も正直に堂々と気持ちを言い切った。
「せっかく来た異世界だ。もっと女の子と仲良くなりたい!」
なぜこんな事を思ったのか?
それは最近ある事を再考していたからだ。
以前村長の家でリサの胸を揉んだ時。
正直俺はもう死んでもいいとすら思った。
――だがしかし、アレは偶然揉めただけで、いわばラッキ―スケベだ。
果たしてこれを揉んだとカウントしてもいいだろうか?
否!
与えられたにすぎず勝ち取ってはいない!
そうアレは、まぼろし~、なのだ。
だからこそ何としても自分の手でおっぱいを勝ち取りたかった。
それにせっかく来た異世界だ。
以前のむさ苦しい男ばかりの男子校時代とは違い大勢の女の子達がいる。確かにいるのだ! しかも様々な種族の女の子達が存在しているのだ!
なら俺でも嫁……いや彼女……いやせめて……。
「ちょ胸揉ませろよ」
「しょうがないなぁ」
位まではいきたかったのだ!
リサはドン引きし、どこか残念なものを見るような視線を向けてきてるが。
気にしない! 冒険には苦難がつきものなのだ。
しかしある疑念を抱いた。
リサなら正直にお願いすれば揉ませてくれるんじゃないか?
今朝だって起こしに来た訳だし? なんだかんだ悪くない雰囲気だ。
さらに子供好きだ。胸くらい頼めば揉ましてくれるんじゃないか?
――イケる、イケるそんな気がしてきた!
まだ若干顔を引きつらせているリサに早速アタックしてみる。
「なぁリサ? 転職はそれでいいけど大事な話があるんだ」
「マコちゃんありがとう。で話ってなによ、なによ?」
「おっぱい揉まごふっ」
――言いかけた瞬間リサは座ったまま右ストレートをシュンッと捉えきれないスピードで放ち、俺の顔面へと直撃し後ろの席まで吹き飛んだ。
そしてなんとか立ち上がり抗議する。
「いってぇ―! 酷いじゃないかっ」
「何言いだすかと思ったら! 私は子供が好きなの!
確かにマコトは小さくて可愛くてギュッとしたくなる事もあるわッ!
でもねダメなの……。中身がただのエロ男と知ってからどうしてもダメなのッ
――生理的にダメなのよッ!!」
「おい、生理的にダメとか泣くぞ」
「そういう事だから変な事言わないでよね!」
――――心に深く傷を負い、チクショーと半泣きになりながらも俺は冒険者だ。
チャレンジャーなんだと自分に言い聞かせ何とか踏ん張り話を戻した。
「何にしても村を旅立つ事になるか」
「そうなるわね」
「近い町ってなるとフォルタナか――行った事あるか?」
「ぼっちなめないでよ! 勿論ないわ」
「じゃぁ今日はお世話になった人に挨拶しておくか」
リサは何かを思い出したのか表情を曇らせ俯き訳を話し出す。
「そうね。私は1年近くお世話になったから少し寂しいわ」
シュンっと目に見るほど落ち込むリサの頭を小さいながらも背伸びし撫でてあげる。――ハッと表情を変え両手で胸を隠すように抑えながら俺から離れ。
「む、胸は、さ、触らせないわよッ!」
「うるせえよ! せっかく心配してやったのに!」
そんなやり取りのお陰かリサの表情にも笑みが戻りギルドを後にする。
――――そしてまずは村長宅へと突撃しにやってきた。
到着するなりリサが扉を叩き大きな声で何度も呼びかけてみる。
が……返事がない。
リサの話じゃいつもこの時間は家でゴロゴロしているとの事。
基本怠け者なのだ。
そんな村長に何度呼びかけても返事ががない。
――――――――俺達に緊張が走る。
まさか……こんな小さな村で村長がやられ……た?!
ただの屍となり果て返事がないのでは?
そんな不安が俺達の頭によぎった。
――その時だ!
後ろから声が。
「何遊んでるんじゃ~」
振り返ると村長が生きていた!
思わず俺達は抱き合いそして村長に抱きついた。
――そんな茶番を演じ村長に経緯を説明する。
「そうかぁリサの胸が見られなくなるのは寂しいのぉ……」
村長もまたリサの胸に魅入られた1人だったのか。
悲しいが男の性である。俺は静かに村長と固い握手をした。
さらに町へと向かう馬車がある事を村長から教えてもらった。
――――その後もお世話になった人達への挨拶をして周り夕方くらいかな?
リサは1年近くこの村に滞在していた為思ったより時間がかかり、ようやく全ての人を回りきり今日は打ち上げがてらリサと村唯一の酒場で飲むことにした。
この酒場はカウンターとテーブル席が数席と本当にこじんまりとした店。例えるなら村のスナックみたいな感じでいつも見知った面子が集まる。そんなアットホームな雰囲気だった。だからこそ俺もすぐに馴染むことが出来たんだ。
でも1つだけ不満があった。
それは……。
(村だけど、村だけど、看板娘の1人くらいほしかったなぁ)
可愛い子の1人でもいれば毎日通うのに、美味しいお酒や料理を振る舞ってくれるのがムサイ親父じゃなぁ……まぁ今日はリサと一緒だしいいか。
そんな事を考えているとふと気づいた事を聞いてみる。
「そういえばリサと飲むのは初めてだよな」
「そうだったかしら? 私飲むとよく覚えてないのよね」
その言葉を聞きこれは酔うと――私よっちゃたぁ~と、ここぞとばかりにフェロモンを爆発させ卑猥な言葉で誘ってくるんじゃないか?
どうしよう、こ、心の準備がま、まだできてないんだけど!!
だが俺も男だ。
ドンっと受け止めてやろうと覚悟を決め、そんなヤラシイ妄想を実現するべく、どんどん酒を注文してリサにすすめながら飲んでいた。
そして遂にリサは酔ってきたのかとろ~んと目が座ってき、話しかけてくる。
……俺は来ましたか。
ほくそ笑み、ごくりと唾を飲み込みリサの言葉に耳を傾ける。
「ねぇねぇ、そんなに私の胸が触りたいのぉ? フフフッ――ほらぁ? 大きな声でもう一回行ってみなさいよぉ―! 触らせないけどぉ!」
そうリサは酔うと人に絡みだす一番面倒くさいタイプだったのだ。
あぁ、面倒くさいなぁとその後は消化試合のごとくやる気なさげに飲んでいたが、リサはもう絡みに絡んでき、本当にめんどくさかった。
そして翌朝何食わぬ顔で宿屋からリサが出てきたので昨夜暴れるリサを引きずって帰ったのを覚えてるか聞いてみたが……。
本当に覚えてないらしい。
一緒に飲むのは止そうと心に決め。
――――アンナおばちゃんの見送りと共に俺達は村を旅立った。




