人見知り
俺は今、告白したらイケるのか?
イケないのか?
そんなモヤモヤとした気持ちになっていた。
――――無事帰ってきた日の事だ。
たまたま宿屋近くでリサと偶然出会った時に、俺の顔を見るなりカーッと顔を赤く染め、一言も発することなく、ダダダッと走り去っていったのだ。
一瞬、ほんの一瞬だが。
(惚れてますわ、コイツわしに惚れてますわ)
とも思ったが、あくまで俺に対しては残念ながら子供のように接してくるだけだったし、全くといって良い程に思い当たる節がなかった。
カチキの元で楽しかったけど現場で汗を流す日々を送ってきた俺はもうクタクタで、今日はぐっすりと宿屋で寝てやろうと思っていたのに、なぜ走り去っていったのか。考えていると一睡もできず日が差し込んできた。
結局昨日は何か事情があったんだろう。勝手に決めつけることで納得し昼過ぎに、お気に入りの食事処へと向かう途中、リサにバッタリと出会い声をかけようとしたが、またしても、ダダダッと走り去っていく。
(お前は、はぐれメ○ルかッ!)
そうツッコミたかったが、もう姿は見えない。
――――そんなモヤモヤとした日々が三日ほど続いた。
俺はいい加減なぜ逃げ出すのか理由を聞こうと遂に決心する。そしてリサの泊まっている部屋の前へとやってきた。来たのはいいが女の子の部屋を訪ねるなんて今の今までしたことがなく、今更ながら緊張し、大きく深呼吸してからコンコンッと軽くノックをし尋ねた。
「マ、マコトだけどいるか?」
「は、はは、はーい?!」
尋ねると部屋の中からはドタドタドタッと何だか慌ただしい音が聞こえた。しかも明らかにリサの返事も何だかおかしかったがそのまま続ける。
「何で最近俺の顔を見ると逃げ出すんだよ?」
「は、はは? に、逃げてないし!」
「じゃ今日はまた一緒に依頼でも行かねえか?」
「きょ、今日はやめておくわ!」
「……そうかぁ」
この村ではリサと村長くらいしか知り合いもいなく、1人で寂しかったけども余りズカズカと踏み込む度胸もなかったし、気分転換に冒険者らしく1人で依頼でも受けてやるか。そう考えトボトボとギルドへ向かう。
――――到着し窓口に向かうなり陽気なギルド職員がやってきた。リサの事を考えるとモヤモヤした気持ちになり、1人で沈んでいた俺の気分なんてお構いなしにギルド職員はひょうひょうと話しかけてくる。
「やぁやぁやぁ? 今日は一人かい?」
「そうなんだよ! 誘ったけど今日は止めとくってよ」
「彼女人見知りだからねぇ。僕も話してもらうのに半年かかったよ」
「えぇ!? 嘘だろ? 初めて会った時、人見知りなんて思えなかったけどな」
人見知りも何も、俺が目を覚ましたのに気づくとすっ飛んできて、いきなり抱きついてきたし、とてもじゃないが人見知りとは思えなかった。
「そういえば彼女子供好きみたいだしね? それで君の事を子供だと勘違いして一人で町に依頼をこなしに行った事を凄く心配してたから、18歳で大人だし安心しなよとは伝えたけどね」
「え?」
「いやだから――」
「――それだ!!」
俺が18歳だと知り今までの事が気まずくなったのか。
(クソッ!こんな事なら早く伝えておけば良かった)
名前も知らない陽気なギルド員の親切心を少しだけ恨みながらもすぐにギルドを飛び出しリサの部屋へと謝りに向かう。
――――リサの部屋へと向かう途中。
もし初めから俺の年齢を伝えていれば何か変わっていただろうか。
考えてみたが大きく溜息をつき呟く。
「はぁ……揉んじゃったしなぁ」
リサとはこの世界にきて知り合ったばかりだし忘れてしまおうとも考えた。
でも気軽に話せる相手が居ないのは寂しい。それに何よりも短い期間だったけど一緒に依頼や村での生活が本当に楽しかった。
そんな気持ちと初めて会った時の感触を思い出す。だからこそ何としても許してもらい、勝手なのは承知の上でまた一緒に楽しめるように謝ろう。覚悟を決め、もう迷わないように急いで走って向かう。
――――宿屋の前に到着すると、宿の仕事が落ち着いたのかアンナおばちゃんが店の前を掃除をしていた。もしかしたらこれから騒がしくなるかもしれない事と、これ以上誤解を招きたくないしおばちゃんにも年齢を伝えておくか。
「おばちゃん! ちょっと上が騒がしくなるけどいいかな?」
「いいけど、坊ちゃん何かあったのかい?」
「ちょ、ちょっとね。後俺18歳だから子供扱いしないでよね!」
伝えるだけ伝えると、おばちゃんは掃除をしていると手を止めポカンっとしていたが、その場から逃げるように俺は2階にあるリサの部屋の前へと向かった。
そして部屋の前に着いたのだが……またしても何て声をかけるべきか。
考え込んでしまい扉の前をウロウロと落ち着かずに歩いていた。
しかしなかなか良い言葉が浮かばない。
―――――悩んでいると。
突然部屋の扉が開き――リサと目が合った。
「「あ!」」
急な出来事についつい二人して声を上げる。
すぐさまリサは扉を閉めようとしたが――俺も慌ててドアノブを掴み必死に扉越しにリサに謝りだす。
「ごめん! ごめんな! 歳の事伝えてなくて悪かったよ!」
「は、はぁ? し、知ってたし!」
「知ってたらそんなに動揺しねぇだろ?」
「で、で、どうしたのよ!?」
「人見知りなのも知らなかったけど、騙すような真似して本当にごめん」
「も、もういいわよ! ゆ、許してあげるから、もういいでしょ?!」
簡単に許されてしまった。だが本題はここからだ。勝手かもしれないがまた前みたい一緒に依頼に行ったり楽しく過ごしたい。その気持ちを伝えようと思った時にだ。ある事を思い出す。
それは土木作業で町の酒場で飲んでいる時にカチキから聞いた話で、この世界には依頼や様々な事を一緒にこなしていくパーティってのがある事だ。
思い出したら誘わずにはいられなかった。
「そうだ! いきなりだけど俺とパーティ組もうぜ!!」
「は、はぁ?! な、なんでアンタと!?」
「おい! 俺の見た目はただのガキだろ? 難しい事はわからねえけど、ただのガキだぞ!? 何びびってるんだ?」
「ガキ、ガキ、ガキ、子供? 子供?!」
段々と扉を抑える力が弱まってきた。
俺はここぞとばかりに一気に扉を開け姿を見せ言い聞かす。
「ほら、どう見てもガキだろ?」
「そ、そうね!」
「だろ? ただのガキ相手にびびってるんじゃねえよ!」
「そ、そぉ、そうよ! だけどもう胸は触らせないわッ!!」
「え? ガキだからいいじゃん!」
「うるさいッ!」
気づくといつもの少し天然そうなリサに戻っていた。
心配事がなくなると急に腹が減ってきたし一緒に飯でも食べに行く事にした。
一階でアンナおばちゃんにも会ったけど変わらず見送ってくれる。
――――――そして俺は重要な事に気がついた。
「そういえばさ、パーティってどうやって組むの?」
「し、知らないわよ! 人見知りなめないでよ!!」