初依頼
村長(仮)は俺がハズレだった事に対して未だにガックリと肩を落とし沈んで見えたが、そんな村長(仮)に向けリサは話を切り出した。
「村長! 責任を果たさないと」
「……そうじゃったな。少年よついて来なさい」
「マコトな」
――――ようやく顔をあげたが村長はまだまだ立ち直る様子もなく、しょんぼりと重そうな足取りで歩き始めその後ろを俺とリサは黙ってついて行くとプレハブ小屋のような場所で村長は立ち止った。
そして鍵を開け小屋の中を見せてもらう。そこには剣や置物それに何に使うのか分からない道具など色々な種類の物が置いてあり、工場見学のように俺は何だかワクワクとしてくる。そんな気持ちを知ってか知らずか、村長がゴホンッと一度咳払いをし慣れた様子で説明を始めた。
「わしはこのパスラ村の村長バコンじゃ! 先ほどの鑑定は簡単に言うとクジじゃクジ。それも当たれば国から大金が貰えるBIGなクジじゃ!
まぁハズレじゃったがな! チラリッ。勇者なら国から大金が貰えたのにのぅ残念じゃ。鑑定代を返してほしいわい!!」
俺が……ハズレくじだと!? クソッ!
と思うことはなかった。
なぜなら。
リサのおっぱいを揉めた事で異世界にやってきた俺の目的はかなーり達成できており、十分美味しい思いが出来ていたからである。
正直勇者とかハズレとかもうどうでもよかった。
それ程おっぱいの破壊力は絶大なのだ!
そんな事とは勿論知らずに村長は、俺の事を気の毒そうな表情で見つめ、更に説明を続けた。
「昔はハズレクジじゃと即ポイ捨てされていたんじゃが、冒険者が山賊や悪事を働く事が多くてな。それで武器と銀貨1枚=(1000アンラ)をハズレでも与える決まりになったんじゃ」
「ポ、ポイ捨てッ!? でもそういう訳なら有り難く貰っておくか」
「ならこの中から好きな武器を持って行きなさい」
――――早速小屋の中に無造作に置かれている様々な種類の武器を一つ一つ手に取り見定めてみる。だが武器を選ぶ事なんて当然今まで一度もしたことはなかったが、これからお世話になる武器だ。慎重に選ばなければいけないだろう。
≪木の弓、こん棒、木の杖、銅の剣、銅の槍、銅の短剣≫
「これなんてどうかしら?」
中々決めきらない俺に対しリサがいくつか選び勧めてくれる。
最初に勧められた槍を手に取り、振ってみたがシックリとこなかった。
次に渡された剣も持ってみたが、これは軽すぎてどこかへ飛んでいきそうだ。
こん棒は……死んだ時のトラウマを思い出しそうなのでやめておく。
――――更に小屋の中を物色していると壁に寄りかかるように置かれている俺の身長と同じくらいの剣を発見し何となく手に取り確認してみた。
≪銅の大剣≫
(良いのあるじゃん! 何か浪漫があってカッコイイ!)
これにしようと決め、村長にも聞いてみる。
「村長! このバカでっかい剣も持っていっていいのか?」
「いいぞぃ持っていけるならな! ――アリャァァ?!」
話している途中に軽々と大剣を持ち上げると村長は変な声で驚く。一応感触を確かめるように何度かブゥンブンッとその場で振り下ろしてみたが良さそうだ。
「これぐらいずっしりとしてる方が良さそうだし。村長! これ貰うぜ!」
俺は大剣を選択し返事を聞く前に背負うことにした。
――――そんな様子を村長は、ただただ口をあんぐりと開いたままその場でコクコクと力なく頷く。そしてしばらくするとようやく落ち着いたのか、銀貨1枚(1000アンラ)を手渡してくれ村長らしい威厳を取り戻し話し出す。
「分からないことも多かろう。この村にいる間はリサに案内して貰いなさい。
それにリサは回復魔法が使えるからのぅ」
「マコちゃん! お姉さんに任せておきなさい!!」
「チェンジで」
「なんでよっ?!」
「だって目が怖いんだよ。
なんか息も荒くてヨダレも垂らしそうな勢いだしな! 正直胸がなかったらと思うと――ゾッとするよ!」
「分かったなるべく落ち着くわ! これでいいでしょ!? ハァハァ」
「もう漏れてるし……もういいよ」
結局俺はそんな危険な案内人を得ることになった。
――――早速まずはリサも泊まっているという2階建ての宿屋へと案内してもらうことになり割と近かったお陰ですぐに到着した。その建物も壁がコンクリートのような物で綺麗に塗り固められており、舗装されていないデコボコな道とのアンバランスな感じが相変わらず不思議だった。
中に入ると宿屋の受付には店番もおらず、リサが宿屋中に響くような大きな声で呼びかけた。
「アンナおばちゃんいますかー? お客さん連れてきましたよ!」
のそのそっと奥からおばちゃんが現れ。
「どれどれ、このちっこい坊ちゃんかい?」
「そうそう! これでも冒険者よ」
「ちっこいのに凄いねぇ。サ―ビスして朝ご飯付きで250アンラに負けとくよ」
「ありがとな! おばちゃん」
「じゃぁ他も案内してきてからまた帰ってきます」
(18歳なのにちっこいちっこいと言われると地味に傷つくなぁ)
それに2人とも絶対に俺の歳を勘違いしてるだろうな。
まぁでも嘘をついたわけじゃないしいいか。
――――そんな事を考えながら次の場所へと案内してもらいリサについて歩いていると鑑定された建物に戻ってきていた。
「着いたわ。ここが冒険者ギルドよ」
「冒険者ギルドで鑑定したのか」
「そうよ! それにギルドで依頼をこなして生活費を稼がなきゃね」
「依頼なんて楽しみだな」
「フフフッ、これからお世話になるんだからしっかりね!」
「じゃぁお母さん行ってきます!」
「………………」
冗談を言い入って行くと――リサは入口で直立したまま固まっていた。
(面倒くさいしこのままでいいか)
――――窓口に着くと鑑定の時に居た人が話しかけてくる。
「やぁやぁやぁ? この村はどうだい?」
「異世界って感じで最高だ!」
「そうだろそうだろ? で、冒険者になるのかい?」
「あぁ、簡単になれるならなりたい」
「じゃぁ登録料500アンラだね―」
地味に高い気がするが仕方ないかと差し出す。
「じゃこのカ―ドに魔力を込めてね~」
「え?」
「来たばっかりで知らないのか。念じるだけだよ」
そう言われ差し出されたカ―ドを手に持ちギュッと念じてみる。
――薄青い光と共に少し熱くなりすぐに光が収まった。
「お疲れさん! これでもう登録完了だ!」
「早いなぁどれどれ? おぉ結構しっかり書いてあるんだな」
初心冒険者 マコト・ノウネン 年齢18歳
職業 冒険者
拠点 パスラ村
依頼 ナシ
「そらそうさ! 証明書だからな? 18歳か見えないね」
「フフフッ、だろ? でも依頼ってどうやって受けるんだ?」
「それは隣の姉ちゃんに聞いとくれ」
――――入口で固まっていたリサが動き出していたようだ。
「登録は終わったようね。良く出来たわ! 後私はまだ20歳だからッ!
お母さんじゃないから!!」
「いいから依頼はどうやって受けるんだよ」
「いいわ! 教えましょう」
(切り替え早っ! 何なんだコイツは)
すぐにリサは依頼について説明をしてくれる。
「依頼は簡単よ? あそこにボ―ドが見えるでしょ。朝と昼の2回張り出されるから窓口で受けるだけよ」
「簡単だな! 説明ばかりでそろそろ頭が弾けるかと思ったよ」
「フフフッ。弾けたら回復魔法は任せなさい!」
「そういう問題じゃねえよ!!」
そんなこんなで俺達は依頼を受けてみる事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――――ザシュリッ! 何かを斬り裂くそんな音がした。
俺の鋭い斬撃が敵を切り裂いていたのだ。
そしてすぐさま次の獲物へと襲い掛かり。
また――強烈な斬撃が鋭い音をたてる。
「フハハハハッ! 俺にかかればこれくらい余裕だぜ!!」
次々と、次々と、大剣の餌食になっていた。
「ここには雑魚しかいねーのかよッ!」
……そして。
リサは、公園で子供を遊ばせるように見守っていたのだった。
――少し話は遡る。
「初依頼で少しだけ緊張するな! でもここだよな?!」
「えぇそうよ? 見渡す限りモンスターだらけね」
「本当にココだよな? 木しか生えてないんだけど??」
「えぇそうね?」
「え?」
――更にもう少し遡る。
「じゃぁ依頼は良く分からないからリサ受けてきてよ?」
「分かったわ! なるべく簡単な初心者向けのにするわね」
これが失敗だった。
リサはキコリでも達成出来そうな全く動かない木のモンスター。
キッコリーの討伐依頼を受けてきたのだ……。
俺はせめて少しでも狩り感を味わう為に気分だけでも盛り上げていた。
「こ、こいつ強いぞ――ボ、ボスだなッ!? ごくりん」
圧倒的な存在感の前に思わず唾を飲みツ―っと汗が垂れる。
――――――だが勝負は一瞬だった。
「後5匹ほどで依頼達成よー? 遊んでないで頑張って!」
「うるせぇぞ! 今イィところだったんだよ!!」
「大体なんだよ。キッコリーって! せめてゴブリン的なのにしろよ!」
「だってマコちゃんLv1じゃない! 怪我したら痛いじゃない!!」
「過・保・護かッ!」
こうして俺の初めての依頼は無事終了した。
何が悲しいってキッコリーでLv5まで上がった事だ。
初戦は少しでもいいから苦戦し熱い戦いがしたかった。
苦戦した上で少しずつ、やれる、やれるぞ!ってなりたかった。
しかし切り替えは大切だ!
報酬は1人銀貨2枚も貰え当面の宿屋代にはなりそうだ。
しかもキッコリーの木材を力任せに大量に運んでいた時。
大工のおっちゃんに「ウホッイィ筋肉」褒められ、しかもついでに奢ってやるよと誘われ、俺は今まで余り褒められたことがなかったから正直嬉しかった。だから今はリサとは別れ大工のおっちゃんと酒場で飲んでいるのだ。
「坊ちゃんのクセして力あんなぁ! 俺はぁ初めて見たときびびったぜぇ」
「坊ちゃんはやめてくれよ? これでも18歳だぞ?」
「そんなにチッコイのにかっ!」
「チッコイっていうなよな。それに力だけは自信あるぜ?」
「だろうな。ふぅむぅ」
大工のおっちゃんは何か悩むように俯いた。
そしてまとまったのかフッと顔を上げる。
「今度フォルタナの町で、でけぇ仕事があるんだが兄ちゃんも手伝ってくれねぇか? ちょっと人手が足りねえんだ。報酬は弾むからよぉ」
「フォルタナってどこだ? この世界にハズレで来たばっかだから良く分からないんだよ」
「ここから南に下った所にある一番近い町だ。てか兄ちゃんハズレかぁ」
「まずかったか?」
「いや! 都会じゃハズレをバカにする奴もいるが俺ぁ気にしねぇ!」
意気投合し2週間だけ大工のカチキの手伝いをする事が決まった。
ちなみにこの世界も365日とのこと。
――――当日リサにも世話になったと別れを告げると泣きそうなくらい悲しそうな顔をしていたが、2週間程したら戻るかもと伝えるとパッと表情が明るくなる。そんなリサの見送りと共にカチキの用意した馬車に乗り込み、初めて乗る馬車に興奮しながらパスラ村を出発した。
結構遠くまで行くのかと思っていたが、30分程で馬車は早くも止まりフォルタナの町へ到着したのだ。
何というか予想以上に近かった。着いたらすぐにカチキの指示に従い、町を見物する暇もなく大きな木材を運び始めた。
一日の流れはこうだ。
日の出と共に朝食を食べ、作業し日が高くなると休憩し、また作業し、暗くなるとカチキと他の奴らも一緒に飲みに行く!
この繰り返しだ。
部活とどこか似た生活が懐かしかった。
俺は10日程で資材を全て運び終わり次はカチキの作業を手伝う事になり、この世界の建物は木材で基礎と屋根を作り、その後魔法使いが壁を魔法で作るという異世界ならではの建築方法に感動しながらも、ようやく綺麗な壁の正体が判明したことでスッキリすることができた。
――――13日目ようやく建物が完成した。
完成したのは屋敷とも商館ともいえるそんな建物だ。冒険者に似合わない達成感を味わえたが、リサの事を思い出し少しだけ寂しくなり分からない事もまだまだ多いし、結局パスラ村に戻る事を決め、報酬を貰いカチキに送ってもらった。
その際にカチキが何か作って欲しいものが出来たらいつでも手伝うと言ってくれたけど、初心冒険者の俺には当分お世話になるような事はないだろう。
――――そしてパスラ村へと帰ってきた! が、オカシイのだ。
宿を再び取りに行く途中にリサと出会った時の事。
抱きついてくるだろうと密かに期待していたのにも関わらず、俺に気づくなり走り去っていったのだ。
……なぜだ! なぜなんだ!?