オットー
賭けには勝てたが肝心のオットーを仕留めきれず作戦は失敗に終わり、遂にニッキーが重い口を開き、怒鳴るように宣戦布告し――辺りに緊張が走る。
ニッキ―の威圧感は半端ないが所詮はゴブリンだ。
しかもボスとはいえ外のゴブリン達とたいして背丈も変わらない。
――――正直森で出会った熊のような巨大なボスモンスターだったら逃げ出そうと思ってたくらいだし、戦っても元からボス相手に楽には勝てないだろうと思っていたからこそ、俺はゴブリン相手のこの状況をチャンスだと思った。
だからこそ、ニッキ―の宣戦布告にビビる事なく、大剣を抜き切っ先を向け、すかさず宣言するように言い返す。
「俺はマコトで、こっちはリサだ! お前等こそ俺達の記念すべき初めての討伐ボスモンスターになってもらうから覚悟しろよ!!」
リサも俺の影に隠れながらも続けた。
「そうよ! そうよ!」
張り詰めた空気の中、ニッキ―は何か言い返すこともなく、バンッバンッーっと上等だと言わんばかりに2度空ぶかし、静かな空間に乾いた甲高い音が鳴り響く。
――――そしてオットーはそんなニッキ―のバイクの後ろにヒョコッとまたがり、片手を肩に乗せ立ち上がり、もう片方の手を天に掲げ叫んだ。
「奉天丸くるでヤンス!!」
オットーが叫ぶとポンッと何もない空間からオットーの身長よりも長い槍が出現し、しっかりと掴み、自慢気に振り回し、どうでヤンス、どうでヤンスと言わんばかりのドヤ顔で見せつけてきた。
(くそっ! ……あの時仕留めておけば)
口には出さなかったが表情には出てしまっていたんだろう。
俺の表情を見てかオットーは機嫌良さそうにベラベラと話しかけ始めた。
「驚いたでヤンスか? 驚いたでヤンスか? これこそオイラのボス能力! 万有引力でヤンス! この力があればどんなに離れていても、オイラの所有物として魔力を注いだ物なら何でも呼び出す事が出来るでヤンス!!」
どんな魔法を使ったのかサッパリ分からず警戒していたが、自分からベラベラと種明かしをしてくれたお陰でボス能力なるものだと分かったが、オットーの言う通りならただ物を取り出せる能力だしそこまで警戒する必要はなさそうだ。
――――それよりもニッキーだ。
オットーですら不思議なボス能力を持っていたんだ。
きっとニッキ―はもっと凄いボス能力を持っているに違いない。
だからこそ自然とニッキ―の方へと目線が動いた。
すると視線がぶつかり、ニッキ―はフッと鼻で笑い話し出す。
「ワシの能力が怖いでガンス? 知ったところでお前らはどうせワシを捉えきれないだろうからあえて教えてやるでガンス。ボス能力はA級ライセンス! どんな乗り物でも手足のように扱う事が出来るようになる能力でガンス!」
「え……それだけ?」
一番警戒していただけに俺は思わず聞き返した。
「それだけとは失礼でガンス。今からお前達にはこの能力の凄さを見せつけてやるでガンス! そしてあの世で後悔するでガンス!!」
ニッキ―は真剣な表情で答えているが俺はその真面目な空気にどうしてもついていけず……。
「ターーーーイムッ! 盛り上がってるところ悪いんだが少しだけ時間をくれ! 少しだけだ! すぐ戻るからいいだろ! な? な?!」
――――有無を言わせない勢いで押し切り、ゴブリン達には会話が聞こえないように離れ、リサとヒソヒソと小声で相談しはじめる。
「なぁ、ニッキ―も実は無茶苦茶弱いんじゃないか?」
「そ、そうね! なんだか私もそんな気がしてきたわ」
「あのサングラスが悪いんだよな……どうもあのサングラスを見るとボスを思い出して怯んじゃうんだよ。いやアイツもボスなんだけど」
「しょうがないわよ。かなり試験の時辛かったんでしょ?」
「そうなんだよぉ……」
「サクッと倒して今夜はパァーッとやりましょ!」
「そ、そうだな! サクッとあのサングラスをカチ割ってやるか!」
話もまとまり、いつでも倒せるとでも思っているのか律儀に待ってくれていたゴブリン達の元へと俺達は自信に満ち溢れた表情で戻り、俺はゴブリン達に向け伝える。
「悪ぃ待たせたな! こっちは準備オッケーだ! いつでもやり合えるぜ」
――――俺の言葉を聞き待ちわびていたのか何も答えずエンジンの回転数を一気にぶち上げ、前輪を浮かせウィリーしながら俺とリサの間をニッキ―達のバイクが駆け抜けていった。
なぜかニッキ―達はコースの方へ向かいグルッグルとコースを回りはじめ、恐らくトップスピードまで上げていたのだろうか。
先程コースで見た時とは比べ物にならない程に速いスピードで俺達の方へ向け突進してくる。
そんなゴブリン達に向けまずはリサが一発魔法を放つ。
「――――――クラインフレイムッ!」
ドゴォンッと相変わらず身体にのしかかるような重低音を鳴らし響かせ、突進してくるゴブリン達に向けデカイ火の玉が飛んでいく。
が、ニッキ―が華麗なドライビングテクニックを駆使しアッサリと魔法を躱し、しかもたいしてバイクのスピードを落とす事もなく更にこちらに向け突っ込んでくる。
後はやっちゃいなさい。
そんな表情で何も仕事をしていない癖にリサは俺の後ろへ隠れ。
これなら避けられないだろうと、俺はゴブリン達に向けスキルを放った。
「ソニックブレイブッ!」
ズンッと空気を震わせ鋭い音と共に斬撃がゴブリン達に向け飛んでいき。
今度こそ直撃したかに見えたが、またしても寸前でニッキ―に避けられ。
――直後に猛スピードのバイクとすれ違い。
オットーが槍を突き刺してくる。
が今度は俺が寸前で後ろに飛びのき避ける。
……はずだったが右肩に鈍い痛みが走った。
確かに避けきれるはずだったのになぜか攻撃をくらってしまっていたのだ。
――――なぜだか考えていると答えを待ってくれる訳もなく、キュキュキュッと後輪を滑らせてUターンしまたゴブリン達が戻り今度は俺もゴブリン達に向け斬りかかったが、ニッキ―は思いっきり車体を傾け躱し、またオットーの槍がすかさず飛んでくる――今度こそ避けたと思った後にゴスッと突かれたような痛みがわき腹から伝わってきた。
それからもケンタウロスのように人馬一体ならぬ、バイク一体の攻撃が続き、確かに間合いから離れたはずなのに、バイクの速度が速いせいかスゥーッと手元で伸びてくるかのような攻撃が何度も直撃する。
でもどうやらゴブリン達の最初のターゲットは魂を蹴倒した俺みたいで、魔法は当たらないけどリサに攻撃がいってない事と槍での攻撃自体はそこまで痛くない事だけは本当に助かっていた。
それでも結構な数の攻撃を食らっておりリサがヒールをかけてくれているけど、このまま攻撃を当てる事もできずに食らうばかりじゃどうにもならない。
必死に戦いながらも対策を考えていたが答えもでず、内心焦りだした頃だ。
また槍の攻撃を食らった時、リサが後ろの方から伝えてくる。
「あ、あの槍絶対伸びてるわよ――!」
(そんな訳ないだろう。剣や魔法の世界じゃあるまいし……)
不信そうな表情でリサの方を振り向き小さく首を横に振る。
――イヤッ?! 剣も魔法もある世界だった!!
それに伸びる槍があっても全然不思議じゃない。
考え直しリサを信じてオットーが攻撃を仕掛けてきた時、反撃せずに本当に槍が伸びるのかをまずは確かめる為にも、大きく後ろに飛びのき、上手くオットーの攻撃を初めて躱し、槍の動きもしっかりと見極めるように確認すると……リサの言っていた通り30cmほどだが、確かにヒュッと槍が伸びでいたのだ!
――――こんな単純な攻撃に何度もやられていたのかと思うと悔しかったが、オットーの攻撃の秘密も分かったお陰で必要以上に警戒しなくても良くなり、今度こそ仕留められそうな作戦も閃く事ができた。
すぐさま作戦を実行する為にもゴブリン達が再び突撃してくるのを待った。
そして何も知らずにゴブリン達は再びUターンし俺の方へと突撃を開始する。
そんなゴブリン達に向かい俺も駆け出し。
バイクの手前で高く、高く、飛び上がり叫んだ。
「これでトドメだーーッ!!」
すぐさまオットーが反応する。
「ヒャッハーッ! 隙だらけでヤンス!」
ツヨシとの戦いで恐らく高く飛び上がればその隙を狙ってリーチの長い槍を突きさしにくるだろうと予想は出来ていたし、何度も攻撃を当ててる割には俺が致命傷を負わないことにも焦りも感じていたのだろう。
オットーはニッキ―の運転する最高の騎馬から離れ飛び上がり、隙だらけな俺の急所に向け槍を突き刺しにくる。
だが、予想できていれば避けるのは簡単だ。
俺はぐるんっと体を空中でひねり大剣で槍の先を弾いた。
――その時。
ニッキ―は勘付いたのか叫ぶ。
「オ、オットー罠でガンスゥゥゥ!!」
だが遅すぎた。
俺は槍をかいくぐりオットーに向けスキルを選択する。
「殺人強振ッ!!」
大剣がバッドのようにグニャッと変形し。
――――――強烈な一撃がオットーにぶち当たる!!
「ゴッブッ」
オットーはミシシっと嫌な歪む音をたて。
そのまま地面へと叩きつけられ動かなくなった。
――――そして俺も着地するとリサが駆け寄り話しかけてきた。
「やったわね! これで後はあのグラサン野郎だけね」
「そうだな……でも少しだけ待ってやるか」
「そ、そうね。双子って言ってたものね」
ニッキ―はオットーの元へとすぐさま駆け寄り、オットーを抱き上げ何か話しかけているようだった。
そんなニッキ―に俺達は静かに近寄っていくと、オットーはサングラスの隙間からツーっと涙をこぼしながら話しかけてきた。
「オ、オットーはなぁ、ニッキ―、ニッキ―っていつもワシの背中を必死になって追いかけてきてたでガンス。バイクでもそうだったでガンス。追い抜くことは出来なくても、せめて、せめて並んで走りたいでヤンスって1人頑張るような奴だったでガンス。それを……それを……」
ポトッ、ポトッと大粒の涙をニッキ―がこぼしていると、弱りきったオットーが最後の力をふりしぼる様な声でニッキ―に思いを伝える。
「ゴブッ、ニ、ニッキ―に涙は似合わ、ゴブッゴブッ、ないでヤンスごぶ、お、おいらまだ、ニ、ニッキーと、ゴブゴブッ、一緒にいたかったでヤンス……」
「オ、オットー!! 一緒にいるでガンス。もっと一緒にいるでガンス! だからアレをやるでガンス。」
「ニッキー、ニ、ニッキー……」
オットーはニッキーの名前を最後に呼ぶと身体からは緑色の小さな光の玉がほわほわっとシャボン玉のように浮かんでいき、なぜかニッキーも同じように緑色の小さな光の玉溢れだしていた。
そんな様子を眺めていると、隣からずるるる~~っと鼻をかむような音が聞こえてきたので向いてみると、リサが肩を震わせながらオットー、オットー、となぜか号泣していた。
――――ゴブリン達をそっちのけで、そんなリサの背中を撫でながら落ち着かせ、坑道の入口でちょっと悪そうな顔をしたゴブリンに受けた仕打ちを思い出させていると、ビカァァッと辺り一面に緑色の強烈な光が走った。
何事かとすぐさまニッキーのいた方向を向くと……。
そこには……。
先ほどまでは居なかったはずの何かが仁王立ちでたたずんでいた。
そして一言。
「我が名はゴットー。ゴブリン達の頂点に立つ予定の者でゴブス」




