森の中
「そっちは何か変わった所あったか?」
「ないわねぇ。今更だけどわざわざボスを探す必要あるのかしら」
――――そう言われてみればそうだな。
リサの言うとおり元々ボスを倒したくてダンジョンに入った訳じゃない。
ある程度ゴブリン共を倒して魔塊が集まればそれでもいいのかもしれない。
でも俺は以前リサの転職試練で町の東にある森の中で馬鹿でかい熊形のボスに出会った時凄く怖かったけど、それ以来生意気にもいつかあんなボスモンスターを倒してみたいとも思うようになっていた。
そんな冒険者らしい気持ちと、どんな奴がボスなのか、せっかくここまで来たんだし興味本意だけども見てみたいってのも正直な気持ちだ。
しかしリサは熊形のボスが出てきた時。
逃げ出せない程に固まっていたし、もしかしたらこのダンジョンボスとも戦いたくないのかもしれない。
それにどこか落ち着かない様子でソワソワとしている。
俺の気持ちを伝えてみるのと同時に、ボスと対峙する事になっても平気なのかも聞いておくか。
「正直に言うと俺はボスを見てみたいし出来るなら倒してみたいと思ってるけど、ボスと対峙する事になっても平気か?」
「へ、平気よ! やりましょう」
「即答かよッ!? もしかしたら森の中で遭遇したような奴が出てくるかも知れないんだぞ?」
リサはあの時の事を思い出したのか、少しだけ表情を曇らせたように見えたがすぐに照れたような笑みを浮かべ答える。
「そうねぇ……ふふふ、危ない時はまたマコちゃんに助けてもらおうかしら」
「任せとけよ! ヤバそうな奴なら昨日みたいに抱えて逃げてやるよ」
「ふふふ、それなら安心して挑めるわね」
「だろ? そうと決まればもっとこの場所を調べてみようぜ」
「そうね! でも……」
「ど、どうしたんだ?」
リサは顔を赤く染めうつむきながらボソッと呟いた。
「お、おしっこ行きたい」
「あぁ……」
――――俺はそれ以上は何も聞かずに敵もいなさそうなのでその場から少し離れ、行き止まりになっている場所をもっとよく調べてみる事にした。
しかし全くといって手がかりが掴めない。
本当にこの場所に何かしらの仕掛けがあるんだろうか。
地図まで出来てるくらいだしとっくに調べつくされてるんじゃないだろうか?
――手がかりが掴めずに弱気になっているとリサの呼び声が聞こえてくる。
「ねぇねぇこっち! こっち来てよ!」
「なんだよ、1人でおしっこも出来ないのかよ」
「ち、ちがうわよッ! お、おしっこってなによ!? さ、さっきのはち、違うのよ!! レディな私がそんな事する訳な、ないじゃない!」
「いいからどうしたんだよ」
面倒くさそうに近寄っていくと、リサは地面を指差しながらドヤ顔で答えた。
「ふふふ、見なさいマコちゃん、この穴を!」
リサが指差した先には自然に出来たとは思えない整えられた形をした穴がぽっかりと空いていた。
「おいおい、いくら便所がないからってダメだろ? こんな所に穴掘っちゃ……お前の便所への情熱は伝わったけど、ちゃんと穴は埋めとけよー」
「ちがーう! そうじゃないわ、そうじゃないのよマコちゃん! この穴の形よ! もっとよく見て!」
「なんだよもぅ……」
嫌だな嫌だなぁそんな感じで便所(穴)をもう少しよく観察してみると……。
――もしかして……これは!
「ふふふ、気づいたかしら?」
「あぁ! でもこんな穴よく見つけたな」
――――なぜかリサはまたモジモジと照れ、切り替えるように。
「と、とにかくよ! ハンチョウの杖を差し込んでみましょ! きっと壁がドドーーンと大爆発して通路が現れるはずよ!」
「そ、そうだな、爆発は困るけど、一応何があってもいいように身軽な俺がさしてみるか」
「じゃぁお願いするわ。気をつけてね」
リサはパクパク中袋から杖を取り出し手渡してくる。
俺は杖を受け取りサクッとさしてやろうかと思ったが。
――杖を穴の上で止めリサの方を向きお約束をやってみる。
「押すなよ、押すなよ? 絶対に――押すなよ?」
「押さないわよ。いいからやるなら早くー、こっちも緊張してるんだからぁ!」
まるで俺がこれから爆弾処理でもするかのごとくリサは十分離れた場所に陣取り安全そうな所から様子を見守っていた。
準備万端なリサを見て。
(クソッ! ツヨシだったお約束が分かってくれるのになぁ)
そんな事を思いながら俺は1人虚しくサクッと穴に杖を突きたてた。
――すると杖の先端がピカッと光り坑道内を一瞬眩しく照らし。
≪ゴゴゴゴゴゴッ≫
――――坑道内に地響きがなり通路を遮っていた壁がゆっくりゆっくりと地面へと沈んで消えていき、しばらくすると壁は完全に消えてなくなり奥へと続く通路が現れた。
遠くで見守っていたリサも急いで駆け寄ってき興奮気味に話しかけてくる。
「やったわね! 壁が爆発しなかったのは悔しいけどそれでも凄かったわ。一体どうなってるのかしら」
「まさかこんな風に壁が消えてくなんて思わなかったし凄かったな。でもこの奥には流石にボスが潜んでそうだな」
「そうねぇ、ここからが本番ってとこかしら」
「そうだな! 気を引き締めて行くかー!」
――――俺達は気を引き締め直し地図にはのっていない新しく現れた道へと警戒しながら進んでいったがモンスターは一切出てこず、本当にこの先にボスがいるのか早くも疑いはじめた頃だ。
カンテラの光があってもなお仄暗かった坑道の奥に、まるで外へと通じているかのような小さくでも眩い光が差し込むのが見えてきた。
俺達はさらに光を目指しゆっくりと警戒しながらも進んでいくと擦れたような甲高く耳に響くけど、本当に懐かしい音が聞こえてくる。
≪バーーーンッ、バッバッーーーーーン≫
恐らくだけどこれはバイクの駆動音だと思う。
でもなぜこんな所でバイクの音がするんだ?!
全く分からなかったが、何よりも早く光の先を確認したくなり急いで向かおうと小走りになったところでリサが腕を掴み止めてくれた。
少しだけ冷静になり焦る気持ちを抑え再びゆっくりと近づいていき辿り着いた先で、2人共ヒョコッと頭だけを出し中の様子を確認するように覗きこむと……。
――――そこには何もないような空間が広がってるように見えたが少し息苦しかった坑道内とは違い、天井部分を遮る壁がなく外から日の光が気持ちいいくらいにサンサンと降りそそいでおり、よく地面を眺めてみると白線でコースのような物が描かれていてストレートとコーナーもあり、さしずめ陸上競技のトラックみたいだった。
そんなコースを自転車より少しだけ早いスピードくらい。
時速40kmぐらいだろうか? ボロッボロなフレームにエンジンのような物と車輪がついただけの2台のミニバイクが並んで走っているのがみえた。
このミニバイクが先程から聞こえる音の正体のようだ。
先ほどまでストレートを疾走していた2台のミニバイクがコーナーへと差しかかると、1台が横に車体を大きく傾け身体を乗り出し膝を擦り後輪をキュキュッとドリフトさせながら果敢にコーナーを曲がりきり、もう1台を大きく突き放し俺達の目の前にあるゴール? を通過し静かに両手を天へと突き上げた。
――――遅れて後ろの1台もゴールしバイクにまたがったまま2台仲良くこちらへと近づいてきたが、どんな奴らが乗っていたのか確認するように少しだけ身を引きつつも覗き見、会話に聞き耳をたてる。
「ヒャッハー! やっぱりニッキ―はすごいでヤンス。いっつもあのコーナーでぶっちぎられるでヤンス」
「フッお前はよくやったさオットー。それよりどうやらお客さんみたいでガンス。そこにいるんだろ? 出てきなよお二人さん」
2匹のゴブリンの――背丈は俺の腰くらいでモヒカン頭で、刺さると痛そうなトゲトゲのついた肩パッドをつけ――同じ格好をしていたが、ニッキ―と呼ばれていた方は黒いサングラスをかけ、ギロッとサングラス越しに俺達を睨みつけてきた。
(やばっ、バレちゃったか)
恐らくボスだけあって俺達の気配で気づいたのだろう。
それにモンスターなのに言葉まで喋れるなんて流石といったところか。
しかもあのサングラス……。
(この世界では黒いサングラスが流行ってるのか? ねぇ流行ってんの?)
そんな事も聞きたくなったが、リサと視線を合わせしょうがないかと覚悟を決め、渋々ゴブリン達の元へと歩きはじめ姿を見せた。
すると……。
すぐさまオットーと呼ばれていたゴブリンが俺達の周りをミニバイクでグルッグルと回り始め、パラリラパラリラッっといかにもなホーンを鳴らし俺達を睨めつけながら威嚇する。
「ニッキ―どうするでヤンス? まぢでコイツ等どうするでヤンス?」




