非常事態
「ぷっはぁ~、ダンジョン後の酒は体にしみるぜぇぇ」
「何おじさん臭い事言ってるのよ」
「お前もさっき同じような事やってただろ」
「私のは品があるのよ! 品が! 分かるからしら」
「そうだなそうだなぁ。今日はボスこそ倒せなかったけど最深部まで行けたんだ。ぱぁ~っとやろうぜ! ぱぁ~っと!」
「いつもやってるけど賛成よ!」
――――俺達はダンジョンから無事帰りつき町の酒場にやってきていた。
依頼やダンジョンで危険な仕事だったり体を動かした後に飲む酒は、最高に美味いし打ち上げがてら2人で飲みに行くのはもはや恒例になっていた。
そしてこの町で通っている酒場がある。
どんな所かというと1階建てで内装はテーブルが6つと奥にはカウンターがあるだけのこじんまりとした店で、料理が本当にどれもウマくて料理目当ての冒険者や肉体労働で疲れたゴツイおっちゃん達でいつもごったがえしている店だ。
そして俺の一番のオススメはコロコロサッスだ!
独特なソースで味付けされた肉や野菜が串に刺され豪快に焼かれ、まんまBBQなんだけど厨房にワイルドなアメリカ人がいるんじゃないかってくらいウマくついつい毎回頼んでしまう。
――――ウマい料理をつまみながら2人とも酒がすすみ騒いでいた時だ。
盛り上がっていた雰囲気をぶち壊す怒り狂ったような男の声が酒場中に響く。
「ふざけんじゃねえよ! ナルス」
たまに冒険者同士のいざこざが起きる事がある。
報酬で揉めたり依頼で失敗したりと事情は様々だろうけど、騒がしい雰囲気が嫌いじゃない俺は野次馬根性丸出しで見に行ったりもする。
今日はどんな奴らが揉めているのかコロコロサッスを片手に見物してみた。
ブチ切れてるのは町長の1人息子みたいだが周りにもゾロゾロと連れてるな。
酒場で聞いた話だと町長は凄く真面目で人望もあるらしいが、息子は絵にかいたようなバカ息子らしい。
ナルスって奴はどこかで見かけた気がするんだけど。
誰だったか? 思い出そうとしていると……。
――またバカ息子が怒鳴る。
「今日こそあのベアックルを仕留められるはずだったのによぉ! お前が簡単にノビちまったせいで全部台無しじゃねかぁ!」
「…………」
そういえば未だにリサの転職試験の時に出てきた熊は討伐されてないらしく。
懸賞金もかなり上がったらしいけど討伐パーティでも組んでたのか。
でもナルスって誰だったかなぁ。
……あ!
――思い出した時だ。
「ごふっ」
ナルス――訓練初日に理不尽にぶん殴られた――奴はぶん殴られ吹き飛んだ。
(うわぁアイツ殴られてばっかりだなぁ)
いつもなら知らないヤツ同士が揉めてるだけだし少し見物したらテーブルに戻って飲みなおすんだけど……アイツは一緒に地獄の訓練を突破した数少ない戦友の1人だ。
なので、もう少しだけ様子をうかがう事にしてみた。
ナルスは上半身を起こし殴られたにも関わらず無言で俯いている。
ダメ息子がそんなナルスを蹴りながら罵りだす。
「俺様のように生まれながら固有魔法を持った人間とパーティ組めるだけでも有り難い話なのにハズレの分際で俺様の足を引っ張ってんじゃねえよ! ゴミが! だからハズレは嫌いなんだよ!! ほらなんとか言ってみろよ? このハ グホッ!」
俺はダメ息子の顔面を思いっきりぶん殴っていた。
――――ナルスが可愛そうだとも思ったがそれだけじゃなく……。
ハズレなだけでここまで言われなきゃいけないんだろうか?
この世界じゃハズレを見下す人がいるのは知っていた。
でも実際面と向かってここまで見下す奴を目の当たりにして。
カッとなり抑えきれずに殴ってしまった。
ダメ息子がどうなったのか。
少しだけ心配しながら視線を向ける。
周りからヒールをかけてもらい何とか起き上がり、ダメ息子が連れていた取り巻き達が俺に向かって襲い掛かりそうになるが、ガキ相手にぶん殴られて取り巻きが相手をするのは流石にダメ息子も恥かしかったのか。
コイツは俺がやる。
そんなジェスチャーをし俺を睨みつけ血管を浮き上がらせ。
そして雑魚っぽい台詞を吐く。
「おいクソガキッ! 俺様が誰だか分かってやってるんだろうな? 知らずやったのなら、泣いて謝れば半殺しくらいで勘弁してやるぞ?」
こんなクソ野郎に俺は謝る気なんてこれっぽちもないし。
馬鹿にするような笑みを浮かべ答えてやった。
「ぷぷ、あれだろぉ? 町長の1人息子の名前は確かバカ息子だろ?」
「ハハハッどうやら死にたいらしいな」
「ほらかかってこいよ。 ほらほら」
腕力には自信もあったしおちょくりながら答えてやる。
するとバカ息子はブチ切れ詠唱をはじめる
「ぶっ殺してやるクソガキが! ――――来来雷雷!」
ちょ、せこっ。
――と思った瞬間。
ピカッと稲妻が走り俺に直撃し。
ビリビリビリと痺れるような感覚と一緒に俺は吹き飛んだ。
吹き飛んだ先で誰かにぶつかり止まる。
そして小さく呟く。
「くそっ! 痛ってぇなぁ。いきなり魔法かよ」
今日何発魔法食らってんだ俺……厄日かよ。
そんな事も一瞬思ったが、ダメ息子の魔法はシャーマンに比べれば痛くなかったしすぐさま体を起こすことができ、ぶつかった人に振り向き謝った。
「ごめんよ! ってリサかよ?!」
「この私にぶつかってくるなんていい度胸ねぇ? 土下座しなさい」
リサは完全に酔っていた。
(こいつはホント何なんだ……)
そうこうしているとバカ息子は俺がどうなったのか確認するように近づいてきたのでついでに煽ってやる。
「おいおいおい。自慢の魔法ってはこの程度なのかよ? ゴブリンシャーマンの方が痛かったぞ? びびって損したわぁ。いやビビっとは来たけどねぇ」
「て、手加減してやったんだよ! 次は本気で撃ってやるよ!! 死ねや!」
「うっさいわねぇ!」
リサは機嫌が悪そうに何かを操作し……詠唱を開始し。
「――――――来来雷雷!」
ビカビカッとジグザグな稲妻が走り。
遅れてドゴォンッ。
唸るような重低音が響きバカ息子は吹き飛び焦げ付いた。
おそらくリサは即時学習でバカ息子の魔法を覚え、すぐさま放ったのだろう。
だが……これは流石に……。
「おいぃぃ! リサやりすぎだ……」
俺の嘆きも届いてないようでリサはその光景を満足そうに眺め頷いていた。
バカ息子が焦げ付くとすぐさま回復をかけられていたが中々意識が戻ってこないようで、他の取り巻きたちも流石に武器を構え生きて帰れると思うなよ?
そんな感じでぞろぞろと迫ってきた。
俺は慌ててリサを抱え酒場から飛び出し逃げ出した。
が追ってくる。
「待てこの野郎ッ!」
「待つ訳ねぇだろ!」
こんなベタなやり取りをするなんて思ってもみなかったが。
くっそぉ! どうすりゃいいんだ。
酒場から飛び出すと外はもう暗く。
通いなれた道以外なんてたいして覚えてなく。
本当に夢中で逃げ回っていた。
そんな時急にリサが不機嫌そうに。
「ちょっとぉレディなのよ? あんまり揺らさないでよぉ」
「おぃぃ、少しは我慢しろよ。この酔っ払いが!」
――――そんな時。
「こっちよ!」
聞き覚えのある声に呼びかけられる。
あてもなく逃げ回っていた俺はその声を信じ。
ほんのりと暗くなった道を進んで行くと。
声の主はカレンだった。
「あんた達なにやったのよ」
「色々あってな。町長の」
――言いかけた時。
「もっとよく探せー!!」
取り巻きのそんな声が聞こえてき。
カレンから物陰に隠れるように肘を強く引っ張られ。
ついよろよろっとバランスを崩してしまい。
3人とも派手に倒れ込んだ。
――すぐさま起き上がろうとした時だ。
ぷにっ。
この弾力は!?
俺は目をつぶり再度確認するように。
――全神経を右手に集中させ。
ぷにっ。
この感触はっ、この感触はっ。
ぷにっ、ぷにっ。
ああ、間違いない。
――――――おっぱいだ。




