ドーナッツ
――――以前ダンジョンに入った日から既に10日以上経過したある日。
急に金が入ると不思議と使いたくなるもので、俺とリサは酒場やギャンブル、美味しいものを食べに行ったりとこの町でのプチセレブ感を満喫していた。
そして今日は甘くておいしいふわふわドーナッツがこの世界でも食べられるとの情報を得て俺達は2人で食べに行き、その帰り道の何気ない会話がキッカケだった。
「ふわふわドーナッツ美味しかったぁ。私この町に来て良かったわ!」
「そうだな。それに俺は冒険者にもなってよかった!」
「そうね! 私も冒険者になってよかったわっ」
「でもさぁ……最近冒険してなくね?」
「そうね。最近冒険してないわね」
そんなこんなで。
――――翌日久しぶりにやってきましたジュメレ鉱山。
この鉱山の坑道の中が正確にはダンジョンなんだが、ダンジョンから溢れてきたのか周辺にもゴブリン共が湧き出している。
ゴブリンは――俺の身長の腰ぐらいしかなく、耳が尖って鼻が長くピエロのような帽子を被っている――ちょっと可愛いヤツなのだ。
そして足蹴り一発で倒せちゃうくらいか弱いのだ。
ゴブリン達は倒しても倒してもダンジョンモンスターだからか死体が綺麗さっぱりと消えてなくなるので、遠慮なく俺がそんなゴブリン達をボールを蹴るように倒していると……。
リサが突然。
ゴブリンの目の前に立ち塞がり両手を広げ。
「もうやめて! この子達がなにをしたっていうの!?」
「いやほら? お前も刺されてるぞー」
ゴブリン達は小さいながらも短剣を装備しており、短剣の先っぽで体格差など気にすこともなく勇敢にツンツンしてくるのだ。
だが防御力が上回っているお陰か何度刺されても俺達には全く刺さらず、爪楊枝で突かれる程度の痛みしかない。
だからこそリサは……。
「だ、大丈夫よ。私耐えれるの! この位なら耐えてみせるわ!」
俺はそんなリサを無視しノリッノリで蹂躙するようにゴブリン達を蹴り飛ばす。
「フハハハハッ! ゴブリン風情が! 俺様に刃向かった事をあの世で後悔するがいい!」
「お願いよ! もうやめてあげてよおぉ! この子達はなんの罪もないの! 酷いわ。酷すぎるわあぁぁぁ」
その間もリサはずっとツンツンされておりちょっと悪そうな顔をした一匹のゴブリンが、リサのお尻めがけ勢いよく短剣をグサッと突き刺した。
――すると。
リサの表情がみるみる変わっていきちょっと涙目になりお尻を抑え。
リサは静かに呟く。
「フフフッ。ゴブリンなんて殲滅してやるわ」
――――それからは二人でゴブリン達を蹴り飛ばしながら進んでいき、お尻を抑えたリサとなんとか坑道の入口へと到着できたが……今更ながらヒールしろよと思ったが言わなかった。
前回はロクに準備もせずに乗り込んだせいで暗がりを進むしかなかったが、今回はこのダンジョン攻略に必要な物を色々と準備してきた。
そしてパクパク中袋に詰めてきたのでリサに手渡してもらう。
まずはコレだ!
暗がりを進むのはちょっと怖かったしカンテラを用意した。
この世界のカンテラはマジックアイテムで魔塊をいれるとホワァ~っと淡く光が灯りちょっと綺麗なのだ。
次はコレだ!
カンテラと一緒のお店に売っていた初級魔力回復薬。
その名もミナギルンXだ!
効果は定かではないが店主いわくすんごいらしい。
1つ4000アンラもしたし一個ずつだけ用意した。
そして最後はコレだ!
このダンジョン内のすべての場所が実はもう明らかになっており。
ただ、ボスモンスターも恐らくゴブリンで発見されていないらしく未だ討伐されていないので地図が安く出回っており地図を用意したのだ。
しかし。
地図を手渡してもらうはずが袋のような物をリサは手渡してきた。
一応袋の中身を確認すると昨日食べたドーナッツが詰まっている。
すかさず問いただす。
「おい、リサ」
「なによ?」
「分かってるだろ?」
「出来心よ、そう出来心なのよ! だってお菓子は必要じゃない!」
「遠足じゃねえんだよ! でも……後でたべような」
――――ようやく準備が整い坑道へと再び足を踏み入れた。
前回の反省を活かし今回はスキルをなるべく使わずに進み、俺が前に出て斬撃で敵を倒しリサは後ろからサポートに専念する事にした。
薄暗い坑道を進んでいくとすぐに2匹のハイゴブリンを発見する。
ハイゴブリンは俺と背丈が同じくらいなだけで。
外のゴブリンと外見は殆ど変わらない。
ハイゴブリン達はこちらにまだ気づいていないようだ。
なので素早く斬りかかり1撃でまず1匹仕留め。
――もう1匹が気づいたが遅く。
続けて2匹目もあっさりと切り伏せた。
さらに奥に向かう途中。
何度かハイゴブリンが襲ってきたがLvが前回よりも各段に高いお陰で苦戦する事もなく俺達はダンジョンを進んでいけた。
――――そして前回冒険者を助けた辺りでまた違うゴブリンと出会った。
それは先程のハイゴブリンより遥かに大きく筋肉がムッキムキで俺の身長の2倍ほどあり、しかもいかつい顔をしたマッスルゴブリンだ。
すぐに俺達を発見したのか。
ドッドッドッと重い足音を響かせこん棒を振り上げ迫ってくる。
でもデカいだけでそこまで素早くもない。
――俺もゴブリンに向け駆け出し。
すれ違い様に胴体に大剣を這わせ。
そのまま真っ二つに切り裂いた。
するとリサが。
「暇よ~。ダンジョンに入ってまだ何もしてないんだけど?」
「そんなに戦いたいのかよ?」
「えぇ! 出来たらこのメイスでボッコボコにしたいわ」
(お前クレリックだろう……)
少し進むとまたマッスルゴブリンが出てくる。
今度はリサがうるさいので任せてみた。
――――リサは本当にメイスで戦ってみたかったのだろう。
先端の光る玩具のステッキで必死に戦っているのだ!
マッスルの重たそうな一撃を小盾ながらうまく受け止め。
坑道内に鈍い金属が擦れる音が響き渡る。
そしてリサもマッスルの鍛え上げられたシックスパックへと。
玩具のステッキですぐさま反撃した。
ペチンッ。
シックスパックが音をたて坑道内に痛そうな音が響く。
しかし倒れない!
マッスルは硬いしタフなのだ!
それでも叩いて被ってジャンケンポンみたいに。
何度も何度も防ぎ、叩き、防ぎ、叩き。
ペチンペチンッ。
シックスパックから痛そうな音を響かせ。
リサは不屈の精神で繰り返している。
必死に玩具のステッキで頑張っているのだ!!
――――俺はそんな様子を見かねて一言だけ伝える。
「早くしないとドーナッツ全部食べちゃうぞ~」
「ま、待ってよ! お願い! 待ってよね!!」
「―――――クラインフレイムッ」
ためらいもなくリサは魔法を詠唱し。
マッスルはアッサリと燃え尽きた。
――そしてすぐさま駆け寄ってき。
「ど、ドーナッツ私の分あるわよね?」
俺達はドーナッツを仲良く分け合い休憩し。
――――また奥へと進んでいった。




