プロローグ?
――――酒場の近くにあるツヨシ宅が見えてきたが外観は2階建てでこの辺りの家と比べても全く遜色なくツヨシと妹の2人暮らしにしては立派な建物で、正直羨ましいくらいだ。
「これがツヨシの家かよー! 凄い立派だな!」
「ま、まぁまぁ立派ね! ツ、ツヨシさんはす、凄いお金持ちなのね」
「だろだろぉ? よし到着したしまずは客人から先に入るだぁ」
家の前に到着するとツヨシが扉を開けてくれ「ただいま~」とツヨシが伝えて俺が最初に入ろうとすると。
――ダンダンダンッと階段を急いで駆け下るような音と同時に女の子の声が聞こえてくる。
「バカ兄貴遅いわよ! もう料理は出来てるんだからねッ!」
一番に家の中へと案内された俺と――髪は長く、二つに纏め桜のような色をした、細身で一つ大きな特徴のある――恐らく妹さんと目が合った。
――――――その時!
すぐさま女の子が駆け寄ってき泣きながら俺に抱きついて。
「お、お兄ちゃんッ?! し、し、試験で何があったのよぉおおお!? だ、だ、大丈夫なの?! ど、どこも怪我とかないのよねッ?! か、格好良かったお兄ちゃんが縮んでるよぉおおおん!」
(まさか1日に2回も女の子に泣きつかれるなんて――フッ罪な男だぜ!)
そんなモテ男(仮)を気取っていると……。
「ダハハッ! オラはここだぁ。カレン帰ったぞぉ!」
俺から妹はスッと離れ嫌悪感をむき出しの表情で睨みつけてき指さし態度を急変させた。
「お、お兄、ば、バカ兄貴遅いじゃないッ! じゃぁだ、誰よコイツは!」
「コイツとは失礼だな。俺はマコト・ノウネンだ!」
「オラの友達だ。ほらカレンも自己紹介するんだぞぉ?」
「ふんっ! 私はカレン・ホンダ16歳! そこのバカ兄貴の妹よ」
(ツ、ツ、ツンデレかよ~! ベッタベタじゃねぇかッ!)
ツンデレの強烈な破壊力をまざまざと見せつけられ、くそぅ俺も妹が欲しい!
と切実に思っているとツヨシがテーブル席まで案内してくれた。
「紹介も終わったし飯だぁ! マコト達も遠慮せず椅子にかけてくれ」
挨拶もそこそこにテーブルには美味しそうな料理が沢山並べられており、正直家の外までいい匂いがしてたし、もう腹が減って限界だったので遠慮なく席に着こうとした――その時だ。
唐突にカレンが俺を見て質問してきた。
「ねぇ? ……マコト? その背中のソレは、な、何なの?」
「これか? 珍しいだろ? 俺の装備品だ。気にしないでくれ」
「………………シャー」
背中にはリサがピッタリとへばり付きどこか興奮している様子だ。
転職したお陰か背中に乗られても全然重くもなくそのままに気にせず席に着こうとしたのだが……カレンは納得出来ずに大声でまくしたててきた。
「いやいやいやいや! 気にするでしょ? ど、ど、どう見ても人じゃない?! マ、マコトお、おかしいんじゃない!?」
「はぁ~、俺はこうみえて18歳だから君より年上なんだぞ? だからちゃんとマコトお兄ちゃんって呼ぼうな! それが常識だぞ」
お馴染の年齢での誤解を早いうちに解き俺は、何事もなかったかように席に座ろうとしたが、未だにカレンは納得出来ていない様子で。
「いやいやいやいや! 今そんな事どうでもいいからッ! どう見てもマコトの背中の方が非常識じゃない?!」
「おい! お前あんまり大声で話しかけるなよ! うちのリサがビックリするだろ? なぁリサ~」
「……………シャー」
俺は赤ん坊をあやすようにリサの頭をよしよしと撫でた。
「く、狂ってるわ……」
――――流石にそんな様子を見かねたツヨシが事情を説明する。
そしてなんとかリサも落ち着きようやく皆席に着いた。
「そ、そう、極度の人見知りでしたのね。 リサさんご、ごめんなさい!」
「い、いえ! わ、私も一番お姉さんなのに、こ、こんな醜態をお見せし、しまって、ごめんなさい!」
場も和みツヨシも安心して切り出す。
「じゃぁそろそろ食べよう。味はオラが保証するぞぉ!」
一斉に。
「「「いっただきまーーす!」」」
勢いよくモシャモシャと口いっぱいに頬張るように俺とツヨシは食べ始め、リサも最初は遠慮していたが一口食べると止まらなくなっていた。
本当にどれも美味しく7日間の地獄の訓練を忘れられるような味で、疲れた身体が癒されるようだった。
――――食事もたっぷり堪能し酒を飲みながらの歓談タイムが始まった。
「なぁツヨシ? こんな立派な家どうやって手に入れたんだ?」
「それかぁ、オラ達を鑑定してくれたのがこの町の町長さんでな~、格安で借りてるんだぁ!」
「そうだったのかぁ! 俺も頼めば借りれたりするのか?」
「ふんっ! この世界じゃ国が住民に土地を用意してくれるから賃貸なんて殆どないわよ?」
「でも宿屋は毎日ゴロゴロしてても掃除や洗濯しかも食事だって出るじゃない! 無理に借りなくてもいいじゃない!」
絶対に宿屋から出たくなさそうなのが1人居た。
確かにお金さえ払えれば不自由することはないけど、せっかく異世界に来たんだし俺は大きな家を持ったりもしたかった。
主に女の子とイチャイチャしたかったのだ!
ラッキースケベでもいいから味わいたかったのだ!
そんな密かな野心と男の夢を分かってくれたのか、ツヨシがアシストするように土地について思い出した事を教えてくれる。
「そういえばオラ達みたいな異世界人でも、冒険者として功績をあげれば国から土地を貰えるとか聞いた事あるぞぉ」
「ほ、本当かよ!? てか前から気になってたけど国、国ってここもどこかの国の領地なのか?」
「そうよ? そんな事も知らないの?? この大陸はグーデンス王国が治める領地よ?」
「そ、そうなのよ? マコちゃんはもっとこの世界の事も知らないとね!」
1人はスルーしとくとして……。
「何にしても功績なんてまだまだ無縁だよなぁ」
「ダハハッ! そうだなぁ」
「それより俺はずっと気になってる事があるんだけど……」
みな、急に何なんだ? と少し戸惑うような表情をしていたが続けた。
「なぁ、カレンの耳が、その、エルフみたいなんだけど?」
「エルフですけど? なによ? 文句あるのッ?」
――――あの質問の後に俺とツヨシは部屋の隅に移動しコソコソと妹について熱い議論を繰り広げていた。
「おいツヨシ! 妹がエルフってどういう事だよ?」
「ダハハッ……。オラも最初ビックリしたんだぁ――耳以外は髪くらいしか変わってないはずだが種族が変わってるとはなぁ」
「しかしエルフかぁ……。くそぉ!」
そんな言葉を聞いてツヨシが何故か悲しげな表情で尋ねてくる。
「妹の種族が違うってのは気持ち悪かったかぁ?」
「いや、むしろ羨ましい!」
「ダハハッ! マコトがそう言ってくれて嬉しいよ! この世界でもエルフは珍しいらしく最初は気味悪がられたからなぁ」
「それよりだ、お兄さん! どうやったらエルフの妹が出来るんだ? いやせめて『お兄ちゃん』と呼ばれるにはどうすればいいんだ!?」
「そ、そうだなぁ? カ、カレンに聞いてみたらどうだぁ?」
さぁどうするか?
気の強そうなカレンちゃんの事だ!
きっと普通にお願いしてもいい結果は期待出来ないだろう。
ムフフッ、だが俺にはある秘策があったのだ。
だからこそ早速カレンの元へ向かい実践してみる。
「カレンちゃん! ちょっといい?」
「てかカレンでいいわよ。で、あたしに何か用?」
「オラの事お兄ちゃんと呼んでもいいんだぞぉ?」
完璧にツヨシの口調は真似したし間違いなくこれで呼んでくれるはずだ!
フッ俺は勝利を確信し反応を待つように目を閉じた。
が……反応がない?! どういう事だ!?
そうかオーケイオーケイ!
聞こえてなかったんだな! ワンモアだ。
「カレンちょっといいか?」
「カレンって気安く呼ばないでくれる?」
カレンは嫌悪感むき出しの表情で言い放った。
俺は心の傷を癒すためリサに助けを求めようと視線を移す。
――しかし目が合うとすぐにそらされたのだ。
さっきまであんなに懐いていたのに!
これが反抗期というやつか……。
仕方ない不本意だが一旦ツヨシの所に戻り作戦を立て直す事にした。
「なぁツヨシ、何でカレンはお兄ちゃんって呼んでくれないんだろうか?」
「そ、そうだなぁ、兄妹じゃないからじゃないかなぁ?」
「そうか! なら今日から俺はツヨシの兄という設定で行こうじゃないか」
ツヨシは何かいいたげだったが少し呆れた様子で何も言わなかった。
そして俺は再び絶対的な自信を得て再度チャレンジする。
「カレンちゃーん! 今日から俺ツヨシの兄だから!」
「そうですか、良かったですね」
カレンは表情1つ変えずに言い放ち。
薄っすら俺は目頭が熱くなり、トボトボ元居た場所へ戻っていくと無言でリサが頭を撫でてなぐさめてくれた。
――――そんなこんなで翌朝。
「いやぁすっかりお世話になっちゃったな!」
「お、お世話になりました。料理とってもおいしかったです」
「ダハハッ、またいつでも遊びにくるんだぞぉ! それに依頼も何かあれば言ってくれぇ」
「リサさん! いつでもいらしくださいねッ」
「おい! 俺は!?」
「ふんっ!」
――――ツヨシ達と別れ俺とリサは町の中央にある広場でこれからの事を相談していた。
「2人とも無事転職出来たけどこれからどうするか?」
「そうねぇ? マコちゃんは何かしたい事あるの?」
「俺はツヨシが言っていた功績ってのも気になるけど、異世界に来たんだしダンジョンは外せないだろ」
「そっかぁじゃ行きましょ!」
「即答かよっ! リサの事だから反対するかと思ったぞ」
「マコちゃんと出会わなければきっとまだ村に居たわ。でも村を一緒に出てくれたお陰で沢山の事が経験出来て毎日凄く楽しかったの! だから迷惑かける事も多いけどこれからもよろしくね?」
リサは少しだけ照れくさそうに微笑みながら伝えてきたのが、なんだかいつもと違って凄く可愛くて俺まで照れてきた。
だから照れ隠しをするようにワザと明るく振る舞った。
「当たり前だろ? それに俺らはパーティだしな!」
「ふふふ、そうね。それに小さな子1人なんて危ないものね!」
「小さいっていうなよ! 何にしても長い長いプロローグだったぜ!」
「私たちの戦いはこれからね!」
「おい、何かそれ終わりそうな雰囲気じゃねえか!」




