僕らの7日間
――――翌日早朝から訓練場の宿舎前へ来いと言われ俺は覚悟を決めて指定されていた場所に向かうと俺を含め既に10人程集まっていた。
恐らく同じ訓練を受けるのだろう。
これからどんな訓練が始まるのか俺と同じく知らされていないのか、ザワザワとざわつき皆どこか不安そうな面持ちでボンズの到着を待っていた。
そんな中ようやく黒光りしたボンズがやってきたが、両脇には美女2人をはべらせしかも黒い大きなサングラスをかけ、ニカッと白い歯を見せつけるように薄気味悪い笑みを浮かべ宣言する。
「よう糞虫共。お前らはカスだゴミクズだッ! そんなお前達でもこの訓練を乗り越えた時一人前の兵士となる。だがな俺は他人に厳しい男だ。情けをかけてもらえると思うなよ?! 倒れた奴は容赦なく叩き起こすし、弱音を吐いた奴は修正する! 分かったかッ!? 」
(き、昨日とべ、別人じゃねえかぁッ!)
と、とにかく返事だ! みな一斉に。
「「はい!」」
返事が終わるとボンズは1人の青年の前まで歩き。
――いきなりぶん殴った。
「ゴフッ」青年は思いっきり吹っ飛び一瞬で場の空気が凍りつく。
青年は口から血を垂らしながらもなんとか上半身を起こす。
さらにボンズは吐き捨てるように言い放つ。
「お前らぁ! ここでの返事は『イエッサー』だろうがッ! ここじゃ俺の事はボスと呼べッ! 分かったかッ!?」
「「イエッサー! ボス!」」
俺は早くも後悔した。
そもそも異世界での訓練なんてと師匠と弟子みたいな関係で、最後は良くやったぞ! お前に教えられる事はもう何もない!
そんな展開だと甘く考えていたからだ。
しかしこうも想像と違った以上。
詐欺だ――契約無効だ! と言って帰りたいがそうもいかないだろう。
なら取るべき道は1つだ!
…………そう逃げよう。
――――キョロキョロッと周囲を見渡し冷静にその機会をうかがう。
そして、一人の青年が先陣を切った!
「こんなのやってられないッスわ~」と言い切り。
この場所を離れ、それに続くようにもう1人の青年も動く。
俺も逃げようと思ったがまずは様子を見ることにした。
すると……。
「――――――フレイムバーストッ」
青年2人は出口まであと少しの所で爆発に巻き込まれ吹き飛んだのだ。
ガクガクと小刻みに身体を震わせ状況が呑み込めないまま動揺してオロオロとしているとボスがまた俺達に向かい薄気味悪い笑みを浮かべこう告げる。
「まだゴミ以下が紛れていたようだな。早速修正してやったが、逃げ出したければ逃げ出せばいい! だが相棒のキャサリンの魔法が容赦なく炸裂する! そして瀕死になってもジェシカの回復魔法ですぐ元通りだ! クックック簡単にリタイア出来ると思うなよ?」
ここは……地獄だ。
……俺達は覚悟を決め叫んだ。
「「イエッサー! ボス!!」」
こうして地獄の7日間が始まった。
まずは最初にやる訓練をボスが罵りながら説明する。
「お前らはステータスに頼りきっただけの木偶の坊だ! 大方ハズレで普通の人よりは能力だけは高くそれ頼みでやってきたんだろう。そんな能力を使いこなせない木偶の坊には、俺が良いというまでこれをやってもらう!」
「「イエッサー! ボス!!」」
そう告げるとボスは、右にステップし地面をタッチすると切り替えし、今度は左に2歩ステップし地面に手をついたのだ。
そう反復横飛びだ。
流石はボスだけあってシュシュシュッと気持ち悪いくらい早い。
合図があり訓練がスタートしみな真剣に反復横飛びを開始した。
そして俺も反復横飛びを開始していたのだが、以前部活でやっていた時とは違いうまく力加減をコントロールできずに切り替えを何度何度も失敗したり、ステップの幅が遠くなりすぎたり中々難しいのだ。
悪戦苦闘し初めのうちは楽しかったんだ……でも。
もう何時間やっているだろうか?
すっかり日は高くなっておりバタバタと倒れる者も出始めたのだ。
ヒールじゃ傷は治っても体力までは回復しないらしく、倒れるとまずはボスに一発ぶん殴られ、それでも起きなければ水をぶっかけられる。
それが気絶するまで続くという超スパルタだ。
そして先ほどから何度倒れても倒れても、起き上がってくる――図体がデカくちょっとポッチャリとした黒髪の男――がいた。
何度ぶん殴られても立ち上がりまた開始するさまが印象的だった。
――――日も傾き今日の訓練がようやく終了し、俺は何とか殴られずに済み宿舎に戻ると中から美味しそうな匂いが漂ってき、匂い誘われるように辿っていくとそこには大量の夕食が用意されていたのだ。
訓練で激しい運動をしすぎて食欲が失せ食べれずに倒れこんでいる奴もいたが、俺は訓練でかなり腹が減ってたしすぐに食事に飛びつきムシャムシャとかきこむように食べはじめた。
すると先ほどの図体の大きな男が隣に座り話しかけてくる。
「やぁ、小さいのに凄いんだなぁ」
「小さいは余計だ――それにこれでも18歳だ! それよりあんなにぶん殴られてよく平気だな」
「だはは、オラは頑丈なのだけが取り柄なのだぁ」
「なら俺は筋力だけが取り柄だな」
「オラの自己紹介がまだだったなぁ ツヨシ・ホンダ同じく18歳だぁ」
いかにも日本人のような名前だ。
……もしかしたらと思い聞いてみる。
「俺はマコト・ノウネンだ。てか日本人!?」
「オラはそうだぞぉ。マコトもなのかぁ?!」
この世界に来る前かなりの数が並んでいたし、元日本人に会う事もあるとは思ってはいたけどまさかこんな所で会えるなんて思ってもいなく凄い嬉しかった。
例えるならマイナーな外国で日本人と知り合ったようなそんな感じだ。
そこから俺達は一気に仲良くなり話を聞くと妹も一緒にきたらしく、俺と同じように書類に見栄を張って姿を変えられたらしい。
もっと話をしていたかったが明日も早いので今日は寝ることにした。
――――そうこうして三日が経ち次の訓練が始まった。
それは組手だ!
二人一組になりより実践的な形式で戦う事になりこれなら少しは楽出来るなぁ思っていた時だ。
初日に「こんなのやってられないッスわ~」と逃げ出した最初の1人をボスが呼び出しお手本だと伝え、皆の前でいきなりぶん殴った。
そして手加減した奴は直々にボス自ら相手してやると脅したせいで、みんな顔つきを変え真剣に取り組んでいる。
しかし体術なんて力任せに殴ったり蹴ったりすればいいんじゃ?
程度に考えていたが投げたり、関節技だったりと複雑だった。
なんとか基本的な動作も身につけ更に2日経った日の訓練後いつものようにツヨシと話をしている時に知ったんだが、何でもこの訓練は近接職全般の試験らしくツヨシは俺とは違いナイトランサーに転職したいそうだ。
どんな職か就けたら見せてもらう事を約束した。
――――5日目遂にそれぞれが武器を持ちまた二人一組で今度はそれぞれ普段の実戦と同じようにやり合う事になり、怪我すれば痛いがジェシカさんの回復魔法と、もし怪我で死んでしまっても5分以内なら復活出来ると聞き最初は恐かったが最後は遠慮なくやり合った。
――――そして遂に最終日がやってくる。
最終日の朝いつもより早く俺は集合場所に集まりボスを待っていた。
そして朝日をサングラスに反射させながらボスがやって来てこう告げる。
「お前ら良くここまで耐え抜いた! だがな、まだお前達には最後の試験が残っている……それは昨日と同じように二人一組で決闘をしてもらう! その結果を見て俺が判断する。相手をぶちのめし一人前の兵士になって来い!」
「「イエッサー! ボス!!」」
この時なんとなく、なんとなくだけどツヨシと当たる気がした。
そしてやっぱりツヨシと当たった。
もしもに備え一組ずつ試験が始まり俺達の番がやってくる。
「勝っても負けても恨みっこなしだからなー!」
「オラも負けてあげる気はないぞぉ!」
ツヨシの武器は大きな盾に騎兵が持ってそうな大きなランスだ。
対する俺は村長に貰った大剣一本だ!
素早さなら俺のが断然上だし開始と同時に速攻ぶちこんで終わりにしてやると合図を待った。
そして……「ドーーン」と鈍く重い開始の合図が鳴リ響く!
合図と同時に大剣を引きずるようにし。
――ツヨシとの間合いを詰める。
ツヨシは俺が先手を取ると読んでいたんだろう。
盾を正面に突き出しその場から動かずにガッチリと守りを固めた。
「その盾ごと吹き飛ばしてやるよ!」
引きずってきた大剣を突き出された盾に向け。
――下から本気で斬りあげる。
が後ろにうまく仰け反られ威力を殺されダメージは与えられなかった。
「おい! そんな防ぎ方ずるいぞー!」
「ダハハッ! 硬いのだけが取り柄っていっただろぉ?」
「くっそぉー! 絶対その盾ごとぶった切ってやるよ!」
構え直し目の前までまた迫り。
今度は思いっきり大地を蹴り上げジャンプし。
力の全てを乗せてぶった切ろうとする。
が――ツヨシのランスが空中に飛んできた。
俺はなんとか大剣でそらしながら避けれたが攻撃は出来なかった。
「おい! ランスもずるいぞー!」
「ダハハッ! チクチク突き刺してやるぞぉ!」
そこから何度となく斬りかかるが、盾に弾かれ、隙を見せるとランスが飛んでき中々ダメージを与えられずにいる。
そしてある事を思い出す!
(そういやスキルあるじゃん)
しかも対人型効果大だ!
きっと凄い威力でツヨシは怪我をするかもしれない。
……けどジェシカさんもいるし使わなきゃ勝てる気もしないしな。
俺はスキルを使う事を選択した!
また守りに徹してるツヨシを横からぶった切るようにスキルを発動させる。
「ツヨシ悪いなッ――もらったぁッ! 殺人強振!!」
「ダハハッ! 鉄壁陣!」
スキルが直撃し盾を砕いたがそこで何かに弾き返され。
ツヨシのカウンターでランスの切っ先が左肩をかすめる。
「くっそぉー! そんな奥の手があったのかよ!」
「だからオラは硬いっていっただろぉ? でももう使えなぞぉ」
「俺のスキルはまだまだイケるぜぇ! 殺人強振」
そのまま盾をなくしたツヨシの胴体に向け無慈悲な一撃を放つ!
「ダハハッ! 鉄壁陣!」
カンッと軽い音と同時に攻撃がツヨシの身体にまた弾かれる。
「おい! 使えるじゃねぇかー! ずるいぞー!」
「ダハハッ! も、もう使えないぞぉ!」
そんなやり取りをしていると。
……ボスが合図を鳴らし止めに入り一言告げる。
「お前らは2人とも合格だ」
俺達は顔を見合わせ両手を突き上げ喜んだ!
「「シャー―!」」




