みっしょんいんぽっしぶる
――――教会前に到着すると何だか中が賑やかみたいだ。
そこで……。
「はい! 現場のマコトです」
「先ほどから教会内が賑やかで――何だか悔しいので早速ですが、突撃し中の様子を確認してみようかと思います!」
俺は何となくノリノリでレポートをやってみた。
そして教会の扉を開けようと手を伸ばそうとした――その時!
――その時だ!
中からリサの楽しげで大きな声が聞こえてくる。
「えぇ~恥ずかしいですよー」
アイツ等一体何をやっているんだ……。
俺はこの一言を、たった一言を聞き必死に考え抜く。
今リサはビッチと一緒に何かをしてるはずだ!
先ほどまでのはしゃぎ具合から察するとリサはもうビッチと打ち解けていると見て間違いないだろう。
そして女の子2人で恥ずかしい事って言ったら……なんだ!?
恋愛関係か?! 待てよ……リサはこの世界に来て1年近くずっと村に引きこもってたはずだ……。
(くそっ! 情報が足りない)
――――こうなったら危険だが潜入しよう!
決してやましい気持ちからではなく、ガールズトークをこっそりと聞きたいとか、俺の事褒めてるんじゃないかとか、エッチな事を期待してる訳じゃない!
断じてないのだ! 誰かに言い訳するように、静かに隠れながら扉を開け――匍匐前進で距離を詰めてみる。
呼吸を殺し、ジリジリと忍者のようにッ、また暗殺者のようにッ、そして特殊部隊の隊員のようにッ! とにかくジリジリと詰め寄っていったのだ!
長椅子や柱などに隠れつつシュッシュッと映画のように近づいて行く。
そして……ようやく会話が聞こえる距離まで近づいた。
「それでも恥ずかしいですよ~」
「お願いします。今度無料で魔法をお教えしますから! ねッ?」
ビッチが何かを頼んでるようだが聞くだけじゃ分かりにくいな。
(バレたらバレたで言い訳しよう)
ヒュッと頭だけを物陰から出し2人の様子を伺う。
二人は向き合いビッチは両手をリサの胸の目の前で触らせてくれようッと言わんばかりに指先を動かしている。
ビッチのやつ……何をしようとしてるんだ!?
俺には全然分からなかった。
全然分からなかったからこそ強く念じた。
(ビッチ頑張れ! そのまま揉んでしまえ)
すると……リサが遂に観念したようだ。
「確かめるだけですからね~」
すかさずビッチは無言で何度かコクコクと頷き、そしてゆっくりと、ゆっくりと両手をリサの胸へと近づけていったのだが……。
ここで問題が発生する。
今の位置じゃ肝心の所が見えないのだ!
すぐさま場所を移動し食い入るように正面から眺めていると……。
ビッチが遂に、遂に、がしっと、いや、わしっと掴んだのだ!
(ビッチ! そこからいっっけぇぇぇぇぇ!!)
思わずグッと力が入ると椅子に強くぶつかり。
「ガタッ」大きな物音をたて更に声まであげてしまったのだ。
「あっ」
その時の出来事をある人はこう振り返ったという。
『時が止まったようだったよ』
2人の視線が突き刺さり。
――俺も後ろを振り向いたが当然誰も居なかった。
さぁどうする?
限界まで思考を加速させこの状況を乗り切る策を。
乗り切れる策を! 必死に考える。
そして閃いた……それは。
両手の人差し指と親指を直角に立て長方形を作るように合わせ、カメラマンが写真を撮るように、そう被写体として見てたんですよ?
そんなアピールをする事にしたのだ!
当然このポーズが理解出来ない2人は、不審がり今にも覗き野郎と罵りだしそうな雰囲気だが――カメラマンが撮影する時や、画家が絵を描く時、声をかけそうなセリフを冷静にかけながら、指でポーズを取りつつ近寄っていったのだ!
「いやぁ今の絵凄く良かったですよ~、2人とも美人だしもう少し次は挑発するような感じでいってみましょうかっ!」
(絶対ぶん殴られるだろうなぁ)
……どんどんと2人へ近寄っていく。
完全にリサは覚悟は出来てるんだろうな? そんな感じで殴る準備に入り肩をグルグルと回し温め始めていたが、が、ビッチが、なんとソワソワとしだし、まんざらでもないのだ! そうまんざらでもないのだ!
ど、ど、どうしよう……まだ殴られて謝った方がマシだったのに……1人信じちゃってるんですけど?!
「あの、こんな感じですか?」
勝手にポーズまで取り始めたんですけど!? 何なのこの人?!
遊び半分だった。
なのに怖くなった。
ビッチが何だか怖くなった。
俺が変な嘘ついたからいけなかったんだ。
……そうだ謝ろう。
「すみませんでしたー! 冗談なんで勘弁して下さい」
……俺は半泣きで土下座した。
――――そして何とか許してもらったが、ビッチは恥ずかしそうに教会の隅に隠れるようにうずくまり、未だ心に負った傷を癒せずにいたが、今はそっとしておいてあげようと俺達はウォーリアの試験を受ける為教会を後にし町はずれにある訓練場へと向かった。
道中2人で何をやってたか何度かリサに聞いてみたが誤魔化されてしう。
そうこうしていると宿舎のような建物と柵で草原を大きく円形に区切りその中で槍を突いたり周りを走る集団が見えてくる。
その中にあって遠くからでも存在感が半端ない黒光りした男がいた。
ココを仕切ってる人だと思い近寄って行き――黒人のスキンヘッドで短パンにタンクトップのような軽鎧を着け――指示を飛ばしていた男に尋ねてみた。
「ウォーリア試験を受けに来たマコトだけど、この場所であってる?」
「オーケーオーケー! Meはボンズだ! ボーイは入隊希望かい?」
「入隊というか試験を受けに来たんだけど?」
「オーケーオーケー! ボーイの実力を確認ついでにMeと勝負だ!」
「勝ったらさっさと転職させてくれよ?」
「オーケーオーケー!」
いきなり勝負と言われ戸惑ったが勝てば試験突破なら楽でいいか。
その程度で考えていたが正直なめていた。
大剣を抜き、開始と同時に俺は間合いを詰め斬りかかる!
しかし簡単に避けられてしまう。
その場で更に横に振り回すも虚しく空を切る。
何度も何度も斬りかかり振り回すが、シュッシュッと殆ど動かずに簡単に避けられてしまい全然当たらない。
この世界に来てレベルも上がり腕力も素早さも跳ね上がったはずなのに全く当てれず空振りするだけで息を切らせ休んでいると……。
「ボーイは全然ダメだね。基本が出来てない。ただ力任せに振り回してるだけじゃMeには当たらないよ」
剣の扱い方や戦い方を習った訳じゃないがそれでも勝負にはなると思ってただけに悔しかった。
その後も何度も、何度も挑んだが結局かすり傷1つつける事も出来なく。
「ボーイはここで1週間入隊ね。ガールは1週間後またきなさいオーケー?」
「悪ぃなリサ! 1週間人見知りで大変だろうけど我慢してくれ!!」
「私は大丈夫だから……あまり無理しないでね」
――――俺は1週間入隊し鍛えられることになった。




