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選択したその先へ  作者: 圭作
長い長い準備運動
1/24

選択

 母さん俺今までの人生で一番迷ってるよ。

 




 ……これからの選択を。





 進路? 違う。



 就職先? 違う違う。



 デートの行き先? だったらいいな!

 


 ――――またお姉さん達がやって来たか。



 「天国行きは10日待ちでーす」

 「地獄行きならすぐ行けますよー」

 「異世界召喚ご希望の方は8日待ちの書類に記入して頂いた後順次でーす」

 「転生ご希望の方は20日待ちでーす。書類審査と簡単な面接もありまーす」



 俺は死後の選択を迷っていたのだ。



 ここは死者で賑わうあの世とこの世の狭間。

 しかも異世界まで行けるそんな場所みたい。

 

 それぞれの行き先へと続く鳥居が別々にある。

 鳥居をくぐった先には長い長い石段が続いてるように見え、頂上はここからじゃ窺い知る事もできやしない。しかも石段にすら登れない人達が鳥居からも数えきれない程大量に溢れ。ズラーッと長い列を作っていた。

 

 そして俺は石段の麓にあるだだっ広いだけで何もない空間で1人。

 転生もいいな。でも召喚もいいな。行き先を決めきれずに悩んでいる。

 

 それにしてもこの場所が死者ばかりだと聞いた時つい。


 「核戦争でもやってんのかよッ」


 ツッコんでしまったくらいごったがえしているのだ。


 でも誰に聞いたかって?


 それはこの不思議な場所で目覚め段々と意識がハッキリとしてきた時。

 俺は死んだことも理解できずに何が何だか分からずその場で呆然と立ちすくんでしまっていると……ボロッボロの服を着た見すぼらしいオジサンが声をかけてくる事案が発生した。


 「おらは迷っててねぇ、兄ちゃんは決めたかい?」


 (何このオジサン怖い)


 正直第一印象は怪しいオジサンだ。でも本当に一人なのが不安で誰かと話したかった。なので話を聞いてみると親切にもオジサンはこの場所について丁寧に教えてくれたし、た、たぶんこの場所については間違っていないはずだ。



 ――――今までの人生では、たいしていい思いも出来なかった。だからこそ俺はオジサンの話を信じ絶望するより、むしろこれからの行き先を選択できるのなら、じっくりと悩み抜いて決めたいし、せっかく選べるのなら今までの人生で味わう事のできなかった体験が出来そうな所が良いと前向きに考えていた。


 そんな中で色々と悩み抜いた結果。

 天国は多分楽園なんだろうけど……公務員みたいで面白みに欠けるかな?

 

 それになんとなくだけど、卑猥な感じが一切なさそう!

 ザ・健全って感じがちょっとね……。


 ――だからといって地獄はあり得ない!

 すいてるけどね~。

 

 だからこそ召喚か転生のどちらにするか悩むところだ。


 ただ、やっぱしこういうのは初めてだし? その不安だ。

 しかも頼れる先輩や。

 初心者でも手取り足取り教えますので、明日からでも大丈夫!

 そんな怪しい講師的な人もいない。

 

 ――いや、そういえば行き先と待ち時間を表示したプラカードを首からぶら下げて道案内のような事をしていたお姉さん達がいたか。


 (あの人達なら詳しく教えてくれそうだし呼び止めて質問してみよう)

 

 周囲を探してみると鳥居の方向から歩いてくるお姉さんを発見した。

 俺は急いで向かい今まで送ってきた生活での弊害か緊張しながらも声をかける。


 「す、すびません! 質問いいですか!?」


 ――噛んだ。


 「はい、どうされました?」


 俺は今すぐにでもこの場から逃げ出したくなるくらい恥ずかしかった。でもお姉さんは大して気にすることもなく対応してくれたお陰で心も折れずにそのまま話しかけ続ける事ができた。


 「あ、あの、召喚とか転生ってやっぱりアレ持って行けるものなんですか?」

 「アレと申されますと?」

 「ま、またまた! アレですよアレ。小説とかで良く出てくるでしょ?」

 

 「あぁー、オプションですか?

 勿論ございますよ。ただ、生前マイレ―ジが1000ポイント以上かかりますので、

 お客様のPと要相談となっております。はい」

 

 「やっぱりあるんだ!

 早速だけどマイレ―ジってどうすれば確認できるのかな?」

 「目をつむり念じて頂くだけで確認出来ますよ。では、そろそろ失礼致します」


 ――――丁寧にお礼を伝えた後、颯爽と歩き去るお姉さんの後ろ姿に、主にお尻に見惚れていると、そうだ、そうだ! 見惚れている場合じゃなかった。


 (ポイントかぁ厳しいかもなぁ)


 そもそも俺の死に方はあまり人に言えるような死に方じゃない。

 どんな情けない死に方をしたかというと……。


 それは、夏の甲子園予選9回裏5点差負けで代打出場した時だ。


 恐らく野球人生で最後になる打席だと思い下手くそながらも強振(フルスイング)だけには自信のあった俺は――――――自然とバッドを握る手にも力が入る。

 いや本当に最後の打席になっちゃったんだけど (笑)


 だからあんなことに……。

 

 ストレ―トだと思い力の限り振り抜いたバッドはボ―ルに当たることなく空振りし、その空振りしたバッドが勢いよく俺の後頭部に見事クリ―ンヒット!

 俺は文字通り殺人スイングによって力尽きたのだ……。


 そんな俺だが、苦い思い出をグッと噛みしめ、祈るように目をつむり。

 マイレージを念じて確認する。



 生前マイレ―ジ:30P

 

 

 ――――抜けるような溜息と共に俺は静かに上を見上げ。


 (オプションは無しだな)


 「はぁ……オプション欲しかったなぁ」


 無理だと分かったとしても諦めきれない自分がいた。

 やっぱり空を自由に飛び回ってみたり、瞬時に思い描いた場所へと移動したり、過去や未来へ時を超えたりなんてのは憧れる。


 あれ?


 (これ全部有名な猫型ロボットがいればオプションじゃなくてもよくね?!)


 と、とにかくだ。

 俺には1つだけどうしても、どうしても譲れないものがあった。


 ……それは。 


 今まで男子校という男だらけのムンムンとする熱気と本当に汗臭い中で、青春の全てを部活に注ぎ込み、地獄の様な日々を送ってきた。


 そう俺は。


 「また明日なっ!」

 「ヤダッ! 私はまだ誠君と一緒にいたいな」


 そんなアマーーい青春を一切送る事も出来ず。なんなら眺める事すら出来ずにそれはもうアッサリと死んだのだ。


 (こんな悲劇だけは絶対に繰り返したくはない!!)

 

 そんな俺だからこそ次の人生では、何が何でも女の子と付き合いたかった。

 何ならあんな事やこんな事だってしたかった。

 でも転生するときっと赤ちゃんからやり直しだよなぁ……。


 (そんなに長い間この気持ちが我慢できるはずがない!)

 

 もし女の子と付き合えなくても。


 

 ……せめて、そうせめて。



 (おっぱいが揉みたいんだ!)



 気持ちは決まった。



 召喚だ!! そう選択した。



 ――――俺は待った。

 この長い列を……そして……遂に!


 石段を上りつめようやく頂上へと到着した。そこには大きな神社にある拝殿のような立派な建物がデンっとそびえ立っており、下からズラーッと続いていた列はその建物の手前でなぜかピタッと止まっていた。


 そこではお姉さんが1人ずつ建物の中へと案内しているみたいで、階段を上っている間に待つことを覚えた俺は、いや、綺麗なお姉さんに見惚れているとすぐに声がかかった。


 「次の方お待たせしました。 どうぞこちらへ~」


 俺は浮かれる気持ちを抑え、少しだけ急かすように立派な建物の中へと案内してもらう。そこには選挙で使われるような記載台があり早速向かうと記載用紙も用意されていたので書き込んでいく。


 名前:能年(のうねん) (まこと) 年齢:18才

 

 種族:人間


 得意ステ―タス:筋力 


 言語:選択式で標準語から魔物語や古代語などなどあったが、もし可愛い女の子に出会えても会話が出来ないなんて辛すぎるし、ここは慎重に標準語だ!


 身長:180cm 


 世界:色々と選べたが、この魔王もいる世界(アトロスティア)にするか。

 


 オプションは無くても異世界召喚だ。


 きっと向こうでは勇者的な扱いを受け、古代の文献によると召喚者がみたいな感じで大騒ぎされ、国王とか預言者に魔王討伐の依頼をされちゃったり、あんな美人やこんな可愛い子ちゃんにも言い寄られたりもするんだろう。


  (ムフフッ、勇者は辛いな)

 

 ――――まだ見ぬ異世界に期待ばかりが膨らみいやらしい笑みを浮かべながら妄想に浸ってしまったせいで余計に時間を食ったものの無事書き終わり、記載台の張り紙に書いてあった案内に従い書類を持って奥にある扉を開ける。


 そこには仄暗くて細い通路が続いており床に描かれていた薄っすらと緑色に光る矢印に沿って進んで行く。しばらくして辿り着いた先には安っぽい木製の扉がありそこには――呼ばれるまでお待ち下さい――だけ書かれただけの張り紙があった。


 (流れ作業みたいで何か雑だなぁ)


 神々しいとまではいかなくてもだ。せめて病院の待合室みたいに看護婦さんが、いやさっきのお姉さんが奥まで一緒についてきて案内してほしかった。

 まぁでもアレだけ並んでいればしょうがないか。



 気持ちを切り替え呼ばれるまで待っていると、新しい疑問が生まれてくる。

 それはどういう感じで異世界へと行くのだろうか? 


 美人な女神様が 「あなたの活躍を影ながら見守っていますよ」

 と応援されながら送りだされたりとか。


 威厳のある神様が 「汝に試練を与える! 見事突破してまいれ!」

 みたいな感じなのかな? 何にしても楽しみだ。


 ――――これからの事を想像していると遂に低い声で呼ばれる。


  「次、どうぞ中へ」

 

 緊張しながらも扉を開け部屋の中へ足を踏み入れる。するとそこは――ただの四角い箱の様な部屋で、奥には机の上に肩肘を立て頬に軽く手を当てやる気がなさそうにしている――ただのオジサンが見えてきた。


 イヤ!よく観察してみると。

 ――どこか威厳のあるモジャモジャ髭のオジサンが居た。


 (これは神様的なパタ―ンだな)


 そう確信し俺は力強く一歩ずつ進み堂々とモジャモジャに書類を手渡す。


 すぐさまモジャモジャは流れ作業の様にポンッと判子を押す。


 ――足元がコントの様にパカッと開き俺はそのまま落下し叫んだ。



 「何かこんな予感はしてたけどなぁああああ」







 読んで頂きありがとうございました。

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