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09 魔印誓言の罠

この話は別途連載中の「異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ」の前日譚です。

以前投稿していたものを大幅加筆修正してあり、独立して読むことが出来ます。

「ルイン~」を読んでくれた方も、内容にかなりの改編・挿入話がありますので楽しんでいただけるかと思います。


SFもファンタジーも盛り沢山ですがハイファンタジーものです。

異世界冒険譚がお好きな方には是非!

 一度通った道で特に危険も無かったことから、行きに比べれば一行は幾分気を抜いていたのかもしれない。ミーナも行きの時ほど注意深くは無く、一行はそのままザカエラの設置した罠に侵入してしまい、最後尾のオルフェルが最初の石檻の罠を通り過ぎるかどうかの、ザカエラがいよいよ罠を発動させる瞬間がやってきた。

 ザカエラが発動言語を口に呟こうとするその時。


 ミーナがバランスを崩してよろめき、右壁に手を突いた。


 手を突いたところが脆かったのか、岩壁からぽろりと、拳大の岩塊が転げ落ちる。岩塊は右の壁に張り付いていた一つ目の粘土にぶつかり、そのまま一緒に転がった。


「おっとっと・・・・・・うん?」


 よろめいたミーナは右壁に突いた手で身体を支えつつ、壁に何か模様があるのを発見し、レドを呼ぶ。レドがミーナの示す場所に近づき、壁を覗き込むと、そこにはザカエラの設置した魔印誓言が。


「レド、これ何?」

「なんだこれ・・・・・・何でこんなところに魔印誓言ルーンプリッジが!?」


 レドは咄嗟に飛び退き、その意味を知り、封印系Lv1「魔力感知」を唱える。

 触媒いらずのこの魔法は、魔術師が最初に覚える基本魔法であり、わずか一小節で詠唱可能だ。

 しかし、唱え終わって周囲の石檻と岩の槍の存在が判明する時には、背後の石檻が作動し終えた直後であった。


 オルフェルはすんでのところで、石檻の形成に巻き込まれ串刺しにならずに済んだが、エルフの聴力に秀でた細長い耳は、前方で発動言語を呟くザカエラの声を拾っていた。


 一方、シャティルはそれよりも若干早く、ミーナが魔印誓言ルーンプリッジに気がついた瞬間の、何者かの動揺する気配を感知し、前方の闇に備えて“無理槍”を持つ右手に軽く力を入れている。


 ザカエラは信じられない気持ちで一杯だった。


 確実に敵を屠れると思っていたのに、まさか、シナギーがあんな偶然に罠に気づいてしまうとは。

 あれがなければ向こうの魔法使いも気づかないまま、罠に嵌めることが出来たのに・・・あまりのあり得無さに、つい呆然としてしまう。


 しかし、レドが「魔力感知」を唱え始めたのに気を取り戻し、すかさず最初の石檻の罠を発動させるべく、発動言語を発した。

 続いて、魔法使いが槍を持つ戦士に指示を出す声が聞こえる。


「シャティル!左右の壁の粘土を槍で払ってくれ!」


 このままではせっかくの岩の槍の罠も台無しになってしまう。

 ザカエラは慌てて岩の槍と二つ目の石檻の発動言語を唱えた。


 岩の槍は最後の1本だけが発動し、また、ザカエラとシャティル達を隔てるように石檻も発動した。


 石檻のおかげでとりあえず彼らが襲ってくる手段はないだろうと判断し、彼らから情報収集をすべく話掛けようとしたのはザカエラらしからぬ油断であった。

 罠に気付かれたことでまだ動揺していたのかも知れない。


 おそらくエルフが感で放ったのであろう弓矢がザカエラに命中したのだ。


 矢の命中によって「神の拒絶」が発動しダメージが防がれた。

 その行為により、「透明化」の効果も切れてしまい、ザカエラはシャティル達の前に姿をさらしてしまう。


 さらに、次の瞬間には戦士が何かを投げる仕草を見せた。いや、仕草ではなく、あれは槍を投げたのだ、とザカエラが理解した時にはもう、「神の拒絶」が許容するダメージを突き抜いた鈍色の槍が右の肩口に突き刺さり、ザカエラはその勢いもろとも後方に2マトルほど吹き飛ばされた。


 一方、レドは「斥力壁」にも使用した“回転する自立球”を起動させ、封印系Lv7「魔力解除」を試みた。


 封印系には似た魔法としてLv5「魔法解除」がある。これは、触媒に鉛片と鉄片を使用し、魔法と魔法によって造られた効果を解除する、魔法学院では卒業の目安となるLv5の魔法だ。

 一方でLv7「魔力解除」は、「魔法解除」よりも成功率が高く、また、発動直前の魔力そのものを霧消させてしまう、より高度な解除魔法である。


 レドは、魔印誓言ルーンプリッジの罠へも対応できるよう、「魔力解除」を選択した。込められるだけ精神集中して発動範囲を敵の術者まで届かせる気持ちで、呪文発言エンドルーンを唱える。


 発動した魔法効果は、シャティル達の目の前にある岩の槍と石檻を淡い光の粒子に変換し、さらには6マトルほど前方に倒れている敵の魔法使いまでも範囲に捕らえたようだ。

 大きく二つの、人を取り囲む結界のようなものを霧消させ、倒れている魔法使いの前で長杖を構えている僧侶の姿が現れた。


 シャティルが突進し、長杖を構えた僧侶に左腰から抜き打ちの斬撃を放つ。


 「訪問スマテ拒否・アニマ!」


 僧侶の神言発言ゴッドルーンが間に合い、シャティルと僧侶の間に不可視の障壁が張られる。その障壁の強固さと展開の素早さに、シャティルは素直に感心した。


「やるな!」

 

 一方、ミスティは唯々必死だ。

『防がないと(私)死んじゃう!』


 意外と現金なのか、それともザカエラに守る価値がないのか。

 神職であれば、どのような事情であろうとも仲間であるザカエラを守る事を優先すべきであろうが、ここに来て年相応の地金が出てきてしまっているのは、現状の境遇への不信がそのまま信仰への不信となっているせいか。


 落ち着いて見えてもまだ21歳のミスティは、日頃のザカエラの冷酷な言動やダルスティンの非情な指示、そして帝国軍のあり方に反発を覚えているため、それらのために命を賭ける気にはなれず、必死な状況でもはや自分を取り繕う余裕すらないのだ。

 しかも、自分がそこまで追い詰められていることに自分で気がついていない。

 その結果、次の指示に従ってしまう。


「ミスティ!骨歩兵ボーンソルジャーと交代して下がれ!私の傷を治せ!」


 シャティルが既に二十発もの剣撃をミスティに振るっている間に、ザカエラは無事な左手で右肩に刺さった槍を引き抜き、魔方陣の描かれた2アルムス四方の羊皮紙を地面に敷いて、その中央に何かの骨を置き、使者召喚系Lv7「骨歩兵召喚」の呪文を唱えていた。


 敵の魔法使いの妨害があるかと警戒もしたが、どうやら向こうは片膝を付いてこちらを悔しそうに見ている。おそらく精神魔力マインドマナが枯渇寸前なのであろう。こちらはミスティの物理防御障壁により、戦士の剣撃もエルフの弓矢も防いでいる。まだ勝機はあるとザカエラは見ていた。


 召喚が成功し、骨で出来た歩兵が誕生する。触媒に使用したのは“大鬼オーガ”の骨であったため、標準サイズの骨歩兵ボーンソルジャーに比べて身体がかなり大きめ、洞窟の天上にからは頭1個分しか離れていない程の大きさだ。


 標準装備として骨製の盾と骨製の片手剣を持って生まれてくるものだが、ザカエラは自分に刺さっていた槍を骨歩兵に手渡し、骨歩兵は片手剣を捨てて槍に持ち替えた。

 また、骨歩兵の左手には魔印誓言の加工をし魔力を導通させた大振りな石炭の塊を持たせる。


 ザカエラの命令によって、骨歩兵が前に出て戦士を相手に向かい、ミスティが交代して下がってくる。


 ミスティの「癒し(ヒール)()(ハンド)」が瞬く間にザカエラの右肩の傷口を塞ぎ、痛みを消した。


「ザカエラ!もうこんな戦いは止めましょう!」


 ザカエラはミスティを無視して骨歩兵に指令をだした。

 召喚主の命令は声に出さずとも意志だけで成立する。


 命令を受けた骨歩兵ボーンソルジャーは、シャティルに牽制として水平に槍を振るうと、続けてレド目掛けて突進を始めた。


「まずい!」


 シャティルが慌てて追いかけ追い越し、レド目掛けて突き出される槍を、寸前で切り払う事に成功する。

 しかし実際には、シャティルの切り払いより一瞬早く、レドの魔法による防御壁と、予想外な事に敵僧侶が張ったと思われる不可視の障壁がレドを守っていた。


訪問スマテ拒否・アニマ!」


 レドは精神魔力マインドマナを完全に枯渇させていたわけではないが、残り少ない為、今後に備えて精神魔力を温存及び回復に努めようとしていた。


 ザカエラと呼ばれた敵魔法使いの骨歩兵召喚に対し妨害出来なかったのは悔しいが、あそこで無理をしては精神魔力マインドマナの完全枯渇により気絶してしまう。

 だから、骨歩兵が自分に突進してくることに対し、ベルトに挟み込まれていた銅貨(魔印誓言による加工済みである)を1枚取り出し、想像系Lv4「見えざる盾」を即座に発動させるくらいの精神魔力は残っていたし、そういう可能性も充分に想定していた。


 想定外だったのは、レドの魔法発言に被るように、ミスティと呼ばれている敵僧侶の神言発言ゴッドルーンが響き渡り、自分に神の防御障壁が張られたことである。


 敵も味方も今一瞬の状況に、呆然としているようにミーナには見えた。


 真っ先に動いたのはシャティル。


 雄叫びと共に右上段から振り下ろしたはずの刀が、ミーナには右横で止まっている刃先として認識され、骨歩兵の胴体が三角に切り取られて右方へ吹き飛んだ。

 骨歩兵の左手も一緒に右壁に激突し、その手に握られていた石炭が跳ね返ってシャティル達の目の前に飛び込んでくる。


「裏切るとはとことん使えないヤツだな!」


 ザカエラはミスティの背に向けて罵倒し、その尻をシャティル達に向かって押し出すように蹴飛ばした。


 ミスティは自分のした行為に呆然としており、今またザカエラに蹴飛ばされてシャティルの目の前に膝を付き、ザカエラの行為にさらに呆然とする。


「一緒に死ぬが良い!」


 ザカエラはそう言い放つと、巻き込まれないようにその場から離れつつ、石炭に仕込んだ魔印誓言の発動言語を口にする。


爆発せよ(キバク)!」


 次の瞬間、火系Lv6「火球爆発」の魔法がシャティル達の目の前で爆発し、地鳴りと轟音とともに天井が崩れだす。

土煙がもうもうと充満して、辺りは何も見ることが出来なくなってしまった。



『手強い奴らだったがこれでは生きてはいまい』

 ザカエラはほくそ笑む。


 本来であれば生死を確認すべきところではあるが、至近距離の火球爆発と岩盤崩落である。 土煙が落ち着くまでかなり時間が掛かるし、まず助かることはないだろう。

 ザカエラはシャティル達の生死を確認せず、そのままダルスティンの元へ戻ることにした。


 ザカエラがダルティンらの元へ戻ると、流石に異変に気づいていたらしく、ダルスティン達は採掘作業を中断して待機していた。しかし、ウッツとギルビーはそこには居らず、ダルスティンとダインだけだ。


「ザカエラ、何があった?」

「中々の手練れの連中でした。それに血の気も多く話し合う余地もなく、あげくにはミスティが裏切りまでしたのでね、火球爆発の罠と岩盤崩落でなんとか逃げてきたところです」

「お前がそこまで言うということは、相当の手練れだったようだな」

「少なくとも、光翼騎士ウイングナイト闇狩人ナイトハンターよりはやっかいでしたよ。気配だけで射貫いてくるエルフ、おそらく私と同等の腕前の魔法使い、そして騎士魔法ナイトルーンの手練れの戦士。シナギーの森守レンジャーに罠を発見されたのも想定外でした。なぜあんな連中がこんなとこに居るのやら・・・・・・」

「まさか、競合者ライバルか?」

「その可能性もあり得ますね」


 状況報告についてダルスティンは納得したが、ひとつ見過ごせない事項があった。


「それで、ミスティが裏切っただと?」

「事ある毎に争いをいさめようとしていたじゃないですか。今回、倒そうとした相手の治療をしたもので、代わりにこちらが死ぬ寸前でしたよ。流石に目に余ったものでね」


 ザカエラは若干の嘘を交えてダルスティンに報告した。

 本来であればミスティはザカエラが死にそうになるような事はしていない。しかし、ザカエラはいい加減にミスティに辟易しており、苛立ちついでに範囲攻撃に巻き込んでも構わないとあの時思ったのだ。


 ダルスティンはザカエラの酷薄な言い様とミスティの普段の言動から、そういう状況もあり得るか、とは納得したものの、もう少し穏便にミスティを失う選択をしなくとも良かったんじゃないかと思案したが、最早、後の祭りだ。口にしたのは別のことであった。


「岩盤崩落を起こして、退路はどうする?」

「ご心配には及びません。帰りは魔法で転移出来ますよ。それよりもそちらの首尾は?ウッツとドワーフは?」


 ダルスティンが指を指す方向を見ると、これまで採掘していた奥の壁が空洞になっており、別の空間があるようだった。


「今、中を調べて貰っている。3マトル四方ほどの空間があって、中央に1マトルほどの石柱のようなものがある。あれが探していたものかも知れない。」

「おお!では遂に見つけたのですね!」

「お前も調べてくれ。」


 ザカエラは興奮して奥の空間に駆け寄った。


 そこは、円柱状の空間であった。直径3マトル、周囲の壁は垂直に下から上へ伸びており、表面は木彫りの彫刻品のような風合いで、所々深くくぼんでいる。

 地面は赤子の拳大の礫状石が一面に敷き詰められており、中央には石柱らしきものがある。

 ただし、石柱とはいっても形が歪で、表面は凸凹している。


 ドワーフが何故か周囲の地面を調べており、ザカエラが石柱に近づくと柱の影側からウッツが顔をのぞかせて手招きをする。


 ウッツの居る裏側へ回ってみると、そこの石柱表面は、騎士の使う方形盾のような、ただしサイズは巨人サイズのものが見えた。

 ザカエラが魔力感知すると、石柱自体がうっすらと光って反応する。


「これだ・・・・・・間違いない!」


 長年探し求めていた物の発見に、ザカエラは自分の研究と学説が間違っていなかった事を確信する。

 次にすべきことを頭の中で瞬時に考慮したザカエラ。


「ギルビー!ここの表面をノミで削ってくれないか?この中に強度の高いなにかがあるんだ!」


 それまでの酷薄ぶりはどこへやら、ザカエラがギルビーに話掛ける。

 しかし、話掛けられたギルビーは、暗い表情で全く別のことを言い出した。


「ザカエラ・・・・・・それよりもこれを見てくれんかのう?この辺り一面に散らばっているのは、石ころではないと思うんじゃ」


 この大発見の価値がこの歩く酒樽には判らないのか?と憤りつつ、ドワーフのあまりに陰鬱な表情が気になって、自分の足下の石ころを拾い上げてみる。


 見たところ、何の変哲もない石だ。

 綺麗すぎるくらい、球状で艶がある。


 想像よりも比重が重く、地面に何度か叩きつけるとようやく割れた。断面を見ると、周囲を採掘していた時の堆積岩のような地層の重なりが、石ころの中心から均等に広がっている。

 まるで、大地が球状の星であるという学説に出てくる惑星模型のようだ。

 何かがザカエラの思考の琴線に触れ、不安がよぎる。


「自然に形成されるものじゃない・・・・・・?」


 ザカエラは手の中の石ころが次第に不気味さを増してゆくかのように錯覚するのであった。

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