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07 剣匠、魔法使いの杖を取り上げる

この話は別途連載中の「異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ」の前日譚です。

以前投稿していたものを大幅加筆修正してあり、独立して読むことが出来ます。

「ルイン~」を読んでくれた方も、内容にかなりの改編・挿入話がありますので楽しんでいただけるかと思います。


SFもファンタジーも盛り沢山ですがハイファンタジーものです。

異世界冒険譚がお好きな方には是非!

 ダルスティンの仲間は、大剣使いの戦士がダイン、クロスボウ使いの盗賊がウッツ、黒ローブの魔法使いがザカエラ、灰色ローブが“アイーシャ”の僧侶、ミスティと名乗った。


 灰色ローブはやはり女性だったが、粗野だったり狡猾そうな面々の中で、ミスティだけが清楚な面持ちで雰囲気が浮いており、ギルビーはそこが気になったものの、それを問える雰囲気でもない。


 一行はすぐに発掘作業に入り、ダルスティンとギルビーがツルハシを振るい、ダインとウッツが岩塊寄せ、ミスティがたき火を起こして待機、ザカエラはランタンを灯して書物を広げたり巻物を見たりしながら調べ物、といった具合に作業を始めたのである。


 ザカエラが使い魔から得た情報を報告したのは、ギルビーが仲間という名の虜囚となってから二日後の昼近くのことであった。


 休憩中のギルビー達にはミスティから、鍋で煮だしたお茶と黒パン、干し肉が配られた。


 鉱山内では日当たりがないため、たき火と暖かいお茶は非常にありがたい。これがもっと深く空気の心配をしなければならない鉱山や洞窟であれば、火も炊けない。

 本当であれば背負い袋からとっておきの火酒を取り出して一口飲みたいところではあるが、ダルスティン達に遠慮して飲みづらい、というより飲ませろと言われるのが嫌で、我慢するしかない。

 ギルビーは気晴らしに、配膳するミスティを見た。


 慈愛の女神アイーシャを信奉する僧侶と聞けば、ミスティには納得できる雰囲気がある。

 教会のシスターのように、常に周りに気を配り、他者を思いやる行動が滲み出ているのだ。


 ギルビーはこの二日間、彼らと共に過ごして、普通の冒険者ではないことは確信していた。


 おそらく、ダルスティンはどこかの国の騎士、ダインも粗野ではあるが充分力量のある戦士だ。ウッツは寡黙な盗賊だが、岩運びに少しも愚痴をこぼさないところを見ると、どこかの組織の密偵かもしれない。普通の盗賊は減らず口を叩く物だ。ザカエラは冷徹かつ酷薄な表情と言動で、まっとうな学問を研鑽している世間一般の魔法使いの雰囲気ではない。


 たぶん彼らはどこかの国の密命を受けた部隊ではないだろうか。そうすると、ミスティは何らかの理由により強制的に参加させられているのかもしれない。


 考え事をしながら、気がつくと食事はあっという間に平らげてしまったようだった。


 食べた気がしなくて、また気持ちが陰鬱になる・・・・・・五日前にナギス村の緑風亭で食べた食事をふと思い出した。


 主人のマッサウはシナギーのくせにドワーフと対等に飲み明かせる豪快な男であった。キクスイと言ったか、・・・途端に口内に唾液が呼び出される。

 ちょっとだけ元気が出てきた。あの酒も旨かった。


 生きて帰って絶対あの酒をもう一度飲んでやる!

 そう気持ちを奮い立たせて、ギルビーは再びツルハシを握ることにした。


 作業再開後、ザカエラは採掘に集中するギルビーに気づかれないよう、こっそりと立ち上がり、採掘場を出て入り口方面へ向かった。

 ダルスティンの言うとおり、冒険者を始末するためだ。


『まったく面倒くさいことだ。ダルスティンもドワーフに配慮せず、もっと直接脅せばいいものを』


 確かにドワーフがいると発掘の効率は良い。しかし、どうせ自分達の捕虜となって本国に同行するのでなければ、目撃者としていずれは始末しなければならない。あのドワーフも感づいてはいるだろうが、多勢に無勢である。


 その時はその時として、ザカエラはこれからの手順に思考を寄せた。

 不意打ちも良いが、念のため相手の素性をある程度探ってから始末するのが無難か。


 などと考えていると、後方から小走りに近づいてくる足音と光源に気がついた。

 立ち止まると、ミスティが駆け寄ってくる。


「ザカエラ、まってください。」

「ミスティ、君は別に採掘場で待っていてくれて構わないのだよ。我々のやり方に君はいつも反対しているだろう」

「当たり前です。アイーシャの信徒として認めるわけにはいきません」

「しかしねぇ、君。我が国ではアイーシャの神職であっても、義務は果たして貰わないといかん。特に孤児院育ちの君には、これまでの衣食住及び学問、信仰に至るまで帝国の寄付でまかなわれているのは知っているだろう」


 ミスティのあずかり知らぬ事ではあるが、言外にザカエラは言っているのだ。帝国国民であればその恩恵を受けて育った以上、拒否権はないと。しかし、ミスティにしてみれば、他者の命をないがしろにする彼らのやり方は僧侶として認められるものではなかった。


「だからといって、問答無用で目撃者を殺すなどと!他に方法はあるでしょうに!」

「生憎、忘却の魔法なんて私は覚えて居らんよ。君の神魔法にも無いだろうに。いい加減、目を覚ましたまえ。これは軍務なのだよ。従軍曹侶殿!」


 ミスティは下唇を噛みしめ、俯いた。

 慈愛の神アイーシャの僧侶として自分が力を納めたのは、こんな軍人まがいの事をするためではないはずだった。

 ましてや、率先して人殺しをする集団に取り込まれるなどと。

 なぜ、神はこのような状況を放置するのだろう?ミスティは苦しくて、悲しくて、長杖を縋りつくかのように抱きしめる。


「アイーシャは帝国宗教でもある。神は包括して世を見ており、必ずしも細かな些事を、全ての人間を助けるものではないのだ。君のその甘い考えは、神に対する侮辱とも問えるぞ。覚悟を決めるのだ。孤児院の子達とも無事に会いたいのだろう?」


 冷酷な笑みを浮かべるザカエラに、思わず一瞬睨みつけてしまうが、ミスティは俯いて表情を消し、答えを絞り出した。


「わかり・・・・・・ました・・・・・・」

「さて、それではせっかく来たのだ。対物理結界を頼む。後は明かりを消して、暗がりに隠れていてくれ」


 ザカエラがそう言うと、ミスティは言われるままに神魔法高位、「神の拒絶」を行使する。


 祈りにより霊的魔法元素イモータルマナを身体に呼び入れ、神言発言エンドルーンと共に効果を発動させる。


 ザカエラを中心に作られた直径1マトルの球形結界は、常に作動する訳ではなく、対象者の意志により任意に必要な範囲に発動し、物理攻撃を一定期間遮断する。


 神魔法がそのまま発動出来たことが、より一層ミスティの気持ちを落ち込ませるのであるが、彼女は明かりを消して、とぼとぼとザカエラの後を歩くしかなかった。



 一方、その頃シャティル達は。


「ミーナ!上だ!下がれ!」

「もー!キモチ悪い~~!」


 オルフェルの鋭い警告に、ミーナはすかさず後ろへステップを踏む。

 後退しつつ悪態をつきながらクロスボウを構えて、着地と同時に射出するも、ミーナのクロスボウの矢はそれを貫けず弾かれた。


 全長1マトル(2m)、ヒュームの足と同じくらいの幅がある、つい、ゲジゲジとでも形容してしまうような沢山の足、平べったくもシナギーの枕と同じくらいの胴を多数つなげ、洞窟内の明かりにテラテラと艶めく茶色の・・・・・・巨大ムカデ。


 鉱山内の小部屋に入ったところ、岩壁の一部がミーナでも入れないくらいの空洞が空いており、そこから“のそり”と顔を出したのがこの巨大ムカデだった。


 発達したアゴであろうか、双角昆虫のような先端の一対の角牙が、地面から這い上がりヒュームの足を簡単に切断するであろうことは容易に想像出来る。


 最初に出てきた巨大ムカデは、オルフェルの強弓が一撃で頭部を貫いたが、昆虫の神経節は瞬時に絶命することを許さず、でたらめに地べたを這い回らせる。


 そのおぞましい光景に総毛立つシャティル達であったが、さらに悪いことに、穴からは続いてぞろぞろと水が湧き出すかのように大量の巨大ムカデが這い出てきた。

 仲間で地面が一杯だと理解したのか、後から出てくる個体は壁や天上に這い上がる。

 ミーナの前に落ちてきたのもそのうちの一体だった。


「みんな下がれ!この部屋から出るんだ!」


 シャティルが後ずさりながら叫び、レド、ミーナ、オルフェルは部屋の入り口まで駆け戻る。

 シャティルは刀を振り回しながら後退するが、非常に分が悪い状態であった。


 相手は基本、地べたを這う生物で、槍などの長状武器ポールウェポンならば向いているが、シャティルの刀ではリーチが足りない。


 巨大ムカデは腹部を屈曲させる事前動作を取ると、飛びかかってくるが、これは刀の圏内で迎撃しやすい。しかし地を這って向かってこられると、躱すか姿勢を低くして地面に斬りつけるか、しかできず、躱しては仲間を守れないし、地面に斬りつけると次の動作が取りにくい。結果、防戦一方になってしまうのだ。

 辛うじて自らを囮に、仲間から離れた前で戦うので被害はでていないが、このままでは打開策がない。


「シャティル!こっちで食い止める!早く引け!」


 レドは、腰のポシェットから金属の格子で組まれたような球体を取り出していた。中央内部に円盤と軸が有り、簡単な魔導仕掛けによって、円盤が回り始める。


 “回転する自立球”はレドが開発した小道具で、これが動き出すと遠心力が発生し惑星の矮小なモデルとなり、そこには魔法の触媒に出来る魔力元素が発生するのだ。

 今回は魔法学院の基準に照らせば、闇系統の魔法Lv4に相当する「斥力壁」を使う為に、“回転する自立球”を起動させたのであった。


 なお、この魔法は原理は既に研究されていたが、特定の重力の強い地域でしか使用出来ないことから、魔法学院ではLvは中級であるものの、生徒に教えられてはいない魔法である。


 一般に学問魔法と呼ばれる、原理を習得すれば誰でも使える魔法をレドは専門としている。


 呪文の詠唱と共に、自立球から得られる魔力元素を触媒として起動魔力が右手に宿る。

 その魔力で空に魔力印ルーンを描き、月にあると言われる魔力界と自身をつなぐゲートを構築し、身体に純粋な魔力元素を引き込む。


 呪文と制御装置である魔力印により、魔力元素の形態を整え、魔法キー発言(ワード)と共に魔力元素マナが体内と杖を駆け抜け、魔法効果が発動する。

 この際に、ささくれに引っかかるかのように、体内の自分の魔力元素マナが消失してしまうのだが、これは鍛錬や経験、または装備などによって軽減可能だ。

レドはシャティルの撤退と同時に魔法を発動させた。


斥力壁リポークル!」


 シャティルを追ってきた巨大ムカデ達は、部屋の入り口の通路を塞ぐ、薄黒い光によって形成されたレドの斥力壁によって、近づこうとしても押し返されている。

 物体の運動エネルギーを反発する斥力壁は、近づく力が強いほど逆に跳ね退けるのだ。

 飛びかかってくる巨大ムカデなんぞは、そのままの勢いで元に戻されている。


「とりあえず助かったが、この魔法はどれくらいの効果時間がある?」

「ざっと15分だな」

「その間に対策を練るとして・・・どうする?」

 

シャティルとレドの会話にミーナが混ざる。


「剣匠の力でなんとかならないの?」

騎士ナイト魔法ルーン使えばなんとかならないこともないけど・・・・・・う~ん、スマートじゃないし、それに、武器が持たないかも知れない」

「スマートじゃないってどういうことよ?それに、武器が持たないって?」


頭を左手で掻きつつ苦笑するシャティル。


「最終手段はしょうがないとして、もう少し効率よく合理的に対処したいのさ。こういう冒険中ってさ、余程の事じゃない限り、無理しない範囲で行動方針を決めるべきだと思うんだよね。この先に何が何でも進む理由も今はないし。別回っても良い訳じゃん。そして、俺の刀は使い古してボロボロなんだ。騎士魔法ナイトルーン使うとヤバイかもしれん」

「そうなんだ・・・・・・でもこの先に鉱脈があるかも知れないし、ギルビーさんもいるかも知れないよ?」

「その可能性と目の前の危険性と、天秤に掛けた判断が必要ってことだろう」


 それまで黙っていたオルフェルがまとめ、レドに質問する。


「レド、空気が悪くなるが油で燃やす手はどうだ?ついでに酸欠にするとか。」

「虫系は種類によって耐性持ちもいるけど、耐性切れると火には弱い。酸欠はどうだろう?地中に潜るような連中だからあまり即効性はないかも。あとは雷系が効くかな」

「これ全部燃やせるほどの油は持っていないんだよなぁ。魔法で対処は?」

「俺も油は少ししかもってない。炎系魔法は持ってる触媒だと一瞬だけ燃えるものばっかりだ。電光の魔法だけ使えるかな」


 それで対処出来るかと言う、オルフェルの問いに、


「正直、一発で全部仕留められるか判らない。まぁそれでも残ったヤツをシャティルが何とかしてくれるなら、安心かも」

「じゃあ、それでどうだ?シャティル、残ったヤツの掃除頼めるか?」

「それはいいんだけど、それよりもさぁ」


 シャティル以外は彼の次の言葉に唖然とする。


「槍か薙刀、作れない?長物の武器があれば全部倒せるんだが」



 魔法学院で教えるところの、物質変化系統のLv1「整形」Lv3「元素加工」。

 これらは比較的簡単な魔法で、むしろ“慣れ”によって出来映えが違ってくる魔法だ。レドが道具を作成する際にも重宝している魔法である。

 触媒も「整形」には粘土が必要だが、消耗しない性質のため、いつでも常備してある。「元素加工」に至っては触媒は必要としない。


 そして今、レドの手には長柄として丁度良い、自分の魔法の杖がある・・・・・・


「なあ、シャティル。いくら俺とお前の仲でもさ、魔法使いの杖を取り上げるってのは正直どうなんだろう?」

「別に杖を壊してまで頼んでる訳ではないんだけど」

 

言葉とは裏腹に面白そうな顔で問うレドに、若干困った表情で答えるシャティル。

レドは脳裏ですばやく計算して、覚悟を決めた。


「良し。条件として、シャティルの短剣も提供すること、ラナエストに着いたら宴会コースを一食奢ること、次の杖の材料探索に付き合うこと。これならどうだ?」


それでいいと即答するシャティル。


「じゃあ、短剣貸してくれ。さっそく作るから。」

「ちょっと!レド!本当にいいの?」

「なぁに、杖は結構自作してるんだ。より良い物を求めてね。それに、予備の棒杖ワンドもあるから大丈夫さ」

「そこまで言うなら、もういいけどね」


 頭の後ろに両手を組んで、半分呆れながらミーナはそっぽを向いた。


 その後、レドは自分の杖の上部を操作し、水晶球の組み込まれた部分を外した後、「整形」で杖本体の形を作り替えた。上部が下部に比べて若干太く、バランスが上寄りになっているため、上部の外周を削って細くし、全体のバランスを整える。


 その間に、オルフェルが短剣の目釘めくぎを抜いてつかを外しており、それを受け取って再び「整形」、短剣のなかごを組み込んで再び目釘めくぎを打ち、今度は短剣の鞘に「元素加工」を施して金属部分を流動化させた後、太刀打ちとなる、先ほどまで杖だった物の表面に金属被覆を施す。


 再び「整形」で表面に滑り止めの溝を刻みつけると、そこにはもう立派な、鈍色の槍が姿を現した。


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