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04 幼女な船乗り、平原で遭遇

この話は別途連載中の「異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ」の前日譚です。

以前投稿していたものを大幅加筆修正してあり、独立して読むことが出来ます。

「ルイン~」を読んでくれた方も、内容にかなりの改編・挿入話がありますので楽しんでいただけるかと思います。


SFもファンタジーも盛り沢山ですがハイファンタジーものです。

異世界冒険譚がお好きな方には是非!

 ラナート平原はストリアン大陸中央に位置する、東西に300ケリー、南北に300ケリーほどの平原である。


 北は万年雪に覆われた天険ウルスラント山脈、南はラウルウッド大森林、西と東はウォーヒルズ、ジャイアントヒルズといった人狼や巨人等の亜人族が棲む丘陵地帯に挟まれており、平原を四分割する十字の街道が東西南北に走っているこの辺りは、ラナエスト王国が治めている。


 十字街道のうち、東街道は城塞都市ハギスフォートを超え、ジャイアントヒルズを経由してロンクー王国へ、そして更に海へ到達するとオウカヤーシュ島へと至る。

 西街道は城塞都市アキネルを越えるとウォーヒルズを超えてトルネスタン公国を経由しさらに西へ至り、東西合わせて総延長1万ケリーに及ぶ重要な交易路だ。


 一方、南街道は南のイルディナ海へ面した港町ルモンズが海洋貿易の重要拠点ということもあり、平原から大森林の縁を抜ける450ケリーの道が海産物や海洋貿易品を運んでいる。


 北街道はウルスラント山脈を越えれば列強国ソルスレート帝国領に到達するのだが、こちらは天険ウルスラント山脈とそこに住まう“白帝”スノードラゴンによって交通は遮断されている。しかし、ウルスラント山脈の麓にはブルフォス村があり、王都では採れない山麓の果樹の産地として、また、“冒険者の育成場”と呼ばれる程に、新米冒険者が拠点として賑わっている。


 これら十字街道の中央に位置するのは、王国名と同じ名の、王都ラナエスト。ラナート平原を南北に流れるヨネス川を水源としてその東岸に沿うように作られた王都は、人口6万人が住む、中原の交易都市であり、シャティル達の目的地であった。



 シャティル、レド、オルフェルの3人は、現在、大森林を抜け南街道へ出た後、真っ直ぐにラナエストへ向かわず、そのまま平原南端から東へ抜ける小街道を通りシナギー領へ向かっていた。


 平原南東にあるシナギー領は、シナギー族の住むナギス村を中心とした地域である。

 ラナート平原はウルスラント山麓の源流から流れ出るヨネス川が南北にゆるやかに蛇行しており、水車や風車などを利用した灌漑用水によって、北東地区は麦、南東地区は水稲、平原西方では野菜栽培が行われているが、シナギー領の辺りは東の丘陵地帯からの雨水を水源としているため耕作環境は平原中央に比べると良くはない。


 それでもシナギー族の管理により、王都から離れるほど平原の管理が行き届かなくなるなかで、平原南東の一帯を平原内でも有数の収穫量のある地域として管理していることから、王国と共存共栄が認められた自治領として存在しているのだ。

 これにはシナギー族が妖精に近い種族と言われており、植物の精霊の恩恵に恵まれているからだとも言われている。

実際の彼らは細身の小人族で、良く言えば好奇心旺盛かつ天真爛漫な、悪く言えば幼稚で煩わしい種族なのだが。


 ところで、シャティル達は何故真っ直ぐに王都へ向かわず、しかもこの場に剣聖ゴードが居ないのかというと・・・・・・


「シナギー領南東の丘陵地帯に、三千年前の古い鉱山があると文献に書いてあったのを思い出した」


 このレドの発言に、オルフェルが是非寄りたい、と主張し、シャティルは何も考えることなく面白そうだから構わないと即答したのであった。

 そのため、ゴードは先にラナエストに向かい、武闘祭の準備状況や露天鉱床の情報を集める事にして別行動を取ることになったのである。



 ナギス村へ続く小街道は、右手に藪や灌木が生い茂り中低の広葉樹が自生する丘陵が続き、左手には一面に広がる青々とした稲田が地平線の彼方まで広がっている。


 稲田の遙か彼方には白い帆を張った小舟が見え、さながら緑の海のように・・・・・・


「レド、アレは一体何だ?」


 シャティルがその光景の違和感に気づいた。ここは海原ではない。


「何か帆掛け船のようなのが見えるけど、ここって田んぼだよな?」


シャティルが見ている方角に視線を移したレドがクスリと笑う。


「あれはシナギー族が操る草小舟グラスディンギーだね」

草小舟グラスディンギー?」

生命樹セフィロトと呼ばれる、どんな荒れ地にも根付いて2年で成長し、周囲を豊かな土壌に変えた後枯れる、神秘的な樹木があるんだ。その生命樹(セフィロト)の材木で造られた船にシナギーの精霊僧(ドルイド)が祝福を与えた船は、あらゆる植物を傷付けない為に草の上に浮く。それが草小舟グラスディンギーだよ。ラナート平原では結構重宝されてるけど、残念なことにシナギー族以外は使えないんだ」


 レドの説明にシャティルのみならずオルフェルも驚きと納得の表情をする。オルフェルも里を出るのが初めてのため、草小舟グラスディンギーを見るのも初めてなんだそうだ。


「一説によると、その昔ラナート平原は周りと同じ丘陵地帯であったと言われている。それがあるとき、地形が一変してしまい、荒れ果てた平原になってしまった。そこが、生命樹セフィロトのおかげで今の豊かな平原に生まれ変わったと言われている。今でも、平原の各地にある村には、その時の材木で造られた民家や資材が残ってるんだ。燃やさない限り朽ちないからね。シナギー領ではそれらの資材を草小舟グラスディンギーの修復に使ったりしているらしい」


 レドの説明に他の二人がさらに感心した声を上げるが、一行が話をしているうちに、彼方に見えていた草小舟グラスディンギーはどんどんと近づいてきていた。今では、船上で操作している小柄な人影も見え始めている。

 赤毛の子供のような姿だ。


 何故か、真っ直ぐに一行の元へ向かってきているその船は、レドの説明の通りであれば、街道上にいる彼らに衝突することはないのだろうが、それにしても中々の速度だ。

やがて、グラスディンギーは街道手前まで滑るように90度旋回をし、シャティル達の前でピタッと停止した。


 船上には、帆を操作するロープを握ったまま、船縁に右足を掛けてシャティル達を見下ろす、赤髪の・・・・・・


「幼女?」


 ボソッとつぶやくシャティル。


「誰が幼女だ!誰が!こう見えてもあたしは今年で22!シナギーの立派な成人だよ!」


 ガウっと言う擬音と共に噛みつくかのような勢いで、目の前のシナギー族の女の子(?)が甲高い声で突っ込んでくる。

 しかし4アルムス程度、人族ヒュームの腰丈程の背丈に、若々しくて可愛い声は幼女以外の何者にも思えない。

レドが取りなそうと口を開く。


「22なら俺らより年上のお姉さんだね」

「そうよ!坊や達ならちゃんと目上の者を敬いなさい」


 レドの言葉に気をよくしたのか、彼女はフンっとふんぞり返るが、その姿はどう見ても・・・・・・シャティルが思わず口にする。


「やっぱ幼女じゃねぇか」

「失礼なヤツねぇ!せっかく、村まで行くような旅人見えたから乗せてってあげようと思ったのに!あんただけ乗せたげないわよ!」

「別に頼んでねぇし!」

「あっそ!じゃあ、もう一人のあなた、それとそこのエルフ、あなた達は乗ってく?」


 幼女の問いかけに、レドとオルフェルは早々にシャティルを裏切った。


草小舟グラスディンギーは気持ち良さそうだし、俺は乗せて貰いたいね」

「私も初体験になるし楽そうだ。是非お願いしたい」


 勝ち誇った顔でニヤつきながら、さぁどうする?と言わんばかりに見下ろしてくるシナギーの娘。


「お、俺も・・・乗せて欲しいです。お姉さん」


 シャティルは若干冷や汗をかきながら降参することにした。


「参った。参りました、ごめんなさい!でもさぁ、勘違いすんなよ、こんな小さくて可愛らしい子みたら、幼女って思っちゃうよ。これ、ほめ言葉よ?大体、レド、オルフェルも、お前らだって内心じゃとっても可愛くて幼女って思ってるだろ」


 必死に言い繕い始めたシャティルの言葉に、“巻き込むな!”と言う顔で見返すレドとオルフェル。

 一方、若干頬を赤らめたシナギーの娘は視線を少しずらした。口元が少しにやけている。


「ま、まぁ、別に悪気があって言ってる訳じゃなければ良いわよ。許してあげないこともないわ」


 あれ!?こんなのでごまかされちゃうの?こう言うのは確か・・・・・・デレるって言うんだったかとレドは思い当たる。その昔、姉代わりだった女性が普段は冷静クールで、でもたまに嬉しいときに表情が解けたかのようにデレデレだったのだ。


 そんな目の前のシナギーの単純さが微笑ましくもあり、一方で、シャティルの豪放かつ快活な性格は好きではあるが少しは空気を読んで欲しいとも思いつつ、とりあえずこの場は収まりそうでレドは一安心した。


 ミーナと自己紹介したシナギーの娘に手を取ってもらい、レドとオルフェルは船上に引き上げて貰った。シャティルは身軽に跳躍し、船上に降り立つ。


「それじゃ、ナギス村目指して出発~!」


 ミーナがかけ声と共にロープを操作して帆を広げると、草小舟グラスディンギーはレドの説明どおり、稲田の上を浮かびながら、緑の海原を滑り始めた。



 互いの自己紹介を終えた一行は、緑の草原に浮かぶ小舟の快適かつ快速な船足を堪能しつつ、ミーナの説明を受けながら東へ向かう。

 ミーナ曰く、シナギー領の中心はナギス村であり、他に居住地はないらしい。ラナート平原の農耕と南側丘陵地帯での狩猟、そして王都ラナエストとの交易で成り立っており、人口は五千人ほどのシナギー族の中心地だということだ。


 シナギー族は温厚かつ明朗で、好奇心旺盛な種族らしい。温厚と聞いた時にシャティルは何か言いたげであったが、レドは咄嗟にシャティルを自分に振り向かせて戒めた。


 ナギス村に居住し農耕を生業とするシナギー族はほとんど中年以降(ちなみにシナギー族の寿命は120年ほどであり、50才以降が中年、70才以降が高年である)であり、壮年期が終わるまでは好奇心に任せて旅をする者が多いのだそうだ。

 ミーナがシャティル達に声を掛けたのもこの好奇心によるところが大きいのだろう、とレドは推測している。


 ミーナ自身は22才ということでヒュームに換算すれば17,8才というところ。宿屋を経営しているという家の手伝いをし、特に草小舟グラスディンギーで王都との運搬を主としているらしい。

 今晩は自宅で経営している宿屋へ泊まることを進めたり、シャティル達の目的を聞いたりしながらも操船を続けているミーナは、シャティルの目的がラナエストの武闘祭優勝と聞いて興味を持ったようだ。


「へぇ~、あんた、そんなに強いの?」

「当然だ。俺は剣匠ソードマスターだぜ!」

「でも、全然、シャティルの名前って聞いたことないよ」

「そりゃあ、修行を終えたばかりだし剣匠ソードマスターにもなったばかりだからな。でも、ほれっ!ちゃあんとここに証のバッジもある!」


 胸につけた銀のバッジを示すと、ミーナは納得したようだが、しかし次の言葉はシャティルをがっかりさせた。


「でもあたし、武闘祭は興味ないんだよね~。そもそも、ラナエストで開かれる武闘祭ってどういう位置づけなの?」


 これにはシャティルも説明せねばなるまい、と思ったが、そこは困った時のレド頼み、と親友に押しつけるシャティル。レドは苦笑しながらも説明を始めるのであった。



 ラナエスト王国は中原の交易拠点として、また類い稀なる武具の産地として栄える一方、地勢上は交易の重要拠点であり、普通であれば他国から狙われやすい要素が高い。それなのに独立を保っていられる理由の一つに、ヴァルフィン神殿とラナエストの姫御子、そして武闘祭の存在がある。


 そもそもヴァルフィン神とは、戦神として知られており、戦う者全てが自らにヴァルフィンの守護がある、と主張するほどの信仰を受けている。

 それは、戦いにおいての正当性や自身の実力を主張するものであり、また、実際に剣聖を認定し特別な力を授ける事からも、本来であれば一国が神殿を内包することは諸外国から過剰な反発を受けるはずであった。

 にもかかわらず、ヴァルフィン神殿が王都ラナエストに属しているのは歴史上の理由があるからだ。


 過去において、ヴァルフィン神自らが降臨し、4つの神託を下したとされる。

 1つ、ラナエストに神殿を造れ、

 1つ、4年に一度の武闘祭と武具品評会を開催し神殿への奉納とせよ、

 1つ、神殿の巫女はラナエスト王家の血を引く女系であれ、

 1つ、平原をラナエスト王国が治め、他国への侵略を行うべからず、と。


 これは今から約三千年前の事とされており、真偽はともかく、実際に現在においてラナエストにヴァルフィン神殿があること、4年に一度の武闘祭があること、そしてラナエスト王家の女性が巫女となった場合、戦士の強さを客観的に判断する特殊な力が授けられ、剣聖の称号授与が行うことが出来、なおかつ剣聖となった者が剣聖技と呼ばれる特殊な力を振るう事が確認されているのだ。


 これらの事実から、ラナエスト王国は地勢上重要な戦略拠点でありながらも、他国間の牽制と自国の不侵攻により不可侵な中立国として認められており、また、経済上の重要拠点として繁栄が約束されている一方、神託を守り4年に一度、大々的に武闘祭や武具品評会を開くのだ。



 レドの説明に納得がいったミーナは、続いて旧鉱山についての情報をレド達と会話した。場所はおそらく見当が付くので、地図で示して教えることは出来るという。オルフェルが礼を言い、その後はエルフとシナギーの狩猟の腕比べ等、たわいない話で盛り上がっているうちに、やがてナギス村が見えてきた。


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