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03 魔道士とエルフ、森で遭遇

この話は別途連載中の「異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ」の前日譚です。

以前投稿していたものを大幅加筆修正してあり、独立して読むことが出来ます。

「ルイン~」を読んでくれた方も、内容にかなりの改編・挿入話がありますので楽しんでいただけるかと思います。


SFもファンタジーも盛り沢山ですがハイファンタジーものです。

異世界冒険譚がお好きな方には是非!

 翌朝、シャティルは非常に目覚めが悪かった。


 酷く疲れた感じが残り何か夢を見ていた、とだけは判るが、何も憶えては居ない。

 それすらも、半刻もすると綺麗さっぱり忘れてしまい、そこからは着替えと室内の清掃、朝食を取ると旅支度を完了させる。


 やがて、シャティルとゴードは、6年間住み慣れた山小屋へ別れを告げて、二人で歩き出した。まずは、大森林の出口との中間地点にあるエスタ村へ。


 騎士魔法ナイトルーンで走ればあっという間ではある。実際、毎月の買い出しは修行がてら走ってエスタ村を往復していたものだ。しかし、いざというときのために力を無駄遣いしないということは日常生活の大前提としている。

 超常の力に頼り切っていたら日常生活がまともに出来なくなるし、そもそも元の肉体が健全かつしっかりと鍛えられていないと、騎士魔法ナイトルーンの効力は落ちるのだ。


 身体を動かすのが筋肉である以上、同じレベルの騎士魔法ナイトルーンの使い手同士の戦いならば筋肉量が力に比例する。実戦では速さや技量も関係するので強さを一概には言えないが、通常体を疎かにしていては騎士魔法ナイトルーンを使う資格なし、とは最初に指導される言葉だ。


 ただし、この二人に関して言えば、なによりも、超常の力を普段から使っていたら風情がない、との一言で終わってしまうのだが。


 これでしばらくは見納めか、とも思い、シャティルはラウルウッドの森を改めてじっくり見ながら、歩いていた。


 ラウルウッドは樹齢一千年以上と言われる針葉樹だ。

 直径3マトル(6m程)、幹周りは大の大人が手をつないで15人は必要と思われるほど太く、樹高は20~30マトルにも届く。

 巨大な木であるため、木々の間は30マトルほど離れているが、枝は重なり合っているため、雨が降っても木陰ではずぶ濡れになることがあまりない。


 この日は生憎の雨模様で、サラサラと霧雨が降っている。霧雨に煙るラウルウッドの森は、神秘的な世界で自分が小人になったかのように錯覚させられる風情であった。


 向かっているエスタ村は林業を主とした村であるが、ラウルウッドを切ることはほとんど無い。あまりに巨大すぎで、しかも実際堅いのだ。

 林業と言っても、ラウルウッド間の土地に生える様々な若木(と言っても5~10マトルにもなる通常の高木である)を切るだけで充分成り立っており、ラウルウッドを切る必要がある場合は、冒険者を雇ったりラナエストの魔法学院から魔法使いに来て貰ったりするらしい。


『そう言えばラナエスト西側のヨネス川に掛かる橋はラウルウッド製だって聞いたな』


 そんな風にとりとめもないことを考えながら、歩くことおよそ二時間。

 エスタ村のはずれまでようやくたどり着いた。


 30マトルはある、ラウルウッドの幹と幹の隙間に、畑や花壇、木造の家屋があちこちに点在している。


 踏み固められた道は土が剥き出しで、それはラウルウッドの根を避けるように曲がりくねりながら、各家々をつないでいる。

 村の中央部には円形の広場があり、周辺には丸太を利用したベンチや切り株を利用した椅子やテーブルがおかれ、そのうちの一角には井戸がある。

 もっとも、エスタ村の人々が井戸を使うのは一度にまとまった水が必要なときだけである。普段の飲料水はラウルウッドの幹に直接挿した蛇口から採取している。


 広場周りには村の主要な施設が集まっており、シャティル達は雑貨屋に向かった。丁度、雑貨屋の主人が店先で商品を整理していたようで、二人に気づくと声を掛けてくる。


「ゴードさん、シャティル君、いらっしゃい。買い出しにはまだちょっと時期が早いんじゃないかね?」

「実は修行期間が終わったので山小屋を引き払うことになってな。」


 ゴードはそう言うと、今後は二人分の仕入れが不要なこととこれまで世話になった礼を言い、雑貨屋の主人に別れを告げる。

 雑貨屋の主人は別れを惜しむと共に、ゴード達に一つの情報を伝えた。


 曰く、村長宅に客人が来ている、と。一人はエルフの旅人で、もう一人は人族ヒュームの魔法使いらしい。


 村長にも挨拶しなければならないので、二人は雑貨屋に別れを告げ、村長宅へ向かった。

 村長に来訪の意を告げ、別れの挨拶をしていると、奥からヒュームの一人の少年が出てくる。と、言うことはこの少年が魔法使いだろうか。

 シャティルよりは頭一つ分背が低く、暗緑色のローブを着込んでいる。


 少年はシャティルを見据えるとニヤリと笑った。この顔の面影には覚えがある。


「久しぶりだな、シャティル!」

「お前!レド!レディアネス・クレイドか!」


 二人は満面の笑みを浮かべ、両手を広げて互いに肩を掴み確かめあった。


「久しぶりだなぁ!四年ぶりか!」

「四年後の武闘祭で会おうって約束、待ちきれなくてな。そろそろ修行が終わるんじゃないかと思って迎えにきたんだ」


 少し照れが入った、はにかんだ笑顔でレドと呼ばれた少年は答えると、ゴードに向き直って少し表情も改める。


「ゴードさんもお久しぶりです」

「おう、レドも元気そうで何よりじゃ。ウォルスの爺はまだ生きとるか?」

「師匠も元気ですよ。まだ学院長やってます」


 そうか、と豪快に笑うゴードであった。



 レドとは愛称であり、本名はレディアネス・クレイド。16才の魔術師だ。

 ラナエスト魔法学院の学院長であるウォルス・クレイドを祖父に持ち、幼少時に父母を失ったレドは、祖父に引き取られ、魔法学院で生活をすることとなった。

 生まれ持った才覚と魔法ずくめの環境で英才教育を受けたレドとシャティルは、シャティルが修行を中断して四年前のラナエスト武闘祭を見に行った時に、街で出会い意気投合した間柄だ。お互いに腕を磨いて四年後に再会を誓い合った三人の仲間の一人である。


「俺ももう、学院で導師をしてるよ。もっとも、若すぎるって嫉妬されて、講義時間が少なくてね。その代わり、自由に研究も旅もできるので全く問題ないんだけどな」


 皮肉を込めた笑い方で近況紹介をするレド。


「そうかぁ。俺も剣匠の称号をもらったところだ。武闘祭で優勝すれば晴れて剣聖だけどな!」

「楽しみだな。あ、でも、武闘祭の優勝は難しいかも知れないよ。“アイツ”も出場してきたらどうなることやら・・・・・・」

「アルティのヤツか!あいつとも会えると良いな」


 ニンマリと笑い三人目の仲間を思い出すシャティル。

 もう一人の仲間、その名もラーバスター・アルティレイオン。

 長くて仰々しい名前だ、アルティで良いよな!と初対面でいきなりシャティルにあだ名を付けられた少年は、レドと同じく今年16才、光翼騎士団(ウイングナイツ)領で騎士になるべく修行をしているはずだ。

 もし、彼もラナエストに来ているのであれば会うのが楽しみである。


 気持ちもはやり、さて、それじゃあ出発しようか、と言ったところで、レドが止めてきた。


「ちょっと待って。一人紹介したい人が居るんだ」


 レドが村長宅の奥へ行って戻ってくると、レドの後ろにシャティルと同じくらいの背丈の、褐色肌の細くも筋肉質なエルフ男性が現れた。


 袖無しの短衣に背中に弓を背負い左腰には短剣、目を引くのは左腕の肘上から指先までが、赤銅色のガントレットに覆われている。

 端正な顔立ちだが、目元がちょっとニヤついたような糸目の人なつっこい感じの男だった。


「初めまして。剣聖ゴード卿と若き剣匠にこのようなところで会えるとは、寄り道はしてみるものですね。私はエルダーテウルのオルフェル。エルフの鍛冶師であり狩人でもあります」


 オルフェルは、そう挨拶し手を差し出してきた。ゴード、シャティルと握手し終わるとエスタ村へ来た理由を話し始める。


 オルフェルは西へ一千ケリーも行ったラウルウッド大森林の西端にある、エルフの国エルダーテウルが故郷だという。

 ラナエストの武闘祭に合わせて行われる品評会に参加するため、エルダーテウル最寄りの港町ベルエスから海路でルモンズに渡り、そこから街道沿いにラナエストを目指していたのだそうだ。ところが。


「ラナエスト王国の名物でもある、“露天鉱床”テオストラが遂に資源が尽きたという噂が・・・・・・それどころか、なぜか王国が立ち入り禁止措置までしたと。これではせっかくラナエストまで行って品評会に参加したくても材料が手に入らず参加できません」


 困った顔で嘆くオルフェル。


 ラナエストの品評会は、武闘祭に合わせて開催される4年に一度の行事で、武器や防具の職人が腕によりを掛けた一品を競い合う、王国主催の品評会だ。

 参加資格にあまり制限はないが、その中でも一点、「王国在住の職人」という項目がある。

 これは、品評会が王国内の武器産業の活性化と職人の技術力向上を目的としており、優良表彰者5人には“5本指”の称号と共に次の大会までの4年間、一定の報奨金の支払いが受けられる代わりに、王宮への武具納品の義務が生じるためである。

 そのため、名を上げようとする職人は品評会の1ヶ月前までにラナエスト王国へ在住手続きを取り、これまでは豊富だったテオストラ鉱床の資源を元に、王国内で武具を作成するのが通常であったのだ。


 なお、品評会に提出された武具のうち、表彰を受ける優れた武具は王国への寄贈とされ、そのまま王宮が所有し、武闘祭への賞品や王国騎士団への下賜、外交における諸外国との交易品として使われる。

 これら折々に職人の名前があがるため、受ける名声たるや途轍もないものとなり、その職人の将来は安泰を保証されるのだ。


「そんな訳で、ラナエストへ向かう前に、イソベル山に寄って採掘してみようかと思ったのですが・・・・・・」


 彼の困った表情は変わらなかった。なぜなら。


「イソベル山に鉱脈があるとは聞いたことがないのう」


 ゴードの回答に、村長とレディアネスからも同じ事を聞かされた、と肩を落とすオルフェル。


「そんな訳で、あきらめてとにかくラナエストに向かうことにしました。よろしければご同行させていただけないかと」


 別に構わない、とのゴードの返答により、4人に増えた一行は、エスタ村の面々に別れを告げ、ラウルウッド大森林の出口へ向かうのであった。



 エスタ村から大森林出口であるラナート平原南端までは距離にして10ケリー(10km)、大人の足で二時間ほどの距離である。

 道中、歩きながら色々と雑談している中で、シャティルは気になっていたことをオルフェルに質問した。


「その左手のガントレットは自作かい?それに何故左手だけ?」

「軽装の弓使いとしては金属籠手は不利なのでは?」


 レドからも指摘を受けたオルフェルは、左肘から先を掲げ自嘲ぎみな何とも言えない表情をする。


「これね・・・実は義手なんですよ」

「義手!?そんな精巧なものが!?」

「エルダーテウルをその昔襲ったドラゴンが居ましてね。討伐隊として戦った時に左肘から先を持って行かれたんです」


 驚くレドに、説明をしながら左手でぐっと握り拳を作る。


「当時、鍛冶師にして医者の人族ヒュームが国に居たのです。その男が討伐したドラゴンの鱗やその他の材料を使い、この義手を作ってくれました」

「その人の名は?」


 興味が沸いたのが丸分かりのレドである。


「コルムスという名です。私が鍛冶師を目指すきっかけをくれ、その後も指導してくれた師匠です。残念ながら2年前に老衰で亡くなりましたが」


 話を聞いていたゴードがその名に心当たりがあるのか、考え込む仕草をしていたが、そのまま何も言わずに歩き続けた。


「オルフェルさんも同じような義手を作れるのですか?」


 続けたレドの質問に、自分のことは呼び捨てにしてくれて構わない、自分も気軽に話させて欲しい、と断りをいれるオルフェルに、レドも自分の事はレドでいい、と反す。

 義手作成については、自分には医学知識が無くて無理だとオルフェルは答えた。武器も作れるが、目指しているのは優れた防具職人とのことだ。


「なので金属防具に限らず、皮でも布でも使いこなせられるよ。ただし、それはそれで魔獣とか特殊なモンスターを狩らないと材料が手に入らない訳で。5本指に成れたとしても通常は金属製品主体だろうからねぇ。良い鉱石が手に入らないと品評会がなんともならない」

「ラナエストに着いたらシャティルの刀と防具を新調するつもりなのじゃが、なんならお主、防具を頼んでも構わんか?」


 ゴードの思いがけない依頼にオルフェルは驚き興奮する。


「願ってもない!是非やらせてください!ああ、でも材料をどうするか、ですねぇ」


 意気込むがすぐに表情を変えて思案顔に。ラナエストで手に入るといいんですが、と続ける。


「武器防具に魔力付与をするのであれば是非手伝わせてよ。その辺の研究もしてるのでかなりのものが出来るはずさ。それと、魔獣の素材も色々と自室に戻ればあるので提供できるよ」


レドの申し出に驚くオルフェル。それからしばらくの間二人は、武具開発の手法や材料の調達手法とその材料の特製などを話題に花を咲かせ始める。


『話についていけん!』とシャティルは内心ぼやきながらも、その後様々な会話をするなかで、3人は次第に打ち解け、気安い会話をするまでになるのであった。


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