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02 イソベル火山脱出

この話は別途連載中の「異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ」の前日譚です。

以前投稿していたものを大幅加筆修正してあり、独立して読むことが出来ます。

「ルイン~」を読んでくれた方も、内容にかなりの改編・挿入話がありますので楽しんでいただけるかと思います。


SFもファンタジーも盛り沢山ですがハイファンタジーものです。

異世界冒険譚がお好きな方には是非!


「ふい~、やったか?出来れば騎士魔法ナイトルーンを使わずに倒したかったんだけどなぁ」


 快活な張りのある声で話しながらそのまま奥へ進むと、祭壇らしいものが奥の壁に見え、バラバラになったスケルトンの身体や曲刀が周囲に散乱していた。


「やべぇ、やりすぎたか」


 祭壇周辺の光景に罰当たりなものを感じ、若干焦りつつも近づくと、祭壇の真ん中に銀色のバッジを見つけた。


 遠目にはアルファベットのVの字体を斜めに崩したようなデザインのそれは、剣神ヴァルフィンの上半身と腰に差した長い剣によって表されたV型のバッジだった。

 それを手に取り、上衣の左胸につけてみる。


「よっしゃぁ!これで剣匠を名乗れるぜ!!」


 歓喜の握り拳をして快哉するシャティル。大きく息を吐いて緊張を解くと、帰ろうと身を翻したがその時である。


 ググググググググ・・・・・・


周囲の洞窟が震え始め、グラグラと足下が揺れ始めた。


「え?まさか・・・このパターンは崩れるとか・・・・・・本当に?!」


 洞窟の揺れは次第に大きくなり、天上からはポロポロと岩片が落ち始めている。このまま押しつぶされてはたまらない。


「逃げるぜっ!」


 誰もいないのに自分に言い聞かせ、逃走を始める。

 洞窟の入り口を抜けて、広大な吹き抜け空間の空中回廊を、来た道をひたすら駆け戻るとズズンッと嫌な音が後方で・・・・・・

見てはいけないような気がしつつもシャティルが一瞬振り返ると、洞窟は完全に崩れ落ちていた。そして、そこに隣接していた空中回廊を構成する石もボロボロと・・・・・・


「うおおおおお!なんてお約束な!」


 必死で駆けるシャティル。追うように次々と崩れ落ちる空中回廊。走る速度よりも回廊の崩落速度のほうが早く、だんだんと崩落が追いついてくる。通常、この状態から助かる術は、そうはない。空でも飛べない限りは。


しかし、シャティルにはまだ騎士魔法ナイトルーンがある。


『いいか、シャティル。騎士魔法ナイトルーンは、あらゆる理不尽をはね除けるためにある。』


 一番最初に、教わった教え。

 この世から悲しみを排除するために、理不尽というある意味この世で最悪な暴力的事象を見下してやるために、この技術は生まれたのだと。いつか本当の意味も解るはず、と添えられた言葉だ。


 もっとも、当時この言葉を教えてくれた父は泥酔した赤ら顔で酒臭い息と共に話したため、この状況がまず理不尽だと思ったことを良く覚えている。


それはともかく。


 シャティルは、騎士魔法ナイトルーンの発動を念じた。瞬時に全身に力が行き渡り白い燐光に包まれる。


 古代騎士王国の騎士達が使用し、後に広く戦士達に伝えられた超常の技法、騎士魔法ナイトルーン

魔法使いと違い詠唱を必要とせず、肉体に宿る生命魔力ライフマナと魂に宿る精神魔力マインドマナを融合させ、想いを力に変える騎士魔力(ナイトマナ)を造り出すのだ。これにより、騎士魔力ナイトマナが細胞レベルで満たされ、筋肉のエネルギーとなり、衝撃から守る力場となり、肉体を損傷することなく超人的な力を発揮する事が出来る。


 修行と素質により体得できる技術であるが、大抵の戦士は発動に時間が掛かり、生命と精神の魔力融合の度合いも低く青い燐光を発する。素早く、しかも燐光が白に近ければ近いほど、騎士魔法ナイトルーンの使い手の技量の証明となるのだ。


 シャティルは人ではあり得ない速さで空中回廊を駆け抜け、そのまま迷宮に入らずに脱出する方法を選んだ。

吹き抜けの内壁に蹴り上がり、壁面を斜め上空に向かって駆け上がり始める。

 失速しないよう、つま先で壁面をえぐるように蹴りつけると壁面には凹んだ跡が残り、シャティルはとにかく足の回転数を上げて重力に逆らい上を目指した。


 吹き抜け全体が今や鳴動し、火口の溶岩が噴火を始めるかも知れぬ想像を抱きながらもとにかく必死に走り続け・・・・・・ついには火口から飛び出すシャティル。


「まずは脱出ぅうう!」


 走り続けた勢いのまま、さながら投石器から打ち出されたかの如く、宙に舞うシャティル。



 周囲の眼下には試練の迷宮のあったイソベル火山の麓に広がるラウルウッド大森林。

 日差しと地形からシャティルは自分の向きを瞬時に確認した。


 北から北西に掛けてはラウルウッド大森林のはるか向こうにトルネスタン公国領へつながる丘陵地帯が広がっている。

 北東には大森林の外縁とさらにその先へ広がる大穀倉地帯のラナート平原。

 視界外の西方、南方、東方はラウルウッド大森林が火山を中心に半径300ケリー(300km程)は広がっているはずだ。


「絶景だな~!いつか全部廻ってみたいものだ!」


 余裕のある様子だが、彼は今、絶賛落下中である。勢い余って飛び出した人型の噴火岩は、そのまま放物線を描きつづけているが。


 イソベル火山の斜面に着地・・・・・・できるか?

大丈夫だ。騎士魔法ナイトルーンを使ってるから問題ない!


シャティルは自信たっぷりに着陸を行った。確かに身体に怪我はない。しかし、シャティルの思惑とは違い、放物落下と着地地点の傾斜、重力による加速度。着地で綺麗に止まれるわけもなく・・・・・・


『問題ない・・・・・・問題な・・・・・・ぅわぁああああああ!』


 言葉を発する余裕もなく斜面を駆け下りる羽目になるシャティル。


『と、止まれ止まれ止まれ・・・・・・あ、足が止まらない・・・・・・・・・・・・そうだ!きっと今なら飛べるかも!』


 前向きなのか馬鹿なのか・・・・・・シャティルは絶賛大回転中の両足で地表を踏み切った。


 それは、騎士魔法ナイトルーンが無ければ決して成功しない筈であったが、滑走と跳躍により飛び立つ事を成功させてしまい、長距離弾道弾と化すシャティル。


『飛んだっ!やれば出来るじゃん、俺!・・・・・・でも、どうやって止まろうか』


 その日、一人の青年が天空切り裂く鳥となったのである。



 シャティルが跳び蹴りの姿勢で何本もの大樹をへし折り、落下速度を殺してようやく普通に大地に降り立ったのはあれからもうしばらく後のことだった。

 時間にすれば騎士魔法ナイトルーン使用で10分も経っていないが、非常に疲れた気がする。


 騎士魔法ナイトルーン自体は連続使用2時間は持つはずなのだが、なにしろ自分の意志と違う身体の動きを強制されると、動きに無駄が生じるのだ。あとは精神的な疲れか。


 着地してからしばらく座りこんでいたシャティルは立ち上がり尻を払った。


「とりあえず、爺さんのとこに帰るか」


 歩き出す前に、ふと思い立って腰の太刀を抜いてみるシャティル。


 6年間の修行にずっと使ってきた太刀だ。人里離れた土地で修行していたため、修理することも出来ず新しい太刀も入手することが出来ず、手に握る太刀はあちこち刃こぼれがしており、刀身にはうっすらとヒビは入っている。おそらくスケルトンの剣を受けた時のものであろう。流石は、神の試練だけあって、あのスケルトンは並みの腕前では無かったのだ。


「お前には世話になったな。ラナエストに行ったら新調させてもらうよ」


太刀に独り語りかけたシャティルは、鞘へ仕舞い込むと山小屋へと歩き出した。


 逗留している山小屋からイソベル火山の試練の迷宮までは30ケリーほどであったが、飛んで来た分、大分近いはずだ。ここからはそんなに遠くないだろう、と考えながら、シャティルはラウルウッド大森林をのんびりと歩き出した。



 ラウルウッド大森林、通称“大森林”は、ラナート平原の南に位置し、南へ350ケリーも広がりを見せ、港町ルモンズ郊外で途切れる。


 ルモンズ周辺は切り立った断崖絶壁の多い隆起地形で、沿岸で漁をする漁師達は大森林から流れ出る川が滝となり海に流れ落ちる光景を普段から見ている。

 川の運ぶ森の滋養が、周辺海域では豊富な魚介資源を生み出していることは地元漁師の常識だ。


 そんな、漁師にとっては恵みの森も、大陸の大部分の人々には恐れの対象だ。何しろ、ラナート平原南端から、西への広がりは1000ケリーと呼ばれ、あまりの樹海の深さに“迷いの森”とも呼ばれている。


 その全容を知るものは居らず、森の民エルフですら、奥までは入っていかない。遙か西方に大森林西端があり、エルフの国エルダーウッドもあるという話ではあるが、1000ケリーも樹海を横断してラナート平原側に来るエルフは聞いたことがない。


 大森林で生活する者は、平原側の入り口から10ケリーほど入ったところにあるエスタ村の住民と、そこからさらに10ケリーほど奥の山小屋で生活するシャティル達くらいであった。


 歩き続け、夕暮れの中ようやく山小屋にたどり着いたシャティルは、扉を開けて中へ入る。


「ただいま~」

「おう、無事に帰ってきたようじゃな」


 そこには白髪を無造作に後頭部で縛った老人がいた。老人といっても読み取れるのは顔の皺があるからで、生還な顔つきと歴戦の剣士のような風体の威丈夫だ。


 ゴード・ヴァンフォート。剣聖にしてシャティルの祖父、修行をつけてくれた師匠でもある。


「バッジは取ってきたか?」

「ほれ、このとおり」


 胸につけたバッジを見せる。


「よかろう、これで今日から剣匠を名乗るが良い」

「別に剣聖でもいいんだけど?」

「なんども言っとるじゃろうが。剣聖が任命できるのは剣匠まで。剣聖になるには剣神ヴァルフィンの神殿に行って、神に直接認めて貰うか、ラナエスト王国の姫御子に認めて貰うか、しか方法はない」

「まぁ、解っちゃいるんだけどねぇ」


 不敵に冗談を言うシャティルは、身を投げ出す様に椅子に腰を降ろした。


「そんな訳で明日、ここを引き払うぞ。今日は6月の15日。9月になればラナエストの武闘祭じゃ。そこで優勝して試練に打ち勝てば剣聖の称号が姫御子からもらえる。もっとも、お主の場合、試練は終わっとるから優勝すればすぐ剣聖じゃ」


 ゴードの説明にシャティルは違和感を憶えた。自分が受けたのは剣匠の試練のはずだ。


「試練って、俺が受けたのは剣匠の試練だよ?」

「実はな、剣匠になるのに試練は必要ないのじゃよ。剣聖が認めればそれで良いのじゃ」

「はぁっ!?」


 シャティルの驚愕に構わずゴードが続ける。


「イソベルは、本当は剣聖の試練じゃ。本来であれば試練終了と同時にヴァルフィン様の御許に召喚されるのじゃがな。資格のない者が到達すると、迷宮が追い出す仕組みになっているようじゃ」


 つまり・・・・・・迷宮からの脱出劇は、本来の順番で試練を受けていれば必要なかったということ。追い出す仕組みが迷宮崩壊、ということで。

 それではそもそも、あんな思いをする必要は無かったのではなかろうか。


迷宮が壊れたのが自分のせいではないということにちょっとだけ安心はするが、それにしても、あれだけの大崩壊では、シャティルとしてはヴァルフィン神に面目が立たない。


「ヴァルフィン様にもしかして、めっちゃ怒られるんじゃねえの!?壊れ方尋常じゃなかったし!」

「ホッホッホ!心配ないわい。今回の段取りはワシがやった事じゃしな。迷宮も後で勝手に直るはずじゃから心配するな」


 勝手に直るものなのか?との疑問が顔に出ていたのであろう。

ゴード曰く、王都ラナエストの「試練の迷宮」もヴァルフィン神の手によるもので、迷宮構造も勝手に変わることがあるらしい。


「そうなのか・・・」


ホッとするシャティル。


 ゴードはシャティルに言わなかったが、実は今回のことは、ヴァルフィンから神託があってやったことであった。剣神から期待されているということかもしれないが、増長させるわけにも行かないのでこのことは秘密である。


 ともかく、二人は夕食を食べ終わると、身の回りを整理し明日に備えて早めに就寝するのであるが、その日、シャティルは夢見が悪かった。




―黄昏色の世界。赤茶けた巨大な砂山が幾重にも連なり、その一つ一つが、麓から頂までの至る所で生態系、否、神態系とも言うべきものを形成している。

 砂上では幾何学模様のような神体、所謂、高次元霊命体達が闘争しているが、底辺で勝利した神体は次に上位の神体達による闘争に加わり、そこの勝者がさらに上を目指すのだ。

 そういった世界を一望出来る、一つの砂山の頂点にその白亜の神殿はあった。


「ヴァルフィン神よ!何故我らを現界に帰してくれぬのです!?」


 様々な武器を持つ武人の一団が神殿内の至聖所を訪れると、室内の最奥には神座に腰を掛け、傍らの宝座に備えられた供物の果物に手を掛けているヴァルフィン神が居る。剣の神とされているがその実は戦そのものを司る神だ。


 ヴァルフィン神は筋骨隆々な体躯に白い布巻上着トーガを幾重にも巻き付け、白い長髪と顎髭を垂らした格好で、傍らに身長と同じくらいの丈の両手剣ラグナロクを置いている。


 その強さも精神性も、上位存在として発する気配、神格、全てに於いて人間を威圧するに造作もない程の充分な貫禄を持っているのだが、なぜかその目は陰鬱で精細を欠いていた。


 今、ヴァルフィンの前に居る一団は、地上では剣聖ソードセイントの称号を持つ10人の武人達である。


 剣だけに限らず、槍や斧、弓などの使い手であっても実力が認められれば剣聖ソードセイントと呼ばれる。彼らは地上では英雄、もしくは勇者と呼ばれるに相応しい力量を持っているのだが、如何せん今回は神々の盟約により、此度の戦争へ参加させる訳にはいかなかったのだ。


 しかし、人類存亡を賭けた戦いに、剣聖達は連合軍へ元々参加するつもりであったため、その戦意は旺盛であった。それを良しとしない者達が、強制転移によって剣聖達を神界に召喚し、ある種の軟禁状態を造り出していたのである。しかも、その理由を説明することもヴァルフィンは禁じられていた。そのため、納得出来ない剣聖達は連日のようにヴァルフィンの元を訪れる。


 その結果、説得出来ないヴァルフィン神は、理由が知りたくば力を示せとしか言いようが無く、自らの力で剣聖達を蹴散らし、そして記憶を奪うのだ。結果・・・・・・毎日同じ光景が繰り広げられている。


 記憶を失っても、翌日には再び同じ思考、同じ精神、同じ信念の元に剣聖達は集い、神をも恐れずにやってくるのだ。

 戦の行方を決定付ける神であるからこそ、此度の戦争には関与出来ない。この理不尽な制約に、従うしか術はないのか?

 また、果たして、戦争が終わっても彼らに真実を告げることが出来るのだろうか?


 もし真実を告げられなければ、未来永劫同じ事をこの場で繰り返すのか、もしくは神自らが認めた剣聖達を自ら消滅させるのか。


 迂闊に消滅させれば、剣聖の霊魂は霊格を逆転して堕落しかねない。それはそれで神界にとって由々しきことである。ならば、封印してしまうか?


『神など止めてしまおうか、それとも剣聖職を金輪際生み出さぬようにしようか』


 ヴァルフィン神の黄昏は深みを増してゆく―


宜しければ感想、ブクマ登録、レビュー等、応援よろしくお願いします!


この作品は「異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ」の全体編集を年末に行い、抜き出した第一部を前日譚として改編したものです。

以前は第一部だけでは10万文字に達していなかったのですが、今回の改編に伴い、2万文字以上追加し10万文字を超えています。


細かな部分では行間改行や台詞回しを全体的に修正していますが、冒頭からエンディングまで挿入エピソードも加えて改訂していますので、一度読んだ方も是非お読みください。


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