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014 巨人と猫と少女

この話は別途連載中の「異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ」の前日譚です。

以前投稿していたものを大幅加筆修正してあり、独立して読むことが出来ます。

「ルイン~」を読んでくれた方も、内容にかなりの改編・挿入話がありますので楽しんでいただけるかと思います。


SFもファンタジーも盛り沢山ですがハイファンタジーものです。

異世界冒険譚がお好きな方には是非!

 シャティルとギルビーが近くで並んで彫像を見上げる。


「なんだこりゃぁ・・・・・・古代秘宝アーティファクトか?」

「なんと美しい造形じゃ・・・・・・すばらしいのう・・・・・・あの剣はこの巨人が使っていたものか・・・・・・なるほど、読めた!あれはこの巨人サイズのスローイングダガーだったんじゃ!」


 一方、ミスティとレドはシャティル達と反対側から見ていた。


「動き出したり、しませんよね?」

「判らないなぁ。ん?」


 レドが巨人の左腰の辺りに、何かを見つける。


「文字が刻んである。これは・・・・・・古代剣王国ザ・ソードキングダムの文字だな。今の大陸共通語の源流の言葉だよ」


 オルフェルとミーナが近づいてきた。


「なんかすっごいものが出たわねぇ」

「レド、読めるのか?」

「ちょっとまって。読んでみる」


 レドは読み始めた。


「ルイン・ブリンガーズ連合騎士団 No.X クアーツェ・スノーシルバー」


 読み終えた瞬間、刻まれた文字が明滅して、レドは自分が魔法を掛けられた事を理解し驚愕する。


「これは、魔印誓言ルーンプリッジ!?魔力文字でもないのに?俺達全員に今魔法が!」


 飛びず去るレドの叫びに、オルフェル達も驚愕するが、レドの驚きはそれだけではない。

 今の仕組みが全く判らず、しかもさらに驚愕すべきは、掛けられた魔法の種類も判らず、対抗することもできなかったことだ。

 



“知性体と確認。ソウルチェック・・・・・・問題なし。搭乗者救護の適正、可。本機の機能停止から3057年後の文明レベルを確認・・・・・・偽神健在”


“本機はこれより搭乗者生存及び機密保持行動に移行します”


“バッテリー残量9%。マナバッテリー残量35%。マナエンジン起動準備します。魔導ブレインをサポートユニットへ移動。サポートユニットコア生成。マテリアルは装甲版を使用”




 本来であれば、それがこれまで考え、報告してきた内容は、聞かせるべき相手がいる時に音声報告をするはずだった。しかし、現在、搭乗者はまだ起きておらず、報告が出来ない。

 魔導ブレインはこれから作り出す外部端末に、これまでの自らの記憶と機能をコピーし、本体は機密保持のために騎士の墓場へ転移させるプログラムを実行させる。


 クァーツェ・スノーシルバーと呼ばれた巨人から燐光が発生し、そのうちの一部が別れて地面に澱み、やがて光が薄れるとそこには1匹の猫が現れた。

 白銀色の毛並みで背中には黒色の虎縞模様、瞳は青く、短毛種な猫だ。


『なんだ?ゴーレムか?しかも毛が生えている?それにしても一瞬で生成だと?』


 目の前の事象にレドが驚愕している一方、女性陣は。


「「可愛い~!」」


 ミーナとミスティの感嘆を尻目に、猫の姿を取ったクアンは、巨人の正面に歩いた。




“搭乗者解放準備。前部装甲パージ。”




 バシュッ!と音がして、巨人の腹から前部を覆っていた方形盾のようなものが地面に落ちる。


 巨人の腹の内部には、一人の短髪の少女が座っていた。

 全身をスライム状の透明な物体に覆われており、目はつむっている。年の頃は16,7位であろうか。細身であまり凹凸の無い身体付き、髪は金色で整った可愛らしい顔立ちだ。


 クアンは、この少女、レティシアを託す相手を見極めるため、ソウル・シンパシーの魔法を使う。この少女の魂と相性がいい魂の持ち主は、呼びかけに反応するはずだ。


 猫が巨人の腹を覗き込み、次にレド達に向かって「にゃ~ん」と呼びかける。


「なんだ?呼んでいるのか?」


 シャティルが近づく。クアンは、この青年がレティシアを託すに相応しいと認めると、最後の安全装置を解除する。すると、巨人の腹から少女がずるり、と抜け落ちてきた。


 慌てて抱き留めるが、ぬるりとしたスライム状のものが身体にまとわりつき、うへぇ、と感じるシャティル。




“バッテリー残量9%。マナバッテリー残量25%。マナエンジン起動。爆縮プログラム開始。言語サーチ開始・・・・・・言語習得、表現能力修正”




 巨人を包む燐光が再び強く輝き始め、どこからか鋭く連続する風切り音が聞こえてきた。


「危険なので皆下がるんだニャ」

「猫がしゃべったぁ!?」

「ささ、下がって下がって」


 ミーナが驚くが、クアンは意に反さず下がるように呼びかけ、自らも巨人から離れてゆく。


 一行が自然と下がる形になり、今や眩くなった燐光と甲高い風切音を発する巨人騎士を見守る形になった。やがて・・・・・・




“マナエンジン臨界。爆縮エネルギーを使用して騎士の墓場へ次元転移後、本機は活動停止します”




 一瞬、燐光が広がったかと思うと、次の瞬間には中央に凝縮されるように収束し、フッと消えてしまった。

 後に残るのはたいまつに照らされる薄暗い空間と静寂のみ。


 今のは一体なんだったのか、もしかしたら夢なのかとも思えるが、1匹の猫とシャティルの腕の中の少女の存在、そして地面に横たわる巨大な盾状の金属が、これが夢ではない事を知らしめるのであった。



 シャティル達は、再び旧鉱山入り口前のキャンプ地に戻っていた。

 巨人の騎士の消失の後、猫がこう言ったのだ。


「ボクの名前はクアン。その娘の名前はレティシア。詳しいことはその娘が起きてから話すから、まずは一度外へ出て身体を休ませて欲しいニャ」


 一行は一度外へ出ることにし、キャンプ地に少女を横たえた後、それぞれが作業を行うことにした。


 クアンと名乗った猫は、レティシアという少女のそばで丸くなっている。

 ミスティとミーナは、枯れ枝を集めてたき火を用意し、野営の準備だ。

 オルフェルとギルビーが鉱山内の崩落した岩石を見聞し、含まれている金属要素を判別した結果、鉄と銀とミスリル銀が含有されていた。要素が確定したことで、レドが元素加工の魔法を使い、金属を抽出、インゴット化。

 今はそれを3人でキャンプ地そばに運び出している。


 ちなみに、元素加工によって集めた金属は、純度100%であるため、天然鉱石に比べてむしろ劣っている事の方が多い。様々な微量元素の混じり具合が金属の良質度を決定するため、使い方は天然鉱石に少ずつ混ぜて試すのが良い、とはレドの説明だった。


 旧鉱山入り口からは、黒い煙がたなびいている。


 シャティルがムカデ王の死骸に油を掛け、火を放っているのだ。


 巨大ムカデの時と同様、そのままにはしておけないと言うことで、一連の作業の最後に燃やすことにしたのだ。

 しばらくして、シャティルが鉱山から出てくると、たき火のそばに腰を降ろす。ミスティが暖かいお茶を出してくれた。


「お疲れさまです。シャティルさん」

「ありがとう・・・・・・あー、呼び捨てにさせてもらっていいかな?こっちも呼び捨てで構わないし」

「えっと・・・・・・はい」

「じゃ、ありがとう、ミスティ」

「いえ、シャ、シャティルもお疲れさま・・・・・・です」


 二人を横目に見て、ミーナはなんとなく舌をだしたくなった。甘すぎる砂糖菓子を食べた気分で胸くそ悪い。とは言え、気を取り直してミーナも話掛ける。


「ここのメンバーはみんな無礼講でいいんじゃない?あたしもそうさせてもらうわ」

「ワシもかまわん」

「俺も、オルフェルと呼んでくれて構わない」

「俺もレドで結構だ」


 男達がそういったところで、丸まっていたクアンが顔を上げて言った。


「ボクもそれでお願いニャ。たぶんレティシアも同じニャ」


 クアンに向けて、レドが質問する。


「その娘はまだ起きそうにないか?」

「この娘の体調管理情報はボクに流れてくるニャ。もう少しだニャ」

「では、先にクアンの事を教えてくれないか?クアンはゴーレム?」

「・・・・・・レティシアの睡眠学習にも使えるから、そろそろ話そうかニャ」

 

 そう言って、クアンは身体を起こし、話し出した。


「ボクは猫型自動人形のクアン。広義ではゴーレムの一種ニャけど、この身体の造りは骨格内蔵型でただの金属豚野郎ではないニャ」


 レドには意味が通じてるが、他の仲間には判らない説明だ。そのため、レドが捕捉する。


「一般的なゴーレムは金属の塊を粘土のように軟らかくして動かす方式なんだ。中身が前部同じ金属、それが“金属豚”って意味。それに対して骨格内蔵型は実際の生物のように作られている。これらはゴーレムのくくりではあるが、自動人形オートマータと呼び区別するんだ」


 意外と口が悪いのね、と言うミーナに、クアンが言う。


「ニャ?ボクはレドを参考にしているのニャ。レドが、君たちが言う“巨人の騎士”の名前を読み上げた時、魔法でレドを調べさせて貰ったニャ。それだけじゃなくて君ら全員も調べたニャ。おかげで、君たちが信用できる人かどうか、それから、現在の文明水準がどれくらいか、そういうことの情報を知ったのニャ」


 これに愉快そうにシャティルが反応する。


「つまり口が悪いのはレドを参考にしたからだと?」

「ほほう・・・・・・そんな事言うからには宴会コース覚悟して貰おうか?」


 うなづくクアンにシャティルは笑うが、レドがニヤけて凄み、すかさずシャティルは顔をしかめてブンブン振る。一同に笑いが起こったところで、クアンは続けた。


「そんニャ訳で、皆がボクらにとって敵になりそうな人かどうかくらいの情報は全て入手して知っているし、そこまでしなければならないほど、ボクらの敵は怖いのニャ。ボクは君らの脳内情報を確認して安心したからこそ、安心してレティシアを預けたいと思ったのニャ」


 クアンの説明は、自分の情報が一方的に抜き取られた感じがして不安と不愉快が生じる内容であることから、レドが指摘する。


「それって正直、良い気はしないな。俺達のことを俺達以上に知っているってことだろう?」

「君らの魂の情報をチェックしただけニャ。例えば、極悪人や悪魔につながる要素をもっているかどうかが判断付くくらいニャ。知識と記憶の情報もあるけれど、ボクがそれをわざわざ読み取っても、思い出物語の章題を把握できるだけで、君らから逆に、自分の記憶の中で捜し物をしたいと言われて、手がかりを元に初めて検索できる感じニャ。それから、心配しなくとも、君らの情報がボクから他人に漏れることはないようになっているニャ」

「その根拠は?」

「説明が途中だったニャ。ボクはゴーレムだけども、それはこの身体の話ニャ。ボクの中身は“魔導ブレインNo.X”ニャ。」

「クァーツェ・スノーシルバーと同じ番号だな」

「さすがはレドだニャ。元々、ボクはあの“解放騎士リベレーション・ナイト”の魔導コンピューターだニャ。」

解放騎士リベレーション・ナイト?魔導コンピューター?」

「そのうち、レドも造れるようになるニャ。解放騎士リベレーション・ナイトについてはとりあえず置いておくニャ。魔導コンピューターとは、例えば、人が1年掛かって覚える事を一瞬で実行できる機能をもった、凄い脳ミソニャ。判りやすい例で言うと、敵の大群を一瞬で正確な人数や武装の種類、怪我の状態などを把握して、知らせることが出来るニャ。これは、普通に人がやろうとしても大変な作業だニャ」


 今の例えは、大分判りやすかったようだ。面々が皆、納得した表情をしていた。


「だからボクは元々、いろいろな事を知って考えて伝えることが仕事ニャ。戦争で使われていたから、敵に対しては絶対に情報を漏らさないようになっているニャ。万が一、無理矢理情報が盗まれそうにニャる場合は、自分で壊れるニャ」


 その説明に、完全とまではいかずともある程度納得はできたレド達であった。


 それからの説明を要約すると、こうなる。


 “解放騎士”クアーツェは三千年前の戦争に使われたモノで、騎士魔法の使い手が乗ることによって、巨人や竜と戦えるように造られたモノであった。


 しかし、三千年前、地殻変動で機体が埋められてしまい、もう壊れる寸前であったため、乗り手であるレティシアを保護するために封印されていたらしい。


 今回、電撃の魔法を浴びて封印解除が可能になり、レティシアを脱出させることも可能性が生まれたため、外の情報を集めたところ、レド一行ならば大丈夫と判断し、レティシアを脱出させることにしたのだそうだ。

 ただし、彼女は記憶を失っている可能性が高く、また、“解放騎士”のような現代文明を超えた技術を簡単に漏洩させる訳にもいかない。


 そのため、魔導ブレインを切り離してゴーレム体を造り、レティシアの補助とお目付役をさせることにした結果が、クアンの誕生だったらしい。


「そんな訳で“解放騎士”は秘密を守るために消滅させたのニャ。」


「ダルスティンらが探していたのはこれだったんだな」

「それなら、剣一つで済んで良かったのかな?」


 オルフェルとシャティルの言葉にレドが答える。


「いや、彼らはもう一度来るつもりでいるし、古代剣王国ザ・ソードキングダムの武器を一つ持ち帰っただけでも、大騒動になるかも知れないな。また来た時にクァーツェが無いので奴らの鼻を明かせるが、俺たちの死体の痕跡が無いとなると・・・・・・」

「死んだ前提を覆して、私たちを探しに来るかもね」


 ミーナの懸念は正しい。レドは、ダルスティン、もしくはシュナイエン帝国に備える必要がいずれ生じるだろうと考えた。


 クアンはレドを見つめて言う。


「レディアネス・クレイド。ボクは君が望むなら古代剣王国ザ・ソードキングダムの真実の歴史や魔法、技術を伝えることが出来る。でも、それにはリスクがあるし、君は何事も自分の手で成し遂げたい性格だろう?知の探求者が先に答えを知っては自殺ものニャよね?」

「確かにそうだ。」

「だから、君が求めない限り、ボクの知る古代の知識は教えないニャ。教えるにしても助言だけニャ。ボクとしては、いつか君が自力でボクの時代の技術に追いつき追い越して、対等に技術的な会話が出来れば嬉しいニャ」

「とりあえずクアンの身体を後で調べるのは良いのか?」

「それと、クァーツェが残した“装甲板”についてくらいなら調べてもいいニャ。さっき助言だけとは言ったけど、どうも今の文明水準は基礎的な学問が失われているっぽいニャ。それについては段々教えていくニャ。」


 それは、意外な申し出だった。古代の知識は簡単に教えられないのに、基礎的な学問は教えて良いのか?


「それはクアンの趣旨に反しないのか?」

「知るべき事が失われている時代を本来の姿に戻す事はボクの任務でもあるから気にしないで欲しいニャ」


 クアンは次に、シャティルに向き直った。


「シャティル・ヴァンフォート。面倒を掛けるけどもレティシアを世話して欲しいニャ」

「俺が?なんで!?」

「レティシアがクァーツェから出てくる時に呼びかけて答えたのは君ニャ。君の魂は彼女の魂と相性が良いのニャ」

「魂の相性って何だよ、そりゃ?」

「まぁ、それはともかくとしても、現代の騎士魔法の使い手ニャ。レティシアも若いながらも解放騎士乗りの騎士ニャ。現代で生きていくには君のように剣を手に冒険者をやるしかないと思うのニャ」

「良かったですね!可愛いパートナーが見つかって」


なんとなく、ミスティの声にトゲがある。


「変なことしちゃ駄目よ~?」


 ミーナはいつものようにシャティルにからむテンションだった。


『あまりミスティには近づけないほうがいいかもニャ・・・・・・』

「・・・・・・衣服とかのことは女性陣に頼むニャ・・・・・・」


 クアンはそう言うとレティシアの方へ振り向いた。


「で、レティ、実はもう目が覚めているはずニャンだけど・・・・・・いつ起きるのかニャ?」


 レティシアの身体がぴくんと反応した。


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