012 “泣き鉈”誕生
この話は別途連載中の「異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ」の前日譚です。
以前投稿していたものを大幅加筆修正してあり、独立して読むことが出来ます。
「ルイン~」を読んでくれた方も、内容にかなりの改編・挿入話がありますので楽しんでいただけるかと思います。
SFもファンタジーも盛り沢山ですがハイファンタジーものです。
異世界冒険譚がお好きな方には是非!
オルフェルは近くの木々から食べられる木の実や野草を採取すると言って、森へ入っていった。
レドとシャティルは旧鉱山内に武器を回収しに戻り、ミスティはその間に木を集めてたき火の用意をすることにした。
便利たいまつで着火する際の便利さにものすごい驚きと感動の声を上げたミスティに、すごいよね、ね?と我が事のように話掛けるミーナ。
殺伐さから解放された、久々に心休まる雰囲気に、ミスティはこれまでのことはきっと、この仲間に出会うための試練なのではないかと思うようになってきた。
『アイーシャよ、感謝します』
腰を落ち着けてゆっくりと薪を火にくべていたミスティは、傍らの長杖を手に取り身体の前で水平に捧げ持って、神に祈りを捧げた。
「立派な杖ね。アイーシャの僧侶はみんなその杖を持つの?」
ミーナが問いかける。
「特に決まってはいませんが、これは冒険者として資金を稼いだ時に、初めて買った杖なんです。見習用の杖を卒業して、私が自分で得たお金で納得のいく品定めをした杖なので、思い入れも深いんですよ」
ミーナはふと、ぶるっと背中に寒気を感じた。
あれ、なんだろう、このやっちゃった感は・・・・・・後にミーナは、この時の予感を一人で納得するのである。
程なくして、オルフェルが帰ってきた。拡張した携帯用の野外袋に、何かの草がはみ出るだけ入っている。
袋がそれなりに広がっているので戦果はあったようだ。
そして、右手には羽根がまばらに付いたミーナの頭と同じくらいの、おそらく鳥肉が捕まれていた。
「運良くカモがいたので仕留めることが出来たよ。それと、野性のセロリ、フェンネル、粘り芋、ラズベリーだ」
オルフェルは野外袋を風呂敷のように広げて中身を見せた。
「カモは、下処理をしてきたので、あとは羽根を全部毟ったら、セロリとフェンネルを詰めて焼こう。芋はたき火の周りに並べて・・・そう、石の上に置いておくと良い具合に火が通る。ラズベリーはデザートだな」
カモに詰め物をし、頭に刺さっていた矢の矢羽根を外し、矢を抜いてから矢尻を外す。そして焼き串代わりに肉の中心に刺し直す。鞄から香辛料や塩も出して振りかけ始める。
手慣れた作業や指示の具合にミスティは感心した。
「お鍋でお湯も沸かしましょうか?茶葉なら持っていますが」
「おお!それはありがたいね。是非お願いするよ」
「はい!」
自分に出来ることを行って、新しい仲間に認められたい気持ちがあるのだろう。
ミスティは鍋を鞄から取り出し、祈りにより、神魔法下位「恵みの水」を行使した。神言発言の後、空間から水がこぼれだして鍋に溜まる。
そうこうしていると、シャティルとレドが旧鉱山から帰ってきた。彼らの手には折れ曲がった槍と同じく折れ曲がった太刀が握られていた。
「やっぱりだめだったか」
「もうガタが来て使えないな。何かに作り直してほしいんだけど」
シャティルの武器は、槍は中程で折れ、穂先はヒビ割れていた。太刀は折れ曲がり、良く見るとあちこちに細かなヒビが入っている。
「あの落盤の前に、そもそも騎士魔法に耐えられてなかったんじゃないかな」
レドはそう言うと、物質変化系Lv3「元素加工」を唱えて破損した両方の武器から金属部分を手元に集め、一塊のインゴットにした。
「整形の魔法は、鍛冶技術で言えば鋳造の形にしか出来ないんだ。職人が造る鍛造金属とは粘りや強度に劣る。このインゴットは後で各金属に分解して、もう一度鍛え直すしかない。ラナエストに戻ったら各金属に分けてから、オルフェルにあげるよ。それと」
レドはオルフェルを見つめて言った。
「落盤した岩塊の中に、鉄鉱石がある」
「本当か!?」
「事が終わったら、元素加工の魔法で抜き出して持って帰ろう」
驚きと喜びの表情でレドに詰め寄ったオルフェルは、レドがにこやかな顔で言うと、喜びの拳を握りしめた。
「ウホン!・・・・・・それで・・・・・・だ」
シャティルは改まった顔でわざとらしく咳をして、皆を見渡した。
「今度は薙刀を作って欲しいんだなぁ・・・・・・みんなの協力をお願いしたいんだけど」
申し訳なさそうに言うシャティルの目は、ミーナの腰の鉈と、ミスティの杖を順繰りに見定めている。
意味が分からずに目をぱちくりさせるミスティ。
ミーナは先程の予感はこれかと、今、正に確認し、じとっとした目でシャティルを見下すかのように睨め付ける。
「宴会コース2回分と、ミスティの杖の弁償分かしらね」
愛用の杖に降りかかった災難をミスティが理解したのは、それから少し後のことだった。
ミスティはぷう、と膨れている。
『いい人達だと思ったのに、アイーシャ様のお引き合わせだと思ったのに!』
理屈では判っているのだが、どうしてもやるせない気持ちがあり、ミスティは膨れていた。
ご機嫌取りに愛想笑いをしつつシャティルが鶏肉を取り分けてもってくる。
「お肉が焼けましたよ、ミスティさん。如何ですか~?」
『ここらで許してあげないと可哀想かしら・・・・・・』
ミスティは先ほどのミーナと同じようなじっとりとした見下すような目で(後でミーナに聞いたところジト目、と言うんだそうだ)、許すための譲歩案を口にした。
「あとで私が納得する杖を買ってくださいよ?約束ですよ?」
「もちろんだ!俺は約束は守る!」
胸を張って答えるシャティルに何故かドキリとするミスティ。
「・・・・・・それなら、許してあげます」
「ありがとうな!ミスティ!」
にっこり笑いながら、鶏肉の入った皿を渡してくるシャティルが、ミスティには眩しく見え、何故か頬が熱っぽくなるのを感じる。
『そんな笑顔見せられたら・・・・・・困るっ』
そのまま俯いて鶏肉を食べ始めるミスティの頬は若干赤くなっていたが、たき火の照り返しのなかで気付くものは誰もいなかった。
一方、ミーナは今後のことも考えて一つの決断をした。
「私も鉈の新調とクロスボウの代わりの件があるから、ラナエストまで一緒に行くことにするね。もちろん宴会コースの予約もあるし!」
「ま、まぁ、宴会はともかく、一緒に行こうぜ?せっかく知り合えたんだしさ。武闘祭で俺が優勝するところを見てくれよ」
「確かにシャティルは強いけどさ・・・・・・油断は禁物だよぉ。それに・・・・・・武器何とかしないとね」
二ヒヒ、と笑いながら指摘するミーナに、そうだよなぁ、と頭を掻くシャティル。
そんな3人を尻目に、レドとオルフェルは“無理槍”の時と同様に薙刀を作成していた。
今回は、ミーナの鉈をオルフェルが研ぎ直し、四角い頭部を鋭く刺突にも使えるよう、研ぎ直すところから始める。
全部削りきるのは大変なので、レドの物質変化系Lv1「整形」で大雑把に形を整えてからの作業だ。
レドはそのまま今度はミスティの杖を、自分の杖と同じように「整形」で削り、無理槍と無銘の太刀から抽出していたインゴットの一部にLv3「元素加工」を使って、流動化させた金属を柄の表面に這わせて被覆し、太刀打ちの部分を作り上げた。
オルフェルが研ぎ終えた鉈の茎を組み込んで目釘を打ち、薙刀が完成する。
「これが本当の薙鉈だなぁ」
「最初に造った人はこんな風に鉈を使ったのかもねぇ」
オルフェルとレドは自分達の腕前に自画自賛しながらシャティルに渡して、少し離れたところで軽く振って貰う。
「どうだ?」
「うん。いいねぇ。こいつの銘はどうしよう?」
「“僧侶泣かせの薙刀”!」
すかさずミーナが言い、それに突っ込むシャティル。
「またそのパターンか!」
「“剣匠泣かせの薙刀”」
「槍の時と変わってねぇ!」
「ここはミスティに決めて貰おうか」
オルフェルが笑いながら言い、皆がミスティを見つめる。
「えっ・・・・・・私がで・・・・・・いいんですか?」
戸惑うミスティに頷く一同。
「それでは・・・・・・えっと・・・・・・」
色々な名前が脳裏を駆け巡ったがミスティは決めた。
「“泣き鉈”で!」
「結局そっち方面かぁ!」
日も落ちて夜藍色に変わりつつある明るい夜空に、シャティルの声が響くのであった。
ダルスティン達は、休憩を終えて石柱の調査を開始していた。
ギルビーがザカエラに言われるままに、ノミを使って表面を削っていく。
ダインとダルスティンは柱の根本の辺りをツルハシで掘っている。
ザカエラは封印系Lv1「魔力感知」を用い、魔力の詳細を確認していた。
『この柱中央に魔力が集まっている。周囲の自然の魔力と、ムカデの死骸から放出される魔力が2種類。やはりこのムカデ達はこれの魔力を喰って大型化したようだな』
ガインッ!
ダルスティンのツルハシに何かがぶつかった音がした。
しばらく掘り進むとそこには、明らかに岩石ではない、何物かが見えてくる。
「なんだこりゃぁ・・・」
ダインが呟き、掘り進んでいくと、そこには、白銀色の、大人の腕ほどもありそうな円柱状の物体が見えてきた。
地面から斜めに飛び出たかのようなそれは、ダルスティンには剣の柄に見えた。ただし、サイズは巨人サイズだ。
「ダイン、騎士魔法を使って、これを引っこ抜けるか?」
「やってみます」
ダインは、素手になると、円柱状の物体を掴み、精神を集中した。
シャティルと違い、身体から光が漏れ出てくるのが遅く、また、色は青色だ。
全身に青い光が行き渡った状態で、ダインは円柱を引き抜きに掛かる。ちなみに、ダインはこの状態で身長2マトルの巨人を放り投げた事がある、それくらいの出力を持っている。
ダインが歯を食いしばり、顔を真っ赤にして頑張っていると、円柱がズズズ、と浮き上がってきた。やはり、大きな剣のようだった。
鍔が引っかかっていたのだろう、その部分が地面から離れると、ダインが勢い余って後ろにすっ転ぶと同時に、その物体は全容を表した。
それは、まぎれもなく“剣”だった。
柄の部分は、2アルムス(60cm)、刀身は5アルムス(150cm)。
銀色の剣身は鍔元の幅が1/3アルムス(10cm)、剣突に向かって細く収束していく形状は、大きさは両手大剣だが、どちらかというと投てき用短剣をそのまま大きくした感じだ。
ダインは銀色の剣に惚れ惚れし、軽く振ってみる。
「思ったよりも軽い。俺の剣よりも軽いぞ、これは!いいな、これ・・・・・・隊長、この剣、俺に下さいよ、いいでしょう?」
「駄目だ。それは持ち帰って調べなければならん」
熱に浮かされたようにダインは懇願するが、ダルスティンはにべもなく却下する。
「そんなぁ・・・・・・調べるなら、そっちの柱本体もあるじゃないですか。隊長が黙っててくれたら、何も問題ないんですよ。お願いです、隊長。この剣を、俺に!」
「何度も言わせるな、駄目なものは駄目だ。持ち帰って調べた後、問題がなければそれは陛下に献上するんだ」
「そうですか・・・・・・判りました」
ダインは目に見えてがっくりすると、銀の剣を地面に置いて自分も腰を落とした。
ザカエラはギルビーにノミを使わせて石柱を調べていたが、表面が見たことのない金属質であることが判っただけで、それ以上はどうにもならないことをダルスティンに報告した。
「一度戻って、大がかりに掘り出すしかないですね」
「魔法でなんとかならんのか?」
「上下が埋まってなければ「移送」が使えたのですが、これでは無理ですね。目的標を残して行きましょう」
ザカエラはそう言って、鞄から紫色の水晶を取り出し、石柱の根本に設置した。これがあれば、地上からでも設置位置が判る。
「その剣が入手出来ただけでも、我々は凱旋出来るでしょう」
「うむ、そうだな。ギルビー、お前も一緒に来ないか?お前は死なすには惜しい奴だよ」
ダルスティンの問いにギルビーは「む・・・」と唸り、瞬間に思案するが。
『やはり、こいつらと一緒に行くしかないかのう・・・』
ギルビーは覚悟を決め、頷いた。
「そうと決まれば撤収準備だ。ザカエラ、魔方陣を頼む。ダイン、その剣を持って来い。陛下に献上するまではお前が運べ。陛下への献上役もお前がすればいい」
「本当ですか?!」
「ああ、名誉なことだぞ。その剣ではなくとも、何か恩賞はもらえるだろう」
「ありがとうございます!」
ザカエラは石柱のそばで、鞄から羊皮紙を取り出していた。
骨歩兵召喚の時と似たような羊皮紙だが、今回は、その周囲に魔晶石(魔力の籠もった水晶の一種)を配置し、銀粉の入った小袋を取り出して、各魔晶石をつなぐように地面に振ってゆく。
帰還用に用意していた、魔方陣系Lv4「移送」の魔法のための下準備だ。
ギルビーはふと、放置したままの自分の鉱石を思い出した。
「そうじゃ、お前らが来るまでに掘っておった鉱石があったわい。ちょっと持ってくる」
そう言って、隣の部屋へ戻り、壁際に置いてあった鉄鉱石の入ったずた袋と、銀鉱石の入ったずた袋を手に取る。
そうして、ダルスティンらの元へ戻ろうと二つの部屋を結ぶ通路に向かったその時である。
その時、ギルビーは密かに地面が震動していることに気がついた。
振動は、次第にだんだんと大きく感じられる。
「む、なんじゃ?」
ギルビーの上げた声に訝しむダルスティンとザカエラ。
しかし、その二人もすぐに異変に気がついた。
振動は段々と大きくなり、今では地震のようにギルビー達を揺らしている。
そして。
グワンッ!と音を立てて、地面が吹き飛んだ。
ギルビーが向かおうとした二つの部屋を結ぶ通路前、そこは先にムカデの大群と戦った時に石の壁があった辺りだ。
もっと厳密に言うと、ザカエラが「虫集め」を行ったあたりである。
地面を突き破って出てきたのは、身幅が5アルムスはあるような、超巨大ムカデだった。
ずるずると身体を地面から引きずり出したその姿は、全長10マトルはあろうか。
超巨大ムカデは近くにいたギルビーに気がつくと、部屋の壁側面を這うようにぐるっと反時計回りに走りだし、壁面を多数の足で削りつつ細々したものを吹き飛ばしながら、ギルビーを逃がさないように取り囲んでしまった。
巨大な頭が鎌首をもたげてギルビーを睨め付ける。
『向こうの部屋の壁面の削り跡はこいつの足跡か!それよりも・・・』
ギルビーは、先ほどまで鉱石を置いていた辺りの、気爆石に土砂を被せていた辺りを横目で見、気爆石が露出していることに気がついた。
「ギルビー!火球爆発の魔印誓言を投げる!ひるんだ隙にこっちに来い!」
ダルスティンが叫んだが、ギルビーは血相を変えて叫び返した。
「駄目だ!投げるんじゃない!」
「どうしてだ!」
「封じていた気爆石を、こやつが散らかしおった!強い火の気があったらドカンじゃ!」
絶句するダルスティン。
「たき火も残っておる。いずれ気爆石の気化で遅くても爆発する!」
ダルスティンは逡巡した。一緒に連れて行くと決めた以上、ギルビーは捕虜ではなくて仲間だ。見捨てることはしたくなかった。
しかし、自分が向こうの部屋に入る訳には行かない。せっかく得られた探索の証拠を持ち替える必要があるし、敵のあの巨体では通路に栓をされて終わってしまう。
超巨大ムカデと戦うことは出来るが、ギルビーが向こうの部屋に閉じ込められる状況は変わらないであろう。
「飛びますよ」
ザカエラが冷酷に言い放ち、魔方陣系Lv4「移送」を唱え始めた。
ダルスティンはあきらめた目で、ドワーフをじっと見つめた。
ギルビーにはそれが、足を折った馬に介錯をする馬主の目に重なって見え、自分は見捨てられるのだなと理解せざるを得なかった。
「残念だよ、君とは良い関係が築けると思ったんだが!」
「気にするな!お前さんとは最初から反りが会わなかったんじゃ!」
「次にここに来た時には、骨を拾わせて貰う!」
「そこの魔術師の召喚道具にだけはせんでおくれよなぁ! ファッファッファ!」
ギルビーは最早ダルスティンらに目もくれず、ツルハシを構えて超巨大ムカデを牽制することに集中し始めた。
ザカエラの呪文が呪文発言を迎え、彼らを黄色い光が包んで消えていく最中、ダルスティンは右手を軽く挙げてギルビーに挨拶をしたようだったが、ギルビーには最早どうでもいいことだった。
気爆石の爆発の際に、敵の身体を盾にすれば、生き延びられるかもしれない。
ギルビーはその瞬間に賭けるしかないと考えていた。
超巨大ムカデが一度大顎で攻撃してきたが、ツルハシをぶつけたら衝撃に驚いたのか警戒しているようだ。おかげでにらみ合いが続いている。
『・・・・・・しかしなんて大きさじゃ。さながら、ムカデ王じゃな。ムカデの親玉が怖くて鉱山掘りがやれるか!簡単にやられるわけにはいかん!』
ギルビーが自分に気合いをかけ直したその時である。
コォォオン!と澄んだ音がして、ムカデ王の頭から矢が跳ね返された。
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