010 放電球とその効果
この話は別途連載中の「異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ」の前日譚です。
以前投稿していたものを大幅加筆修正してあり、独立して読むことが出来ます。
「ルイン~」を読んでくれた方も、内容にかなりの改編・挿入話がありますので楽しんでいただけるかと思います。
SFもファンタジーも盛り沢山ですがハイファンタジーものです。
異世界冒険譚がお好きな方には是非!
ウッツはザカエラが来たので最早自分のお役目は御免だとばかり、適当に周囲を彷徨いていた。
特に罠が仕掛けられているわけでもなし、自分が必要とされる状況はなにもなさそうだ。
また、金目の物も特になさそうだし、国に戻ってからの報酬に期待したいところではあるが、元々任務でもあるため、ダルスティンが上に上手く報告してくれないと恩賞としての上乗せがあるかは判らない。
ザカエラの喜びようから、今回の情報を上手く売り買いして稼ぐ事も出来るかもしれないが、こちらは下手をすると命を賭けることになるので実現性は薄いだろう。
斥候職としては今回、あまり旨みがない仕事だった・・・
『帰ったら、行きつけの娼館に久々に豪遊しに行くか!』
ウッツがこのような妄想するのは、無為を凌ぐ男としては仕方がないのかも知れない。
ふと思いつき、足下の丸い石ころにかがみ込んで手を伸ばした。
非常に真球に近い球形で、表面が滑らかだ。
ドワーフもただの石ころじゃないようなことを言っているし、もしかしたら、好事家や魔法使いが興味を示して高く買い取ってくれるかも知れない。そう思いつくと、ウッツは早速、革袋を取り出し、そこに10個ほどの石ころを入れ始めた。
なんとなく、石ころを革袋に入れている間に、自分が壁のくぼみがあるそばで作業をしていることに気づく。
『そういえばこの奥は行き止まりと決めつけて良く見ていなかったな』
腰の高さや頭くらいの高さにある同様のくぼみは、1アルムスほどで、腕を入れればすぐに行き止まりになっており、特に気にしていなかったのだ。
そこのくぼみは4アルムスほど奥まで続いており、細身のウッツであれば、腹ばいになって奥まで見られそうだ。
暇なこともあり、石ころを革袋に入れ終わると、ウッツはランタンを先にくぼみに入れて、腹ばいになり上半身を入れてみた。一番奥はやはり行き止まりであったが、くぼみ内の地面は砂状に見える。
『他より柔らかい地質だからこんなくぼみが出来たんだろうか?』
地質学に特に詳しくないウッツはそう思いつつ、調査を打ち切って石ころ集めに戻ろうとしたところで、頭を上にぶつけてしまったようだ。
何かの衝撃を感じ、視界が暗転した。
身体が熱いような冷たいような感覚がする。
水筒でも溢したんだろうか、何か液体が頬に触れる感じがするが、そもそもこんな狭いところで水筒にさわれる訳もない。
ウッツはなんだか良く判らなくなり、眠くなってきた・・・・・・
ザカエラとギルビーが石ころを見て考え込んでいると、ダインがその部屋に飛び込んできた。
「血のにおいがするぞ!」
二人が顔を上げると、確かに血の臭いがする。これだけ人に判るのであれば大量な出血がなければありえない。ダインが壁際に近づいた。そこには、身体がビクビクと痙攣しているウッツが。
「おい、ウッツ!」
ダインがウッツの足を持って身体を引きずりだすと、血臭がさらに濃くなり、理由が3人にも判った。
-ウッツの首がない-
驚愕する一行は更に周囲に無数の気配が発生したのを感じる。
「この部屋から出るんじゃ!」
ギルビーの叫びに、慌ててザカエラとダインも出口に殺到する。ギルビーは部屋から出ると、鞄からドワーフの火酒を出して出口に振りまいた。
「ギルビー!今のは?」
「火酒じゃ。あの手の虫共はアルコールを嫌うと言われておるが、効くかは判らん!」
「やっぱり虫なのか!?」
「大ムカデの一種、石喰いじゃ。それもとてつもなく大きなサイズの。あの石ころは、奴らがこの部屋の堆積岩を喰った後の精製物、つまりフンじゃ!」
『石柱から漏れ出る魔力を岩と一緒に喰らって、巨大化したのか?!』
ザカエラの推察に対する答えは何処からも得られないが、今や、部屋中のくぼみから巨大ムカデが次々這い出していた。
ザカエラ達は知らないが、シャティル達が戦ったムカデより更に身体が大きい、実はこちらが成虫でシャティル達が退治したムカデはまだ幼虫であった。
大の大人の首を一口で切断するくらいの大顎と、細身の大人ほどの幅で全長は10アルムス(3m)はあろうかという、焦げ茶色に艶やかな表皮の巨大ムカデ。
巨大ムカデは、ウッツの死体に殺到して瞬く間に喰らい尽くすと、ギルビー達のほうへじりじりと近づき始めた。
柱の部屋の入り口にダインが陣取って、両手剣を手に警戒する。騒ぎを聞きつけたダルスティンは駆け寄って事情を聞くとダインが叫ぶ。
「ウッツがやられた!ここは巨大ムカデの巣だったんだ!」
「ザカエラ!何とかならんのか!?」
ザカエラは必死で頭を巡らせる。
やっと見つけた目的物だ、ここであれを調査せずに帰ることなど許されない。逃走は最後の手段だ。では、戦う術は・・?
シュナイエン帝国魔法騎士団で魔法を学んだザカエラは、各地の魔法学校の基盤となったラナエスト魔法学院で言うところのLv8までの魔法が使える。
自分の手持ちの触媒を元に作戦を立てたザカエラはダルスティンに作戦を伝えた。
「一度に一匹しか通れない石の壁を造り、そこに虫寄せの魔法を掛けます。電撃球の呪文を壁の向こうに唱えて一網打尽にしますので、その間、壁の出口で守ってください。電撃球の後は、生き残っている敵を地道に潰すしかありません」
「判った。それで行こう」
ダルスティンは作戦を了承し、ダインの右隣に陣取る。
左手に盾を構え、右手に広刃の剣を構える。ダルスティンの盾は帝国騎士の持つ方形盾の紋章を潰したもので、今回の任務用に用意されたものである。
右手の剣は普段愛用している剣だがそろそろもっと優れたものに新調したいと思っているものだ。この任務が終わったら、恩賞でお願いしてみるのも良いかもしれない。
ザカエラは土系Lv2「石の壁」の呪文を唱えた。
触媒は足下の岩や石を利用できるので汎用性の高い呪文だ。
呪文を行使する際にイメージで壁の形状を指定する。地面から4アルムスの高さに2アルムス程度の直径の円形窓のような開口部を設ける。
これを採掘で堀り広げた通路と自分達のいる小部屋の間に設置し、続けて懐から小枝を2本取り出す。これを触媒に、壁の手前側に情操系Lv1「虫集め」の呪文を唱えた。
どんな虫でも集めるこの呪文は、何が目的で開発された呪文なのか、帝国魔法騎士団で習った際に理解できなかった魔法であるが、ザカエラは今初めて、この呪文を開発した先達に心中で感謝した。
早速、虫集めの魔法効果によって、巨大ムカデが殺到してきたようだ。石の壁から身を乗り入れてくる巨大ムカデを、ダルスティンが盾で受け止め、剣で突き刺し、ダインは石の壁とダルスティンの間に位置をずらすように立ち、窓から出てくる巨大ムカデを両手剣を振り下ろして切断する。さながら断頭台のような状態だ。
ギルビーは倒された巨大ムカデにツルハシを引っかけ、広間の奥へ寄せて戦闘場所を確保することにした。
「そのまま時間を稼いでください!」
ザカエラは続いて、背負い袋から電気魚の干物を取り出した。
熱帯地方の水辺に生息すると言われているエレブーという種の魚の干物で、入手の困難さからあまり多用は出来ない触媒だ。あまりに貴重な為、普段即時に使えるように準備はしていないので背負い袋にしまってあったものである。
このまま使用すれば、雷系Lv8「放電」の触媒となるが、今回は違う。
懐から、銅貨5枚と粘土を取り出し、物質変化系Lv1「整形」で銅貨を一纏めにして玉にする。これで、雷系Lv9「放電球」を唱えるための触媒である、電気魚の干物と銅玉が揃った。後は、呪文書を取り出し、「放電球」の呪文が書かれたページを開いて栞を乗せて準備完了だ。
ザカエラはLv9の魔法を完全に習得していない。
自分ではそろそろ到達しそうな感覚ではいるが、Lv9の魔法は物騒なものが多く、どこでも気軽に練習出来るものでもない。
しかし、今、効果がありそうで手持ちで使える手札は「放電球」だけであった。
呪文書を開いて置いたのは、一度だけなら読み上げて唱えることが可能だからだ。その代わり、ページから呪文が消えてしまうので、他の本や記憶から、魔導インクを用いて再び書き写す必要があるが、背に腹は代えられない。
準備が整うと、ザカエラはいつも以上に精神集中をし、まずは起動単語を口にする。
呪文の詠唱と共に、電気魚の干物と銅玉から得られる魔力元素を触媒として起動魔力が右手に宿る。その魔力で空に魔力印を描き、月にあると言われる魔力界と自身をつなぐ門を構築し、身体に純粋な魔力元素を引き込む。
続いて呪文書を口読しながら呪文詠唱を進めると、魔力元素が体内で形態を整え、それと同時に自分の精神魔力が傷付けられていくのが感じられる。
詠唱と同時に、呪文書の表面ではゆらゆらと文字が消えていくが、それと反比例するかのように体内の魔力は高まっていく。
呪文詠唱がもう終わる頃、ザカエラはこの呪文が成功することを確信した。
「放電球よ出でよ!」
呪文発言と共に魔力元素が体内と杖を駆け抜け、ザカエラの精神魔力をごっそりと奪い、効果を発現する。
石柱と巨大ムカデが殺到する通路の中間に現れた放電球は、石の壁の窓からはダルスティン達に青白い発光体として見えたが、次の瞬間、無数の青白い電光による触手を周囲に張り巡らし、触れるもの全てに電撃を浴びせ始めた。
「壁から離れて!」
ザカエラが慌てて叫び、ダインとダルスティンが飛び退くと、電撃は壁に迫っていた巨大ムカデまで届き始め、およそ1分間に及ぶ電撃の結果、巨大ムカデは1匹たりとも動くものは居なくなった。
焦げ付く異臭の充満に辟易するが、ひとまず危機を脱出したことに安堵するダルスティン一行。
「まずは休憩しよう。その後に調査再開だ」
ダルスティン達はたき火の周りに集まり、どっかと腰を降ろす。
朝には6人いた筈が、4人しか居ないことにギルビーは勝利の興奮が急速に萎んでいくのを感じていた。
「ギルビー、さっきの酒はまだ残っているか?」
ダインの問いに、覚えられていた事を残念に思いつつ、執着を諦めて鞄から火酒の入った水筒を取り出すギルビー。耳元で振ってみると、まだちゃぷちゃぷ音がする。
「まだいくらか残っているようじゃ。好きに飲んでええぞ」
ダインに水筒を渡すと、酒精で興奮した神経を落ち着かせたいのだろう、ダインは礼を言い、むさぼるように飲み始めた。
「ほどほどにしておけよ」
ダインをたしなめ、水筒をひったくるダルスティン。自分も飲もうとして、既に空っぽであることに気づくと、ダルスティンは悪態を吐いて水筒を石の壁の方に放り投げてしまった。
“高圧電気エネルギーを感知、エネルギー吸収バッテリー起動中。バッテリー残量2%から3%へ”
“永眠モードから休眠モードへの移行まで後2%必要です”
“マナバッテリー起動準備・・・システムに異常なし”
“現在セーフティコントロール中・・・・・・・バッテリー残量4%”
“高圧電気エネルギー継続受電中。・・・・・・・・・バッテリー残量5%”
“マナバッテリー起動開始・・・・・・成功。周囲の魔力吸収を開始します”
“残留ライフマナ確認・・・吸収開始。マテリアルマナ確認・・・含有量微少、吸収開始します。ベースマナ確認・・・本機のものと確認、回収開始します”
“永眠モードから休眠モードへ移行。セーフティコントロールからノーマルコントロールへ切り替え。各部チェック開始”
“・・・バッテリー残量10%。高圧電気エネルギー途絶。マナバッテリー循環力場起動中。マナバッテリー残量20%・・・危険領域解除、安定貯留継続中。 コフィン・マテリアル融解開始”
“各部チェック完了。機体稼働不可。玄室内のみ正常。ラナート特級要塞へ救難信号発信開始”
“ラナート特級要塞原子時計受信。現在時刻・・・惑星セフィニア解放暦3057年6月17日16時17分15秒”
“バッテリー残量9%。マナバッテリー残量35%。マナエンジン起動準備します。コフィン・マテリアル融解完了。続けて蘇生処置及び休眠措置開始”
“ソウルステータス確認中・・・欠損なし。アンチリバースシェル展開。メルティング開始”
“アラート!振動感知。マナエンジン起動準備中止。休眠措置解除。搭乗員の脱出を優先。生命チェック開始”
それは、深い眠りから目覚めた。
寝起きで意識がまだはっきりしないが、身体が水浸しであることを感じる。この感覚は・・・・・・そう、不快、不快感だ。それと、呼吸も苦しい。
自分は水中で生きるものではなかったはず・・・・・・ようやく身体を身じろぎして少し動かし始め、呼吸が出来るよう、顔を水面から出す。
腹が空いている。自分を呼ぶ声も聞こえる。
それは、共にいたはずの仲間を求めて、ゆっくりと動き出した。
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