永遠の刹那
ポーリンは中和剤の効果で、今は自室で眠りについている。
その穏やかな顔は以前の彼に戻っている事を示していた。
一行は、闇の者が力を強めてしまう夜を避け、早朝にもう一度伯爵家に向かう。
(それまでに仮眠を取り、心の整理をしておくように……か)
ユリウスにそう言い渡されたリトは、部屋で一人、術の出なかった手のひらを見つめていた。
窓から見える中庭の木々が、優しい風にさやさやと枝を鳴らしている。
初めてこの部屋から窓の外を眺めた時も、同じ風が吹いていた。
今もあの時と同じように、ジゼルがアトラの腕の中で心を揺らしているのだろう。
(あの時は再会できた喜びに、今はきっと不安に……)
窓辺に立ってぼんやりと庭を眺めているとふいに部屋のドアが開き、そこにはユリウスが立っていた。
「な、なに? どうしたの。そんな怖い顔しなくてもちゃんと寝るよ。ちょっと風に当たってただけだから」
けれどユリウスは何も言わず、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
そんな彼と対峙するのがなんだか息苦しくて、リトは慌ててまた窓の外に目をやった。
「……怒ってるんでしょ、術が出なかった事。でも今度こそ大丈夫、ちゃんと気持ちの整理はついたし」
振り向かなくても、ニコリともしないユリウスの顔は窓に映っている。
「ユーリ……お願いだから笑ってよ。……最後になるかもしれないんだから」
ポツリと本音がこぼれ落ちた。
心に重くのしかかる、勝てないかもしれないという不安。
(きっとあの堕聖獣は父さんの身体を盾にして向かってくる。それなのにあたしは炎が出せない……)
負ければもうユーリとも会えなくなってしまう。
すると突然、背後から伸びた腕がリトを抱きすくめた。
「ユーリ……?」
「そのままでいい。……少しだけ、じっとしていてくれ」
そう囁いて、ユリウスはリトの襟首から後ろ髪をかきあげた。
優しく、幾度も髪を梳くその指先に全身が波打つ。
(ユーリは……怒ってなんかいない。本当はわかってた……)
次の瞬間、あらわになったうなじにユリウスの唇が触れた。
ビクッと身体が震え、触れては消えるその溶けるような感触に現実が霞んでしまう。
リトのガウンが少しずつ緩められ、ユリウスの唇はうなじから露わになった肩を伝い、背中へと滑り落ちていく。
「ユ……リ……」
堪えきれずに、リトは目の前のカーテンにすがりついた。
「きれいだな……。大丈夫か? それともこんな時にこんな事をする私は嫌いか」
「……ううん。やっぱりあたし……何があってもユーリが大好きみたい……」
「そうか……。私もだ」
以前と良く似た言葉のやりとり。
でもあの時は「そうか」の続きはなかった。
「……おいで、リト。怖くなったら……噛みついて教えてくれ」
抱き上げられ、目の前の優しい瞳にうなずくと、この前とは少し違うキスで満たされる。
最後でもいいのかもしれない。
まるで最初からひとつだったように、心と身体がこんなにも惹かれあう事を知ったから。
この身が消え去っても、想いはきっと永遠だと思うから……。
「噛みついたりしないよ……大好き……」
やがてユリウスに全てを預けると、リトは現実から遠ざかり夢の中に落ちた。




