表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リトラ×アトラ  作者: 花凛兎
月と紅の誓約
25/41

烙印

 


 ユリウスは執務室のチェアにもたれ目を閉じた。



 昨日リトと調べた、特別隊に出向したメンバーはどれもいまひとつ明確でなかった。


 誰がどの時期の、どの事件に係わっていたのかがはっきりしない。子爵の地位を持つ者も何人かはいたが、全部を洗い出すのはまだまだ時間が掛かりそうだ。


 今更ながら、ガセンズがここへ来たとき、もっと詳しい話を聞きだすべきだったと悔やまれる。



 自分の行動が全て空回りしているような、落ち着かない思いがユリウスを苛立たせていた。


 真実が見えない。

 いや、もしかしたら目を逸らしているのかもしれない。



「……兄様、入るよ」



 その声に目を開けると、ポーリンが本らしきものを抱え、固い表情で部屋に入ってきた。


 いつものおっとりとした柔らかい雰囲気はなく、どこか荒んだ印象で顔色も悪い。



「どうしたんだ、やけに疲れた顔をしているぞ」



「そう? 夜通し、これを調べてたからかな」



 ポーリンが手にしていた本を、机の上に乱暴に置く。


 それはいずれも、例のジオラルの花についての文献だった。



「いろいろわかったよ。中でもすごいのがこのノート。オニキス医師に借りたんだ」



 ポーリンはその中から一冊の古い色褪せたノートを抜き出した。



「医師のおじい様の研究資料なんだって。花の咲かせ方が詳しく載ってた。ジオラルの花は闇を好む……太陽に当てちゃダメなんだ」



 ユリウスが怪訝な顔でポーリンを見上げる。



「百年以上前、天候を操って大飢饉を引き起こした堕聖獣が居たでしょ。その時、日の光が極端に弱まって偶然ジオラルに花が咲いたんだって。それで一斉に植物学者の間で研究が始まって……医師のおじい様はその第一人者だったんだ。でもその後すぐに悪用化が進んで、栽培法も花そのものも封印された。普通の本には詳しい記述は載ってない」



「太陽を遮断……? 植物が日光を嫌うのか」



 ユリウスの頭の中に、突然ある場所で見た光景が浮かぶ。


 するとポーリンがノートを開き、歌うように読み上げ始めた。



「ジオラルの花は闇を好む……光は月のみ。月の力を己に宿し、艶やかなるその姿と芳香を醸し出す。暗闇で育て、月の光だけを浴びさせて初めて花をつけるんだ。花が開くのも香りが立つのも、月夜だけなんだって」



 思わずユリウスが椅子から立ち上がる。



 あの空き家の裏にあった不思議な小屋。


 下は土で窓はなかった。


 そして天井には明り取りの窓がいくつもあり、あの時は板で遮断してあった!

 月の出る夜だけ、あの板を外したのではないだろうか。



「もしかしたら、花そのものがあそこに咲いていたのか? 以前あそこで栽培されていた形跡が残っていた……それをガセンズが見つけて……」


 ぶつぶつと呟きながら、ユリウスは頭の中を整理していた。



 ガセンズはああ見えて博識だ。


 花の事も、それが法で禁止されている事も知っていたに違いない。


 それに、かつて尊敬していた誰かが関わっていたとすれば、ガセンズの事だ、告発よりも説得を選ぶに決まっている。


 だがその誰かは、そんな彼を食い荒らし、口を封じた。


 そして今もどこかで花を栽培している!




「兄様、月の力って何か知ってる?」



 思考を中断され、ユリウスは我に返ったようにポーリンを見つめた。



「月の光を見てるとね、その人の心の中の想いが出てきちゃうんだって。良い事でも悪い事でも、その人がしまいこんだ本当の願いや自分自身が見えてくる……。そんな月の力をジオラルの花は吸収して、月夜の晩に同じ力を持つ香りを放つってこのノートに書いてあった」



 自分を見つめるポーリンの目は、いつものユリウスを慕う弟の目ではない。


 何か、強く激しい感情を持ったその目に戸惑うばかり。



「この前、リトに何をしたのか知らないけど、それって兄様の本当の気持ちだったんじゃないの?」



 ポーリンの言葉に、ユリウスは初めてその目に宿る光の正体に気がついた。



「でもダメだからね! 兄様にリトを好きになる資格はないよ、幸せにできないんだから。兄様に何かあったらリトはきっと二度と笑えなくなる。兄様、もう誰とでもいいから早く結婚しちゃってよ! そうすれば……」



 これは嫉妬。


 まさかポーリンに自分がこんな目で見つめられる日が来るとは、夢にも思わなかった。


 だがそのショックよりも、一方的に不相応の烙印を押された事に、ユリウスの身体はカッと熱くなった。



「そうすれば……そうだな。あいつももっと他の幸せに目を向けるだろう。だがお前に何がわかる! 私は誰の指図も受けん!」



 噴きあがった怒りにも似た感情に、誰よりもユリウス自身が愕然とする。


 それに怯む事なくポーリンは机にノートを叩きつけ、大股にドアへと向かった。



「待てポーリン! この事、まさかリトに……?」



 自分の心など、とうに知っていた。


 だからこそけじめをつける決心をしたのに、今リトに気付かれては意味がない。



「認めるんだね。言うわけないでしょ。言ったらリト、止まんないよ……そんなの、許さない」



 ポーリンは背を向けたまま、ドアの外に消えた。


 残されたユリウスは、言いようのない喪失感に天井を仰いだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ