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「ま、正直になれってこったな」
篠田は馴れない口調になりながら言った。
「隠してたって、良い事ないからな」
いや、花園さんにああ言う事言われるのは至極尤もだと思ったけど。
「篠田には言われたくないなあ」
「嘘だろ? 俺なんて正直が服来て歩いてるみたいなもんだぜ?」
軽口を叩いていたら気分が少し軽くなった。見れば花園さんも厳しい表情を解いて、でも微笑むでも無く、中途半端な表情をしていた。
「花園さんと言う人がいるのに、他の女の子と遊ぼうとするのを隠してたなんて、正直が聞いて呆れるよ」
「葛葉さんの事か? あれはもったいなかった……」
「ちょっと、それどういう事?」
花園さんがいつも通り篠田に向かってキレて、篠田はいつも通りへらへら笑いながら謝っている。僕の知っているこの景色に、アメノヒもホクトもいて欲しかった。
「葛葉さんが綺麗な人なのは認めます。でも、私に隠してデートに行く事は無いでしょう?」
「や、すまん。本当にすまんかった」
葛葉さん……?
ことり、と音を立てて、全てが繋がった。
「ごめん二人とも!」
僕はやにわに立ち上がると、そのまま部屋から駆け出した。
「おい! どこ行くんだよ!」
篠田の声が追いかける頃にはもう僕は階段を駆け下りて、玄関の靴に足を突っ込んでいた。全てが繋がった今、僕の行くべき場所は一つだ。
「ちょっと神社行ってくる!」




