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「その子が幸せになると、あなたも幸せになる。なら、あなたの願いは『自分が幸せになる事』なんじゃないの?」
懇々と教え諭す様な花園さんの言葉が、僕の心を内側から鑿で叩く。でも、それに抗う僕も、確かにいた。
「でも、やっぱりそうじゃないよ。僕はアメノヒに助けられたし、アメノヒと言う人にも……、その、興味があるんだ。いや、興味って言うより、もっと強い気持ちかもしれない。もっと中立じゃない気持ちなんだ。だから……」
「そろそろ自分の思いに正直になりなさいよ。逃げちゃダメ」
イライラしている様な口調に聴こえるけど、花園さんの目は僕をまっすぐに捉えていた。
「相手の事しか考えてないのって、押し付けがましいんだけど」
「……」
きついお言葉に、僕は何も言えない。黙りこくっている僕を見て、花園さんはさらに続けた。
「ううん。相手の事を考える振りをして自分の思いを隠してるんだから、もっと悪質ね」
断罪するみたいに言い切って、花園さんは長い長い息を吐いた。言いたい事はこれで全てだと言う様に、肩から力を抜き、座っていた足を少し崩した。
横っ面を思いっきりはたかれた気分だった。はたかれて、でも、自分の方が間違ってたんだから、その痛みはこらえなきゃなんない。いや、こらえるだけじゃダメだ。なんではたかれたのか、もう一度はたかれない様にするにはどうすれば良いか、考えなきゃいけない。
考えるだって? 何を言ってるんだ。
やらなきゃいけない事は初めから決まっていて、問題はその先なのだ。




