27
眠りについたのが早すぎたのか、僕は最近とみに蒸し暑くなって来た空気にむずむずして目を覚ましてしまった。
はっきりしない頭で蛍光塗料の縫ってある時計板を見る。まだ午前二時を回った所だった。布団へ手を伸ばす。起きた所でやる事も無いから、僕はアメノヒの事を思い出さないうちに眠ってしまおうと思ったのだ。
もう一度生温い毛布にくるまった僕の耳に、急に何かが何かにぶつかる音が飛び込んで来た。一回ごとに間隔が開いて、トン、トン、トン、と、乾いた音が何度も響く。どうやら二階の壁に外側から何かぶつかってるみたいだ。
案外それだけの事が気になる物で、僕は目がさえて仕方なかった。眠ろうと思ったのに眠れない。だからといってこの怪しい音を放っておいてもいいものか。
体を起こして窓の外を確認しようとした、その時だ。不意に音が止んだ。そこで止めても良かったんだけど、一度起こしてしまった体をすぐに横たえるのも嫌だったから、僕は窓辺までよって、閉めてあったカーテンを引いた。
目は冴えたけど、まだぼやぼやと働かない頭だったから、何も考える事無くガラス窓の鍵を開けて、ガラス戸を勢い良く開いた。
目の前に迫り来るバスケットボールが、妙に遅く動いて見えた。
――バスケットボール?
「悪かったって」
哀れっぽい声で謝るのは篠田だ。僕は鼻をさすりながら無言で非難の目を向ける。
「だから電話にしようって言ったじゃない」
「いやさ、家の人が出ちゃったらどうするんだよ」
「その時はその時よ」
仲良く言い合う篠田と花園さん。
どうして二人がここにいるかと言うと、当たり前だけど、二人が僕を訪ねて来たからだ。
バスケットボールは、もちろん篠田が持って来た物だった。電話で呼び出す選択肢を選ばなかった以上、二階にある僕の部屋に直接訪れた事を知らせたかったみたいだ。で、篠田所有のバスケットボールを家の壁に放ってはぶつけていたみたいなんだけど、花園さんの「窓に当てれば?」と言う提案に従って、篠田は窓ガラスへぶつける事にしたらしい。ちょうどそのボールがぶつかる時、運悪く僕は窓を開けてしまった、と言うわけだ。
「そもそも伏見君がふさぎ込んでるなら、ご両親だって心配なさってるでしょう? 私たちが堂々と訪ねたって何の問題も無いのに」
「ばっか、恭香はそう言う所のデリカシーが足りないんだから」
「今日、両親ともいないけど」
と言うか、当人の目の前でそう言う事言っちゃう篠田もデリカシーないよなあ。
二人の会話の断片を繋ぎ合わせるに、今日の僕を見て、二人とも心配になったらしい。放課後に僕に電話をくれたみたいだけど、知っての通り僕はその電話に出ていない。結局二人で訪ねて来てくれたんだけど……。
「てか、何でこの時間なの?」
「そりゃもちろん、夜の街を二人で歩きたかっ」
「私の家に門限があるからよ」
花園さんは篠田の声を遮ってそう言った。また篠田はふざけたことを言う。
「八時までに帰らなきゃ行けないんだけど、もし話が長引いて遅くなったら面倒だし、皆が寝静まってから来ようと思ったわけ。
……そりゃ、この事にかこつけてちょっとはスリルを楽しんだわよ。悪い?」
なんにも悪くないです。
それにしても、僕まで寝静まってたら完全な無駄足になっちゃうのに、そこんところは大丈夫だったのかなあ。
とにかく、薄々感づいてはいるけど、こんな話が目的で来たわけじゃないんだろう。




