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「ねえ、笠間君」
僕は思わず飛び出して行くと、運び出されようとしていた机に手を掛けて、笠間君と扇森君を止めた。
「その机、何で運び出しちゃうの?」
「何でって……邪魔だろ、こんな所に机があったら」
珍しく、僕にしては本当に珍しく、笠間君を殴ってしまいそうだった。握りかけた拳を無理矢理ほどいて、ぐにゃぐにゃと指を意味も無く動かす。
「だって、その机が無いと、一人分机が足りなくなっちゃうじゃないか」
「……何言ってんだ、お前?」
扇森君は怪訝そうに眉をゆがめると、僕の顔をしげしげと見つめた。扇森君の声が大きかったからか、僕が突然飛び出して行ったからか、クラスの空気がだんだんと冷えて行くのが解った。冷えて行った空気は氷柱となり、霜となり、僕の肌をちくちくと刺す。
「お前、このクラスが何人だか解ってるのか?」
「解ってるよ! 四十三人だろ? 男子が二十一人、女子が二十二人だよ」
途端に、こらえきれない、と言う風に笠間君が笑い声を上げた。
「あははは、はははっ、どうした伏見? 夢でも見たのか?」
「え、何で?」
笠間君は何を苦しむ事も無く、あり得ない事を口にした。
「だって、このクラスは男女二十一人ずつの四十二人クラスだぞ」
何も言い返せなかった。それでも、片付けられようとしている机からは、どうしても手が離せない。話してしまったら、何かもっと大きな物を手放してしまう様な気がした。
「嘘だろ……」
「嘘じゃねえよ」
扇森君は笑いをかみ殺すのに精一杯なのか、頬を振るわせながらそう言った。
「じゃあ、女子を出席番号順に言ってみろよ」
「解ったよ。まず、女子の一番は……アメノ……天野でしょ」
「誰それ」
気付けば、扇森君の顔からは笑みが消え、それをこらえる頬の震えも消えていた。ただただ異質な物を見つめる目つきで、僕を睨みつけていた。
「え? この前転入して来た……」
「そんなやついねえよ」
笠間君が半分いらだった声で、そう吐き捨てた。
「そんなにこの机を運び出したくねえなら、勝手にしろ」
がたん、と腹に響く音を立てて、机が床へ落ちた。僕の耳の中でその音ばかりが響き渡って、僕の心が一瞬、動きを止めた。
いや、心だけじゃない。世界のすべてが動きを止めた気がした。




