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「じゃあ、いつもあんなに篠田に逃げ回られてるのは……」
「言葉で脅しすぎただけなのよ……。まあでも、巧一も解ってて逃げ回ってるみたいだけど」
花園さんはそう言うと、普段見え隠れする豪快さを顔いっぱいに載せて笑った。
なるほど。二人とも相手の気持ちを解ってて、逃げたり追いかけたりしてたわけか。その割には篠田の必死さも花園さんの怒りも本物に見えた気がしたけど、怒ってる方がこう思ってる分には大丈夫なんだろうなあ。
ふと、それが物凄く羨ましく思えた。
昇降口で靴を履き替え、とんとんと階段を登って行き、いつもの通り教室へと入った。
僕は迷わず自分の机へ向かうと、肩にかけていた鞄を降ろした。
教室には、変わらず通路を塞ぐ机が一脚ある。通路を塞ぐ形になってはいるけど、僕達の後ろに一列、一つしか机の無い列を増やすのもかわいそうだから、とアメノヒの転入後、何回かの席替えの後もずっとここに机が残されているのだ。
つまり、この机はアメノヒがクラスの一員である事の証なのだ。
だから、机に気付いた笠間君が、
「おい、この机、なんでこんな所にあるんだ?」
と言い出した時、僕は頭に血が上って行くのを感じた。
「さあ、きのう放課後に誰か使ったんじゃね? 机が足りなかった、みたいな?」
「ったく、持って来たんなら片付けろよな。おい、これ、誰も使わないよな? 運び出しちゃおう」
そう言うと、笠間君ともう一人(扇森君だ)、運動部二人で机を持ち上げ、運び出そうとした。
おい、なんでその机運び出しちゃうの? このクラスは四十三人クラスだよ?
そもそも四十二個も他に机があるのに、わざわざ運び込む事なんて誰もしないって、なんで皆気付かないの?
いや、何を思ってるんだ。混乱してるぞ、僕。
なんで皆、机が足りなくなるって解らないの?




