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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第四章 お狐様と帰る場所
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21

 いきなり現れた親しくもない葛葉さんと、僕の命を助けてくれて、僕も……その、好きか嫌いかって言われたら嫌いだなんてあり得ないけど……、あれだ、大切な人であるアメノヒと、二人の願いを比べたら、僕がアメノヒの願いの方を叶えてあげたい、と思うのは当たり前な事だ。

 だから、どうしたらアメノヒが「永遠」の「幸せ」を手に入れられるのか、僕はそれを考えたいと思う。

 でも、そう決意した途端に、泥みたいに葛葉さんの言葉が僕の心へからみついてくるのだ。「それは正しいのか」と。「それは本当にアメノヒが幸せになるのか」と。

「あーもう、どうしたら良いんだ」

「どうしたんだ?」

「うわっ!! 篠田!」

 知らぬ間に篠田が僕の隣に並んでいた。いつも見慣れたあの顔が、不思議そうに僕を見ている。

「何か悩み事か?」

「いや、別にそんな事は無いけど……」

「そうか? 何か思い詰めたみたいな顔してたけど」

 篠田は全く訳が解らない、と言う表情をして、うーん、と芝居がかった動きで考え込んだ。と、人差し指を勢い良く立てると、

「あ! 恋の悩みだろ!」

 と決めつけた。その言葉に僕はふと、違和感を覚えた。

 篠田の必要以上に大きな声に、周りの高校生がみんな振り返った。うわ、うわわ。恥ずかしい。

「ちょ、篠田。お前声でかいよ」

「ん? ああ、ごめんごめん。で、ほんとの所はどうなんだ?」

「もちろん違うよ」

 恋の悩みとは、ちょっと方向が違う気がするんだよなあ。それを篠田に教えるかと言ったら、教える訳なんて小指の爪ほどもないけど。

 それよりも、僕がちらりと感じたあの違和感だ。どうも魚の小骨みたいによく解らない所に引っ掛かって、さっきから落ち着かない。

「じゃあなんなんだよお。力になれるかもしれないからよお」

「いや、僕の問題だし。篠田は関係ないと思う」

「そうかあ」

 篠田はあっさりと引き下がると、片手に下げていた鞄をぐるぐると振り回した。なにやら重そうな鞄だけど、さすがバスケ部、いとも簡単に振り回している。篠田は、手持ち無沙汰になるとこうやって鞄を振り回すのだと、僕はふと思い出した。

 しばらく二人して無言で歩いていたけど、校門も近くなった頃に、篠田はふと、

「そう言えばさ、テスト、八割五分行ってた」

 と切り出した。……まじっすか。

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