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いきなり現れた親しくもない葛葉さんと、僕の命を助けてくれて、僕も……その、好きか嫌いかって言われたら嫌いだなんてあり得ないけど……、あれだ、大切な人であるアメノヒと、二人の願いを比べたら、僕がアメノヒの願いの方を叶えてあげたい、と思うのは当たり前な事だ。
だから、どうしたらアメノヒが「永遠」の「幸せ」を手に入れられるのか、僕はそれを考えたいと思う。
でも、そう決意した途端に、泥みたいに葛葉さんの言葉が僕の心へからみついてくるのだ。「それは正しいのか」と。「それは本当にアメノヒが幸せになるのか」と。
「あーもう、どうしたら良いんだ」
「どうしたんだ?」
「うわっ!! 篠田!」
知らぬ間に篠田が僕の隣に並んでいた。いつも見慣れたあの顔が、不思議そうに僕を見ている。
「何か悩み事か?」
「いや、別にそんな事は無いけど……」
「そうか? 何か思い詰めたみたいな顔してたけど」
篠田は全く訳が解らない、と言う表情をして、うーん、と芝居がかった動きで考え込んだ。と、人差し指を勢い良く立てると、
「あ! 恋の悩みだろ!」
と決めつけた。その言葉に僕はふと、違和感を覚えた。
篠田の必要以上に大きな声に、周りの高校生がみんな振り返った。うわ、うわわ。恥ずかしい。
「ちょ、篠田。お前声でかいよ」
「ん? ああ、ごめんごめん。で、ほんとの所はどうなんだ?」
「もちろん違うよ」
恋の悩みとは、ちょっと方向が違う気がするんだよなあ。それを篠田に教えるかと言ったら、教える訳なんて小指の爪ほどもないけど。
それよりも、僕がちらりと感じたあの違和感だ。どうも魚の小骨みたいによく解らない所に引っ掛かって、さっきから落ち着かない。
「じゃあなんなんだよお。力になれるかもしれないからよお」
「いや、僕の問題だし。篠田は関係ないと思う」
「そうかあ」
篠田はあっさりと引き下がると、片手に下げていた鞄をぐるぐると振り回した。なにやら重そうな鞄だけど、さすがバスケ部、いとも簡単に振り回している。篠田は、手持ち無沙汰になるとこうやって鞄を振り回すのだと、僕はふと思い出した。
しばらく二人して無言で歩いていたけど、校門も近くなった頃に、篠田はふと、
「そう言えばさ、テスト、八割五分行ってた」
と切り出した。……まじっすか。




