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「付き合ってないですけど」
「あら……。じゃあなんて言ったら良いのかしらね」
ふうむ、と可愛らしい声を上げて、葛葉さんはしばらく考え込んだ。そして何かを思いついたのか、ぱっと顔を上げた。
「今後、付き合う予定とかないの?」
数日前までだったら僕も顔を真っ赤にして「いやっ、そんな予定とかっ、ないですっ!」と一所懸命に否定したかもしれないけど、今の僕にはそんなに面白い問いかけでもなかった。
「いや、ないですよ」
「あらそう。それは良かった」
……この人、何考えてるのかな。だんだん静けさを増して行く夕方の神社を背にしている事が、とてつもなく恐ろしい事の様な気がした。
「もし付き合ってたなら、忠告があったんだけど。付き合ってないなら、おせっかいも良い所ね」
葛葉さんは意味深に笑う。綺麗なこの人だから、その笑みは一層不気味に写った。
「参考までに、聞かせてくれないかな? どんな忠告をしようと思ってたのか」
「あの子とは付き合わない方が良い、って事よ」
不思議だ。アメノヒとそう言う関係になる気は全くないのに、何故だか全身の血が波打つ様な気分に襲われた。無数の虫が血管に入り込んで、内側からちくちく刺してくるみたいな居心地の悪さ。
自分の声が震えるのが解った。
「どうしてか、理由を教えてくれる?」
「あら、もう薄々感づいてるのじゃなくて?」
あくまで落ち着き払ったままの葛葉さんは、僕を試すかの様な言い方をして、上目遣いに僕を見た。底知れぬ黒い目が、僕の頭の中を見通そうとしている。
葛葉さんの言わんとしている事が、はっきりと形を持って頭の中へ舞い降りて来た。全く根拠もないのに、全てをすっ飛ばして勘だけが働いたみたいだ。
ただ、それを口にするには、僕の覚悟が足りなすぎた。
「……葛葉さん、君、何者なの……?」




