16
「葛葉さん、どうしたの?」
そう、この人はあの葛葉さんだ。篠田が遊びに誘って、花園さんに叱られてたなあ、とぼんやり思い出す。
「と言うかいつの間に現れたの? さっきまでそこにいなかったのに」
「えっと、ちょっと通りかかっただけなの」
そう言いながら、恥ずかしそうに微笑む。ああ、やっぱりこの人も綺麗な人だよなあ。なんと言うか、落ち着いた美しさって言うのが滲み出てる。決しておしとやかなばっかりじゃなくて、活発な人なんだけど雰囲気そのものは落ち着いていると言うか。なんだろうね、学年中の男子どもが逆に畏れ多くて声を掛けられないのに、篠田は平気でデートの約束なんか取り付けちゃって。
残念ながら僕はそこまで葛葉さんと親しいわけじゃない。長い事一緒にいても気まずくなるだけだし、さっさと謝って返ろうと思った。
「驚かせてごめんね」
「良いわ、別に」
短い会話だけで終わると思ったのだ。でも。
「突然だけど伏見君、あなた、天野比奈さんと仲良いみたいね」
「えっと……、まあ、そうだけど……」
それがどうかしたのかな。僕が葛葉さんの真意を測りかねていると、彼女は唇に人差し指を当てて、妖し気に笑った。
そう、西日の射し込む林の中で、その笑みの妖しさは、本当に僕の心をとらえた。
「付き合ってるの?」
答えない、と言う選択肢を与えないかの様に、葛葉さんの目には力が籠っていた。
何で親しくもない女の子にそんな事聞かれてるのかなあ、僕は。




