6
「はっ」
しまった! 寝てしまった!
慌てて窓の外を見ると、すっかり日は落ちて真っ暗になっていた。時計を見ると、短針は七と八の間を指している。
とんとん、と階段を降りて行き、キッチンへと立つ。まだまだ醒めきらない頭をゆらゆら降りながら、冷蔵庫の扉を開けた。むう、ベーコンにピーマンにトマトと……。何も考えずにご飯たいちゃったけど、これならナポリタンとかの方が良かったかもしれないぞ……。
僕はタイマーモードに入った炊飯器を前にひとしきり唸ってから、僕は『明日食べよう』と言う結論を出した。まあ、炊けちゃったものはしょうがないよね。無理して今日食べる事もないし。
気を取り直して冷蔵庫からベーコンを取り出した時、コツコツ、と玄関の方から音が聞こえた。しばらく息をひそめていると、またコツコツ、と、かわいらしい音が聞こえる。
僕はそろりそろり、と足音を殺して廊下を進んだ。息をひそめていると、何度かさっきの小さな音が聞こえた。
玄関に近付くに連れ、最初に聞こえた音以外にも会話らしきものが聴こえる事に気がついた。僕は少し大股で歩き、玄関横のドアホンから様子を伺った。
小柄な金髪の少女と、背の高い黒髪の少女が、二人並んで扉の前に立っていた。
金髪の少女は、黄緑や赤や他にもたくさんの色が重ねられた重厚な着物を着ていた。所々に模様が入り、まるで一つの絵の様だ。僕はああ言うのには詳しく無いけど、十二単とでも呼べば良いんだろうか?
黒髪の少女は金髪の少女とは打って変わって、灰色のパーカーにオリーブ色のプリーツスカートと言う、何とも現代的な出で立ちだった。
「やっぱり私がこの家の者を始末してから、アメ様に住んで頂きます」
と、黒髪の少女。ちょっと待て、この家の者って僕の事?
「いいえ、冗談でもそんな事を言ってはいけません、ホクト。私たちはあくまでお願いをする側なのです。いくら私たちが力を持っていたとしても、使いどころを弁えなければなりません」
たしなめる様に金髪の少女が言う。良い人だ……。
そして訪れる激しいデジャヴ。
「でも……」
「ホクト、あなたが私に良くしてくれようとしているのは、十分に解ります。でも、あなたは私の護衛なのです。私が、私の宿とあなたの宿を合わせてお願いするのは、当たり前でしょう?」
「わかりました。でも、相手が失礼な言動を働いたら、私の刀で……」
「ホクト、いけません」
「……」
「返事は?」
「……はい」
不承不承と言う感じで頷く黒髪の少女。金髪の少女はそれを見て満足げに頷いた。
「解れば良いのです。暴力は最後の手段ですから。
それにしても、返事がありませんね。留守なのでしょうか?」
金髪の少女はそう言って首を傾げる。それを見ると、扉と彼女の間に黒髪の少女が割り込み、強引にノックを重ねた。
「いや、確かに中に人間はいますよ、アメ様。匂いがしますもん」
ガタガタガタッ、と扉が音を立てる。ちょっと! 「匂い」?! 今彼女「匂い」って言った?! お前の鼻は犬並みかよ。
「そうでしょうか? ホクトは本当に鼻が利きますね」
と、金髪の少女。彼女はアメ様と言うらしい。
「そりゃアメ様の護衛ですから」
急にデレデレとし始める黒髪の少女。そーいやこいつ、ホクトって呼ばれてたな。
「本当に、アメ様をどれだけ待たせるつもりでしょうね、こいつ。出て来おい! いるのは解ってるんだぞっ!」
また扉がガタガタと揺らされる。こいつさっきのアメ様の言葉を覚えてないんだろうか。暴力は最後の手段なんだぞ? こいつの脳みそは犬以下なのかな?
「こらホクト。止めなさいって言ってるでしょ」
アメ様の止めが入り、扉が鳴り止む。
……、出るとしたら今なのかなあ。今でないとずっと目の前で粘られそうだし。
僕は意を決して扉に手を掛けた。