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もちろん、このおじさんのうさんくささには目をつぶろう。宮司だって言ってたしね。まさかこんな平日の夕方に宮司のコスプレしてるおっさんなんていないだろうし。
……いないよね? いないといいなあ。
「この神社の宮司さん続けて何年なんですか?」
「身の上話は、またの時でも、ね」
いきなりはぐらかされた! この人、他人の事はあれだけべらべら喋っちゃうくせに、自分の事は話したがらないのか! ずるさの極みだな。
「そ、そうですか……。あ、じゃあ、ここお稲荷さんですよね。狐とか、見た事ありますか?」
「ん」
宮司さん、もとい変なおっさんはカク、と音を立てたみたいに動きを止めた。怪しい。
宮司さんは服の袖で額を拭いながら(高そうな服だけど、良いのかなあ)、慌てたみたいに言葉を繋げた。
「それは、神使としての、って事かな?」
「しんし?」
「あ、ああ。神様のつかい、って事だな」
すぐに返事しようとして、僕ははたと考えこんだ。普通、「狐とか、見た事ありますか?」と聞かれて、わざわざ「神使の事か?」と訊き返すだろうか。例えば、僕ならわざわざメジャーではない「神使」なんて言葉を使ったりしない。まあ、知らなかったから当たり前と言えば当たり前なんだけど。
「で、どうなんですか? 見た事あるんですか?」
「ああ……、ここで見た事は、無いな」
おじさんはそう言うと、ふう、と小さな息を吐いた。すっ、と僕から視線がずれて本殿の方に向いた事も、僕は気付いていた。
何かあるんだろうな、と思いながら、そんな事おくびにも出さずに、質問を重ねる。
けれど、僕も気付かぬうちに勇み足を踏んでいたみたいだった。
「じゃあ、神使じゃなくて良いんで、なんかお狐様関係の話って、無いんですか?」
「……ないよ」
おじさんは一瞬、真面目な顔になった。でもすぐにさっきの様な人の良さげな笑みを浮かべると、大げさな身振りをしてみせた。
「狐に拘るねえ、君。何か目覚める様な事、あったのかな? やっぱり最近流行の狐耳とか?」
「いえ……べつに、ありませんけど」
困ったなあ。この人が自分の事を話そうとしてくれない限り、僕の知りたい事は永遠に闇の中なのだ。




