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ふうん。そうなのかあ。知らずに全く関係ないお祈りをしちゃったけど。……うーん、考えようによっちゃ関係あるとも言えるのかなあ。
「そう言えば、あの子もそんなお願いしてたなあ」
「すみません、さっきからあの子あの子って言ってるけど、あの子って誰ですか」
うさんくさいおっさんが誰だか解らない人の話を連発してるのって、案外怖い物だよ。いやあね、神社で袴履いてる男の人って言ったら、薄々正体に感づきもするけどさあ。それでもこの人が変な人である事に代わりは無いか。
「ああ、花園さんって子なんだけど、めちゃくちゃ可愛い子だったなあ。あ、君たぶん知らないよな、この子。ごめんな」
何で謝られたんだろう。可愛い子と自分ばっかり知り合いでごめんな、って意味だったら、これ以上ムカつく事も無いなあ。
「すみません、その花園さんって子、ちょっと背は高めで、髪はこんな感じでパーマかかってる子でしたか?」
「あ、そうそう。あれ? 君知り合いだったの?」
「はい。同じクラスですし」
それを聞くとおじさんはまた大げさに両手を広げ、
「おー、それはそれは。偶然って言うものは恐ろしいものだな! で、どうだ。あの子、あれから彼氏の一人でも出来たか? あの子、願い事を口に出しちゃうんだよな。後ろで聞いてたら股間を蹴り上げられてさ……」
うーん。花園さんに蹴り上げられるとか、考えただけで尋常じゃない寒気がする。と言うか、そう言うのは聞いてても聞いてない振りするもんなんじゃないの?
「僕は人の恋路は人の恋路だと思ってますんで。あなたに話したりはしませんよ」
「そうかそうか」
おじさんは案外あっさりと頷くと、どこかと奥を見る様な目をした。
「君も、好きな人がいるなら、ちゃんと思いは伝えた方が良いぞ。神様に御祈りするのも良いけど」
「すみません。……ところで、あなた宮司ですよね?」
「そうだけど」
けろっとした顔で言い放つおっさんを見て、僕はもう溜め息を吐くしか無かった。なんて口の軽いおっさんなんだろう。この人に恋の悩みを知られちゃった花園さんも、災難だよなあ。
と言うか、花園さん篠田と付き合おうとして神社にお参りに来てたのか。やだ! 案外恋する乙女! あんなヤツのためにそこまでするとか、真面目を通り越して何か執念みたいな物も感じるなあ。
とりあえずおじさんが一旦黙ってくれたので、僕から質問を返す事にした。
「なんで僕に声掛けたんですか?」
「いやあ、暇だったからね。最近は宮司も副業が多くなってさ。この神社自体も近くの八幡様に管理されてるし、僕もいつもは仕事に行ってるんだけどね。今日は珍しく早く会社が退けたのさ」
聞かれもしない事べらべら喋っちゃうのは心配だけど、この分だと色んな話を聞き出すのにそう時間もかからないかもしれない。
今日は神社を見て回って手掛かりとかを探すつもりだったけど、予定変更だ。この人から搾り取れるだけ情報を搾り取ろう。




