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と、後ろへ体を捻ると、そちらにも絵馬掛けがあって、こちらもたくさんぶら下がった絵馬掛けに埋もれる様に「八雲神社」と書かれている。
うーん。八雲神社って何の神様を祭ってる所だっけ。有名な神様だったかもしれないけど、物を知らない僕にはすぐには思い出せなかった。
とりあえず、どっちの祠にもお参りしておこう。そう思って僕はポケットから小銭入れを出して、両方の祠の賽銭箱に一枚ずつ投げ込んで、それぞれの祠の前で柏手を打った。
願い事はもちろんあれだ。決してあの人とずっと一緒にいられます様にとか、そう言う事は御祈りしなかった。僕ばっかりが幸せになっても仕方ないしね。アメノヒの悲しみの種が無くなるなら、それが一番だ。
「おお、感心感心」
不意に後ろから声を掛けられた。……だれですか、あなた。ええとですね、驚きながらも頑張ってこの場面を言葉にしてみると、声のした方を振り返ると袴みたいな服(と言うか袴かな)を着たおじさんが立っていた、と、こんな感じです。
「最近の若いもんはとんとお参りにこないからなあ。受験生がぽつぽつ来るくらいだけど。……あ、そう言えば可愛らしいお嬢さんも来てたっけなあ。もうあれも一年前か」
どんどん捲し立てるおじさんを、僕はしげしげと観察した。少し日に焼けた感じのおじさんで、太ってるわけじゃない。ただ体格は良くて、そんな所が妙に袴とマッチしている。ただ、やっぱりいきなり僕に話し掛けて急にそんな事を喋っちゃう辺り、どこまで行っても「変なおっさん」と言うイメージは変わる事は無いだろう。
黙り込んでいる僕にようやく気付いたのか、おじさんは僕の顔をガサツに覗き込んだ。
「おい、君。どうした?」
「いや……、ちょっと」
あなたがうさんくさすぎて、黙るしか無いんですよお、とは口が裂けても言えない。なんと言ったら良いものか、と考え込んでいると、おじさんはまた蛇口を勢い良く捻ったみたいに喋り始めた。
「まあでも、君みたいな若い子ぉが八雲神社にお参りっていったら、まああれしか無いわな。八雲神社はな。縁結びの神様だから」




