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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第四章 お狐様と帰る場所
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11

 次の日の夕方、僕はまた陸山稲荷神社の前にいた。今日はホクトもアメノヒもいない。二人がいなければならない、と言う事も無かったし、二人に声を掛けようと言う気も起きなかった。

 それに、ここなら絶対に二人と顔を合わせる事もない。

 この前はあれだけ僕達を拒んだ石造りの鳥居も、今日はすごく静かで、じっと僕を高い所から見下ろしている。

 どうしても前に出たがらない足を無理矢理動かして、とんとんと階段を登る。二の鳥居の赤さが目の端を通り過ぎて、ほどなく階段のてっぺんに辿り着いた。

 改めて見るとこの神社の境内は広々としていた。大きな本殿と、そこへ向かって左側には二つの小さなほこらとその前に一つの鳥居、神輿をしまう蔵があった。右側にはお神楽場があって、毎年の夏休みにはそこで踊りが披露されるのだ。

 そして、全てを取り囲む様に、背の高い木々が生えている。夕日に何かを思ったのか、カラスが何羽か、騒がしくがなり立てた。

 僕は本道へ続く石畳を歩いて、本道の目の前まで歩いて行った。

 本堂は普通の家とは比べ物にならない程年季が入っていて、目線を上へ動かすと瓦の屋根が綺麗な曲線を描いている。所々にサビが入った鈴と、これまた程よく汚れた綱が垂れ下がっていて、お正月なんかは皆がこれを鳴らして行くのだ。

 本堂を前にして僕はしばらく考え込んだ。

 とりあえず、何も考えずにここへ来ちゃったから、何をすべきかを整理しよう。いつになく頭の中が澄み切って。それでも脳みその真ん中ら辺にどうしても光を通さない部分がある感じだ。

 まず、この神社になんで二人が入れないか、それを明らかにしなきゃなんない。それも、ホクトに寄ると、鳥居を境として境内をぐるりと取り囲む様に結界が張られているようだ。でも、僕は境内に入れるし、普通の参拝客も入れているようだ。

 つまり、この神社から、狐だけが追い出されている形になる。

 ここで繋がってくるのが、この前ここへ来た時、最後に聴こえて来た声だ。「わしの家だ。荒らすな」と言う低い声の持ち主が解れば、そのままそいつが、二人をここから閉め出している元凶だと言う事だ。

 しばらく、考えが進まなくなる。……、仇の情報が声だけって、あまりにも情報が少ないよなあ……。知ってるヤツの声ならまだ行けるかもしれないけどさ。

 声だけって……、解り辛いなあ……。

 意味もなくぶらぶらと歩き回り始めてしまう。本堂に背を向けて歩き、かくりと右へ曲がって二つの祠の前まで来た。向かって左側の祠の絵馬掛けには「天満天神社」、右側のには「八雲神社」と書かれている。

 さっきから一歩も進まない考えを抱えたまま、左側の祠の前に立ってみる。

 なるほどなあ、こっちは天神様だから狐の置物とか無いのか。天満天神社、って書かれてるから、多分学問の神様なんだろう。

 ……篠田がお参りしたのはここなんだなあ。また絵馬掛けへ目を戻すと何枚もぶら下がった絵馬たちの一番上に、

『テストで八割五分取れます様に 篠田巧一』

 と書かれた絵馬がぶら下がっていた。うーん、周りは『第一志望合格』とか『医学部に合格します様に』とかそう言うのばっかりなのに、篠田のだけ浮いてるよなあ。それだけ花園さんが怖かったとも言えるけど。

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