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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第四章 お狐様と帰る場所
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10

 僕は悠久のときを生きてるわけじゃない。

「アメノヒは、あの神社に帰れるのが一番の幸せなんでしょう?」

 僕の言葉を聞いて、アメノヒの顔に表れていた最後の表情――悲しみさえも、消えてしまった。

「善太朗さんは、どうしたって、そう信じていらっしゃるんですね」

 つまらなそうな顔じゃない。悲しそうな顔でもない。もちろん泣いてなどいない。アメノヒの顔からは一切の表情が消えて、ただただナイフの様に精悍な顔立ちだけが残った。白い頬には赤味が差さず、金色の狐の耳も一人でピンと立っている。

 こんなときでも僕は、そんなアメノヒの姿を「格好いい」と思い、少しの間見ほれてしまっていた。情けない。本当に僕は情けないヤツだ。

「話はこれで終わりです」

 冷たくそう告げると、アメノヒは僕に背を向けて、リビングから出て行った。

 アメノヒの足音が遠ざかって行く。僕はその音を聞きながら、長い長い息を吐いた。色んな思いや言葉が、全部流れ出て行くようだ。

 でも、それでも喉元にわだかまる奴らを押し戻そうと、僕はグラスに麦茶を注ぎ、ぐいっと一気に飲み干した。冷たさが喉を撫でるだけで、渇きはなかなか癒えなかった。


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