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ぐさり、と心臓を突き刺された様に、僕は苦しくなった。僕は心からこう思っているのに、それを嘘だと言われた事が、この上なく悲しかった。そして、僕の悲しみの千分の一ほども悲しみの現れていないアメノヒの表情に、僕は絶望した。
アメノヒが僕の言葉を嘘だと疑う、その理由を知りたかった。
「ど、どうしてそう思うの?」
「どうしてだと思いますか?」
アメノヒは逆に僕にそう問いかけた。アメノヒの顔には笑顔が張り付いていて、でもその裏側にはもっと透き通った青い感情がありそうだった。覗き込めばどこまでも落ちて行きそうな、そんな恐ろしい青色。
「僕は一度も、アメノヒと一緒にいたくないなんて思った事は無いよ」
「嘘ですよ」
アメノヒの声が震えた。けれど何より、その短い言葉の鋭さと言ったら! 根拠も何も無くて、アメノヒの勘だけから来てる言葉だとしたも、その言葉は僕を滅多刺しにした。
声を荒げてしまわない様に、僕は喉元で声を押し殺した。
「ほんとだよ」
「いいえ、嘘です」
「ほんとだって」
「いいえ、絶対に嘘です」
「……なんでそう思うか、教えてくれる?」
アメノヒは一瞬表情を歪ませると、すぐにまた笑顔を張り付けて、答えた。
「善太朗さんは、私と添い遂げたくはないんでしょう?」
空気はまるで動きを止めてしまい、時間が凍り付いた。
うそだろ。
「私と結婚して欲しいとかじゃないんです。それはそうでしょう? 私が善太朗さんのご好意に甘えてしまっていただけですから。善太朗さんも年頃の男の子ですし、好意を抱いていらっしゃる女の子もいらっしゃるでしょう。何より、そう言う事を決めるには、まだまだ私たち、一緒にいた時間が短いと思うんです。だから、私はその事を言っているのではないのです。
善太朗さんが色々な事に気付くの、私知ってます。私たちが突然この家に押し掛けて来たときも、門前払いにはしませんでした。恭香さんたちと初めてお会いした時に、咄嗟に気を回してくださいました。察しが良い方なんだと、私思ってます」
「ちょっと待ってよ、僕は別にそんなんじゃ」
「でも」
遮りかけた僕の言葉は、アメノヒの短い言葉にぴしゃりと止められた。
「善太朗さんは一番大事な所に気付いてないです」
「一番大事な所……?」
「ほら、今だってそうでしょう?」
アメノヒの笑みは変わらない。でも、僕にはだんだんと笑顔の裏の青色が深くなって行く様に感じられた。それこそ、いくら手を伸ばしても僕の腕の長さじゃ足りないくらいに。
案外、みんなそう言う物なのかもしれないけど。




