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お狐さまのかえる場所  作者: 杉並よしひと
第四章 お狐様と帰る場所
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 アメノヒはあの日と同じ、可愛さの中に、ひとつまみの大人びた感じを混ぜた笑みで、立っていた。

「私、善太朗さんにお話ししたい事があるんです」

「話……があるの……?」

 オウムみたいにかけられた言葉をそのまま返してしまう。ばっかみたい。だいたい何を僕は緊張してるんだろうね。緊張しなきゃいけない事なんて……。

 けっこう思い当たる事が多いなあ。

 僕が固まったままの格好で色々考えているうちに、アメノヒの方は僕へ話をする決心みたいなのをつけたようだった。

 もじもじと胸元で動いていたアメノヒの手が、ぴたりと動きを止める。黒く大きな瞳の中に僕を映し込んで、アメノヒは言った。

「どうしてもこの家でお話ししたくて……。でも普段はホクトに聞かれてしまうんで、今、その話をしても良いでしょうか?」

「うん、良いけど」

 ごくり、とつばを飲みこむ。緊張でガッチガチな僕に比べて、アメノヒはいつも通り可愛らしく、でも大人っぽく、目の前に立っている。

 アメノヒは歌う様に唇を動かした。

「私がこの家にずっといたいって言ったら、善太朗さんはどう思いますか?」

 歌う様にそんな事を聞けてしまう。言葉を受け取ってすぐには解らなかった。けれどやっぱり、アメノヒはこういう事を考えずにはいられないのだ。それは、長い旅の中で染み付いてしまった癖みたいな物なのかもしれない。

 つまりアメノヒは、はなっから、心のどこかで「ずっとこの家に住む」事を疑っていたわけだ。そう思うと言い様もない寂しさが襲って来て、つい僕の口調も雑になってしまう。

「そりゃ、嬉しいと思うさ」

「じゃあ、これから先、ずっと私がそばにいても、嫌だと思いませんか?」

 涼しげな顔をして、アメノヒは恐ろしい事を言う。この問いを投げかけられる側だってエネルギーがいるけど、問う側だって相当エネルギーを使うはずだ。アメノヒが平気なはずは無い、と僕は思った。

「当たり前だろ。嫌だなんて思うはず無いじゃないか」

「嘘ですよね」


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