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アメノヒはあの日と同じ、可愛さの中に、ひとつまみの大人びた感じを混ぜた笑みで、立っていた。
「私、善太朗さんにお話ししたい事があるんです」
「話……があるの……?」
オウムみたいにかけられた言葉をそのまま返してしまう。ばっかみたい。だいたい何を僕は緊張してるんだろうね。緊張しなきゃいけない事なんて……。
けっこう思い当たる事が多いなあ。
僕が固まったままの格好で色々考えているうちに、アメノヒの方は僕へ話をする決心みたいなのをつけたようだった。
もじもじと胸元で動いていたアメノヒの手が、ぴたりと動きを止める。黒く大きな瞳の中に僕を映し込んで、アメノヒは言った。
「どうしてもこの家でお話ししたくて……。でも普段はホクトに聞かれてしまうんで、今、その話をしても良いでしょうか?」
「うん、良いけど」
ごくり、とつばを飲みこむ。緊張でガッチガチな僕に比べて、アメノヒはいつも通り可愛らしく、でも大人っぽく、目の前に立っている。
アメノヒは歌う様に唇を動かした。
「私がこの家にずっといたいって言ったら、善太朗さんはどう思いますか?」
歌う様にそんな事を聞けてしまう。言葉を受け取ってすぐには解らなかった。けれどやっぱり、アメノヒはこういう事を考えずにはいられないのだ。それは、長い旅の中で染み付いてしまった癖みたいな物なのかもしれない。
つまりアメノヒは、はなっから、心のどこかで「ずっとこの家に住む」事を疑っていたわけだ。そう思うと言い様もない寂しさが襲って来て、つい僕の口調も雑になってしまう。
「そりゃ、嬉しいと思うさ」
「じゃあ、これから先、ずっと私がそばにいても、嫌だと思いませんか?」
涼しげな顔をして、アメノヒは恐ろしい事を言う。この問いを投げかけられる側だってエネルギーがいるけど、問う側だって相当エネルギーを使うはずだ。アメノヒが平気なはずは無い、と僕は思った。
「当たり前だろ。嫌だなんて思うはず無いじゃないか」
「嘘ですよね」




