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家に着くと、もうホクトは僕の部屋にいた。ゆるめのTシャツにいつもどおりのホットパンツだ。
いくら最近暑くなって来たからって、そうやってすらりとした足を大胆に出されるとね……。正直目のやり場に困る。ホクトはアメノヒにばっかり気を回して、自分の方は無防備になってる事が多いから余計にどうして良いか解らなくなる。
ただ、あの夜にみたホクトは、何故だか大丈夫だった。ホクトの太ももだってそう言う物だと思えたから、目を逸らしたりだとかはしなかった。
なんでだろうね。
「アメ様、お帰りなさい」
「ただいま、ホクト」
言うが早いが、アメノヒは緊張を解いたかの様にピンと立った狐の耳を出し、膝丈の制服のスカートの裾から柔らかそうな尻尾を覗かせた。一度撫でてみたいんだけど、いきなり頼み込んでも変態みたいだから、ずっと我慢してる。でもあの毛並み、絶対触ったらふかふかで気持ちいいはずなんだよなあ。
「じゃあ、ちょっと下行ってくる」
僕はのどの渇きを覚えて二階の自分の部屋を出た。とんとんと階段を下りながら、色々と考え事をする。
テストが終わったのは午前中で、まだまだ一日が長い。また久し振りにアメノヒとどこかへ出掛けられるかなあ、と思った。思ったんだけど。
急にこの前の夜の事が思い出された。
あの夜の事は、僕とホクトの秘密だった。ホクトが一瞬でも狐に戻ってしまったのを知ったらアメノヒは心配するだろうし、神社にやっぱり入れないと解ったら、アメノヒは何度めか解らない悲しみに溺れるだろうから。神社からの帰り道、僕とホクトはそう誓ったのだ。
最後に僕に話し掛けたあの声の主は一体誰なんだろう。それが解った所で、そいつが本当にあの神社からアメノヒとホクトを閉め出し続けているんだろうか? そうだと解ったとして、そいつに僕は勝てるんだろうか?
ぐるぐると頭の中が回転する。考え事に心を奪われて、うっかりリビングのドアを通り過ぎた。「おっとっと」とか呟きながらリビングへと入る。
冷蔵庫を開けて麦茶のボトルを取り出すのと、声が聞こえるのと、同時だった。
「やっと二人きりになれました」
背中の方から、アメノヒが声をかけたのだ。僕はボトルをもったままくるりと振り返る。で、振り返ったは良いけど、はたとどうして良いか困ってしまった。
二人きりになれた? やっと?
まるで告白するみたいじゃないですか!
そこに考えが及んでしまうと、もう僕はまともに返事をする事も出来なくて、ただただ振り返ったままの格好で固まってしまった。




