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なんだかんだで、その後は何もなく家まで帰り着いた。大きくも小さくも無い、良くある一軒家の鍵を開ける。
不思議な人に出会った事ですっかり忘れてしまっていたけど、僕もあの人と同じ人を探していたのだ。何で「一緒に探そうよ」と持ちかけなかったんだろうなあ、とちょっと後悔したけれど、思えばそんな提案を聞き入れそうな人じゃなかったな。黒い髪と涼しい目元が、今朝の彼女とは違う大人っぽい美しさを見せていたなあ。……黙っていればの話だけど。話してしまえばただの変な人だ。
……、匂いフェチだったりするのかなあ。
テーブルを見ると、「今日は帰りが遅くなります」と書かれた紙切れが置いてあった。父さんは単身赴任中だし、母さんの方か。と言う事は僕が夕飯を準備しなきゃ行けないんだな。
小さい紙切れからあれやこれや考えながら、僕は(自分で言うのもあれだけど)馴れた手つきで洗濯物を取り込み、炊飯器をセットした。
そのまま二階の自分の部屋へ入ると、まずベッドに仰向けに転がった。考え事をする時の僕の癖だ。
僕の事を助けてくれた女の子は、一体何者なんだろうか。
そもそも、彼女を捜していたのが僕だけじゃない、と言う所が最高に引っ掛かる。それこそ、アジの小骨とか目じゃない位に。
ただ、ベッドに横になると一緒に眠気もやってくるわけで。
朝からの疲れが、僕を眠りの沼へと引きずり込んで行った。