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「巧一の行方を知らないかしら?」
怖い! 何でも無い言葉なのに、大きな瞳の奥に炎がくすぶってる。綺麗な人なだけに、こうやって怒る表情がますます恐ろしい。
「えっと、篠田さんなら……」
「アメノヒ、ダメだって!」
僕はアメノヒの口をぐいっと手のひらで塞ぐと、大慌てで笑顔を作ってみせた。
「篠田なら、僕も、知らないかな……、あはは」
花園さんはうさんくさそうに僕を睨め付けると、はあ、と息を吐きながら腰に手を当てた。
「まあ、あんたと巧一がグルだって事くらい解ってるわよ」
何か僕まで呆れられた気がするけど、仕方ないよね。
「あ、やっぱりバレてる?」
「当たり前じゃない。それより、早く手を離してあげなさいな」
はっ、と思って自分の手をみると、未だにアメノヒの口許を押さえたまんまだった。アメノヒの顔が真っ赤になっている。
「うわっ、ごめん! 苦しかった? 苦しかったよね?」
「あ、あの、そんなに謝らなくても」
「ううん、ぜんっぜんそんなつもりなかったんだけど、ちょっとした勢いでこんな事になっちゃって、ほんとにごめん!」
「いいえ、その……、暖かかったです……」
「暖かかった……?」
急に言葉が途切れて、僕もアメノヒも続く言葉を見失ってしまった。だんだんと二人して俯いて、さらに更に会話の糸口が見えなくなって行く。
暖かかったって、アメノヒ的にはどういう事なの? 良い事なの? 悪い事なの? 「暖かかった」って言われた直後はなんだか心臓がドキドキして、色んな事が頭を駆け巡って、思わずアメノヒを抱きしめてしまいそうだった。
そもそも断りも無くアメノヒの口を押さえたのは僕なんだし、謝ったのは間違いじゃなかったはずだけど。
……暖かかったって、何?
「はいはい、ごちそうさま。もうお腹いっぱいですよー」
花園さんの呆れ返った声で僕とアメノヒは我に返った。
「まったくもう、そう言う初々しい事は人目につかない所でやりなさい」
「はい、恭香さん」
え? アメノヒは、人目につかない所で「初々しい事」してくれるの? 何かすごく訳も無く恥ずかしいんですけど。
……ってか、だから、初々しい事って何さ。
「で、あなた達は巧一の居場所を吐く気はないと」
花園さんは「だめだこりゃ」とでも言いたげな表情で肩をすくめた。




