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「ああ、あそこのお稲荷さん。鳥居入った脇っちょに神社のミニチュアみたいなのあるじゃん。あそこ、学問の神様なんだってさ」
「確かに境内には天満天神社がありますね」
「そうそう。そこで試験前は毎日お参りしてたんだ」
案外篠田にもそう言う所があったんだなあ。素直に感心するよりも、あれだけ適当な人間だった篠田をここまで追い込んだ花園さんのSさ加減を褒めた方が良いんだろうか? 褒めるべきなんだろうな。
この場にいない花園さんに心の中でスタンディングオベーションをした。ブラーヴァ!!
「で、花園さんはいつも通り満点なんだろうね」
「ああ、恭香はすげーよなあ」
溜め息まじりで篠田が呟く。花園さんは大体どのテストでも軽々と百点を取り、一点でも落とすと風邪を引いたんじゃないかと皆から心配されるのだ。本人は、こつこつと勉強しているだけだけど、とあんまり深く受け止めてないみたいだけど、まあ、あれだけ「一○○」が並ぶ答案を達をみたら、そりゃあ溜め息もつきたくなろうと言う物だ。
アメノヒはうんうん、と頷きながら、
「花園さんには大変お世話になりました。お礼をしたいんですけど、何が喜んで頂けるでしょうか?」
何でもかんでもそうやって堅っ苦しく考えてしまうのがアメノヒだと解るまで、僕も結構かかった。今更ながら、こう言う質問をしてしまうアメノヒをみると、折目正しいなあ、と言う思いの前に、どうしても少し寂しくなってしまう。
けど、篠田はそんな感傷に一切浸らないヤツだった。
「いやあ、恭香は『教えるのも勉強のうち』って言ってたし、第一試験勉強教わったくらいでお礼なんて大げさだって」
笑いながらブンブンと両手を振る。まあ、花園さんならそう言いそうだな。なんだかんだで他の人には優しいのだ、あの人は。
「そうでしょうか……。私、本当にお世話になっちゃったんですけど」
「比奈はなあ。中学の範囲から全部やり直してたしね」
「偉いよ、比奈ちゃん」
篠田が話を合わせてくれる。篠田がアメノヒが幼馴染みではない事に気付いた事、それをアメノヒに黙っている事、アメノヒに関する一切の不自然な所には目をつぶる事。これはあの日、僕が篠田を拝み倒して、頭を下げまくって約束させた事だ。
今のアメノヒの言葉だって、それに、アメノヒが中学の勉強から全部やっていた事だって、考えてみれば不自然な事なんだけど、そこに突っ込んで欲しくはなかった。
ちらりとホクトの言葉が頭を掠めたようだけど、気にしない様にする。




