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狐はしばらく鳥居の前をうろうろと歩き回った後、また鳥居を見上げ、そのまま動きを止めてしまった。
あまりにもその姿が寂しすぎた。
僕は自分でも気付かないうちに、鳥居の目の前まで歩み寄っていた。
ホクトに何か言葉をかけないと。よく解らない使命感が僕を腹の中から突き動かす。
と、突然の雷の様に、僕の頭上から低い声がした。地面を割る様な、それでいて体の中に入り込んでくる様な、そんな不思議な感じの声だった。
「わしの家だ。荒らすな」
短い言葉だった。短い言葉だし、誰の言葉かも解らない。でも、この言葉がどれだけホクトを傷つけるか、もっと言えばアメノヒを悲しませるか、想像したくもなかった。
もうだめだ。ここにいちゃいけない。今までろくに仕事をしてこなかった僕の本能が、そう言っている。
「ホクト、帰ろう」
気付けばホクトは――目の前の黒い狐は、力なく四本の腕を折って、腹を冷たそうな地面にぺたりと付けてしまっていた。
歩けないんだろう。
僕は静かにホクトを抱き上げると、鳥居に背を向けて、神社の目の前の道を歩き出した。
まんまるの月も、もう西へ傾きかけていた。




