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ホクトの握る力が、少し強くなった。
「手を繋いだまま、鳥居を通るぞ」
ホクトの短い指示が飛ぶ。けれど、その言葉だけでは僕は全く理解出来なかった。
「手を繋いだまま……? 何かそれって意味あるの?」
「貴様はこの鳥居を通れるんだろ? 私は通れない。じゃあ、次に二人一緒に通る事を考えるのが自然な流れじゃないか」
おお、ホクトが頭使ってる。珍しい事もある物だ。
僕が感心していると、ホクトは更に言葉を続けた。
「これはある種の結界なのだ。霊力を使って、外の世界と結界の内とを分けるための物だな。
でも、現にこの神社へ参拝する人はいるみたいだし、現にお前もそこを通れていた。つまり、この結界を張ったヤツは、物理的には何もしようとしていない」
物理的に、の言葉を聞いて、僕はふと自分の手を握るホクトの手を見た。タンクトップから伸びる真っ白な腕が、月の光を受けて青白く浮かんで見える。
霊力とは、つまり物理法則とは無関係な所にあるんだな。今の僕には、その程度の理解しかなかった。
「つまりは、私たち、この神社の狐達だけを閉め出そうとして、張られた結界だと言う事だ」
ホクトの声は、一生懸命感情を抑えている様に聴こえた。
「でも、だ。私と貴様が一緒にこの鳥居をくぐろうとして、もし、私も一緒にこの鳥居の向こう側にくぐれたとしたら」
木々のざわめきが静まっている。ホクトは迷うみたいに言葉を切って、小さく息を整えた。それくらいの音までも僕の耳まで届いた。
何か声をかけた方が良いんだろうか、と僕が思い始めた時、ようやくホクトは小さな言葉を紡いだ。
「……良いんだけどな」
迷った末に、ホクトの口から出たのはそんな言葉だった。それが、なんだかよく解らないけど、僕には無性に悲しい事の様に感じられた。
ホクトは、夢を呟いたのだ。
小さな夢だけど、叶えられない夢。
僕は今、その夢に付き合おうと思った。ここに来る前からそれは決まっていた事だったけど、何も知らないで付き合うのと、自分でその意味を噛み砕いて、腹を決めて付き合うのとは、訳が違うだろう。




