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ひゅー、と細い息を吸って、吐いて、僕はホクトに問いかけた。
「ホクト、なんの用なんだよ、こんな時間に」
「お前に訊いておきたい事がある」
ホクトは仁王立ちになったまま、こちらを振り向いた。ふわり、と吹いた涼しい夜風に、長い後ろ髪が大きく靡いた。輪を描き、思い思いの方向へと跳ねながらも、風が止むと元の艶やかなストレートへと戻って行く。
ホクトはもったいを付けたいのか、なかなか「訊きたい事」とやらを言い出さなかった。澄んだ夜の暗闇の中で、なにやらもごもごと口籠っている。
こういう所、ホクトはどもってしまうのだ。いつもはあんなにあんなに憎まれ口を叩くくせに。
「何の用なの? 屋根の上に呼び出すなんて」
僕はもう一度尋ねた。
アメノヒは薄い瞼を閉じて、しばらく黙ったままだった。でも、少しそのままでいたかと思うと、今度はかっと目を見開いた。
まるで月を移し込んだみたいに輝く濡れた瞳が、僕の目を捕らえて放さない。僕も負けじと、ホクトの目の中を覗き込んだ。
ホクトの目が一瞬、花火の様に明るく輝いた。
「貴様は、伏見善太朗は、アメ様と……、その……だな…………、添い遂げる覚悟が…………あるのか?」
「……え?」
どもりながらもホクトは「訊きたい事」を言い切ったみたいだった。……添い遂げる? 今この人、添い遂げる覚悟が云々とか言わなかった?
でも、ホクトは至って真面目な様で、ぴくりとも笑わずに僕の顔を睨みつけている。きりりとした目鼻立ちのホクトだから、こう言う顔は本当に魅力的なのだ。
でも、残念ながら、そんな事を考えている場合じゃない。
「添い遂げるって言うのは……?」
「文字通りの意味だ」
ホクトの声は僕を少し突き放すみたいに聴こえた。さっきまであんなに言い辛そうにしていたのに、今の言葉はあまりにもよどみない。
風が、早く答えろ、と僕を急かすみたいだ。
「僕は、アメノヒと添い遂げるつもりは無い」
「なっ!」
ホクトは目を剥いた。物凄い形相で僕を睨みつけると、
「貴様、本心かそれは」
と低い声で言った。一瞬、風に獣の匂いが混ざった気がした。
「ああ、本心だよ。逆に、僕がアメノヒと添い遂げたとして、アメノヒは幸せなの?」
僕の問いかけに、ホクトは何かを言おうとして、でもそれを吐き出す直前でどうにか飲み込んだ。吐き出されなかった言葉を長い息にして吐き出すと、ホクトは長い語りを始めた。




