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皆との勉強会もお開きになった、その日の夜の事だ。
草木も眠る丑三つ時。
「おい、起きろ!」
どこかで僕を呼ぶ声がするぞ……。
「おいっ! 起きろって!」
少し潜めた声だ……。少し熱っぽい息が、耳に触れる……。
うっすらと目を開けると、押し入れの扉が開いていて、ぼんやりと月の光が射し込んでいる……。ごそごそと人影が動いた……。
……眠い…………。
「起きろって!」
「うわあっ!」
「しっ!!」
急に体を揺すられて、僕は押し入れの中で飛び起きた。暗闇でも、その小さな声で、目の前にいるのはホクトだと解った。押し入れは案外高さがあるから頭をぶつけることは無かったけど、代わりにホクトの手に口許を覆われた。
「アメ様が起きてしまう。静かに。いいな?」
「……」
僕はホクトの手に口を覆われたまま、こくりと頷いた。それを見ると、ホクトは僕に、あごをしゃくって窓の外へ行く様に命じた。
布団の中ではアメノヒが優しい笑顔で眠っていた。ほっそりとした白い指が掛け布団の端っこを握り込んでいる。時折、狐の耳がぴくぴくと動いている。すーすー、と健やかな寝息を立てるアメノヒを起こさない様に気を付けながら、僕はホクトの後を追った。二階にある僕の部屋から、ホクトは身軽に屋根の上へと登って行った。
「おいっ。危ないんじゃないか?」
「大丈夫だ。いざ落ちそうになったら、私が助けてやる」
ホクトの頼もしい声を聴いて、僕は窓枠に足を掛けた。そのまま屋根へ手を掛け、腕力で体を持ち上げる。
ぐいっと頭を持ち上げると、僕のからだは案外簡単に屋根の上へと辿り着いた。
見慣れない夜の街を見渡す。
夜の屋根は、まるで砂漠の丘だった。
重なる屋根屋根の模様は、まるで風紋だ。
初夏にしては珍しく晴れ渡った夜空に、無数の星がはめ込まれている。ちょっとでも突けば、星の雨が降りそうだ。
星々を支える様に、ホクトは屋根に二本の足を踏ん張っている。ホットパンツから伸びたすらりと長い足が、タンクトップから伸びる真っ白な腕が、夜の帳の中で一層しなやかな力を持って見えた。
しばらく、息が止まっていたのに気付かなかった。
これから数話、シリアス展開が続きます。
ですが、ハッピーエンドを絶対にお約束致しますので、どうかこれからもこの作品にお付き合いをよろしくお願い致します。




