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「…………」
思いのままに言葉を吐き出したから、こいつの前で「アメノヒ」と言ってしまったらしい。でも、これ以上嘘を吐いたって、篠田には解ってしまうんだろう。
「ああ」
「そうか」
それだけ言うと篠田は腕を組んだ。
「アメノヒ……、やっぱ俺には馴れないな。比奈ちゃんは悲しむのか? 俺がこれをばらしちゃったら」
想像してみる。アメノヒの霊力は人一人くらいなら思った通りに操る事が出来た。高校へ転入する時に、その力にはお世話になったのだ。
だから、篠田の記憶を弄くる事だって、もしかしたら、お茶の子さいさいなのかもしれない。
でも、アメノヒが普段耳を隠している理由を、尻尾を隠している理由を、人の姿でいる理由を考えたら、アメノヒの悲しむ姿はすぐに想像出来た。
濡れた瞳が、すぐ目の前に見える気がした。
「ああ。悲しむよ」
「そうか」
また篠田は短く返事をした。
「女の子を悲しませるのは、俺の趣味じゃねえな」
「花園さんに聞かせてあげたいよ」
さっきまでの空気が消えていた。だから篠田も軽口を叩くし、僕もそれに乗ってやる。
ただ、空気が軽くなったって、僕のしなければならない事は決まっていた。
それを忘れたわけじゃないんだ。




