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つまり、花園さんは、さっきの僕のささやかな歓びを「所帯染みてる」とおっしゃるのか。……思い返してみると、確かにそうかもしれないなあ。
「どう思う? 比奈?」
アメノヒの方を振り返ると。
「え? え? 私が善太朗さんと……所帯? …………所帯ですか!?」
きっかり五秒沈黙すると、ぼん、と爆発したみたいに真っ赤になった。
「私が善太朗さんと一緒になるってことですか何言ってるんですか恭香さんいくら恭香さんでも言って良い事と悪い事がああああ」
ブンブンと手を振り回し、珍しく取り乱している。柔らかい金色の髪もふさふさと揺れて、アメノヒの良い匂いがする。ああ、こんなアメノヒも可愛いなあ、と思って見ていたんだけど……。こんなアメノヒを見ていたら僕まで恥ずかしくなって来ちゃった。
「ちょっと花園さん僕とアメ……比奈が所帯染みてるとか恥ずかしいじゃないか篠田!!」
「ああもう解ったから。ごちそうさま」
花園さんはちょっと肩をすくめると、ぱんぱんと手を叩いた。
「テストも近いんだし、勉強を始めましょう」
「はーい」
仕方なく、と言う表情で、篠田がソファからずるりと滑り落ちた。足の低いテーブルにみんな散らばって、教科書とかノートを開く。
なんと言うか、花園さんって「お母さん」って感じの所あるよね。ああ言う言い方をされると、勉強を始めなきゃ、って気持ちになる。自由人みたいな篠田も、案外そう言う事を言ってくれる人にそばにいて欲しいのかもしれない。
……そばにいて欲しい、って気持ち、かあ…………。
僕は頭を振って、目の前の問題集の事だけを考える様にした。
しばらく、紙を捲る音と鉛筆の音だけの時間が流れる。




